家族の絆
























アスランはシャトルでフリーダムに護衛され、ヤキンドゥーエの正面から入っていった。一方はアスランより先に、ヤキンドゥーエにある“穴”から潜入した。そして、目的地へと真っ直ぐ走る。息を弾ませ、震える指でインターホンを鳴らした。出てきた人を押し込むようにして中には入り、静かにとサインする。


、どうしたというの・・・!?」

「手荒な真似をしてごめんなさい。時間がないの」

「・・・?」

「話を、しにきました。・・・ミゲルの、最期の」


カルナがはっと息をのんだ。動揺を落ち着かせたのを確認すると、は静かに口を開いた。


「ミゲルを討ったのは・・・私の弟です」

「え・・・?」

「ヘリオポリスで、あの子は、キラは、友達を守る為にやむを得なくストライクに乗った。そして、ミゲルと戦った」

「・・・・・」

「私はミゲルとキラを天秤にかけることができなかった。私が、私がキラを討てていればミゲルが死ぬことはなかったかもしれない。私が・・・っ」


いつの間にか、の目からは涙がこぼれ落ちていた。言っても仕方のないことを言いながらただただ苦しんでいるを、カルナがそっと抱きしめた。


「・・・いいのよ、

「え?」

「そんなに一人で抱え込んで苦しまないで。ミゲルは、戦って死んだのでしょう?なら、あの子だって本望だったと思うわ」

「・・・」

「だから、弟を殺せばよかったなんて、言わないで」

「!」


カルナはに実の弟妹がいることを知っている。だから、親友のために弟を殺せば良かったと言うが耐えられなかった。


「大丈夫、大丈夫よ、

「う・・・うう・・・」


溢れ出る涙は止まらない。カルナはそっと、の背中を撫でていた。














が落ち着いて、急ぎ脱出をはかることになった。入るのは容易でも出るのは簡単ではない。まずはアスランと合流しなければ。


「・・・それじゃ」

、最後にひとつだけ」


カルナはもう一度を抱きしめ、そして言った。


「あなたとは血はつながっていないけれど、前にも言ったように、私は本当の娘だと思っているわ。ミゲルと結婚して、本当の娘になってくれたらいいのにと思っていたくらい」

「えっ?」


カルナの発言に、が動揺の声をあげる。カルナはふふっと笑って続けた。


「ミゲルね、あなたのことが好きだったのよ。家族ではなく、ひとりの女の子として」

「そ、んな・・・私・・・全然気付かなかった・・・」

「ミゲルもアピールしようとはしなかったもの。家族でいいんだって、言ってね」

「・・・・・」


再び涙腺がゆるみそうになるのを、は必死に堪える。死して初めて想いを知ることになろうとは。


「だからってわけじゃなくて、本当に、私が思っていることなんだけれど・・・あなたの家は、ここだから。いつでも、帰ってきてね。絶対に」

「・・・っ」


は歯をかみしめ、こらえた。ふたりの身体が離れ、がドアノブに手をかける。


「“いってらっしゃい”、

「・・・いってきます・・・“お母さん”」

「!」


すぐさまドアが開き、金の髪を揺らしての背中が外へと飛び出す。残されたカルナは、玄関に座り込んで、涙を流した。


「初めて・・・母と呼んでくれわね、・・・」


喜びをかみしめながら、カルナは“娘”の無事を祈った。




















必死に走り、走る。アスランは評議会だろう。足がもつれそうになりながら走っていると、急に目の前に車が停まった。ばれたか、と焦りを浮かべただったが、降りてきた人物に目を瞠った。


「乗ってください、さん!」

「ん、な・・・ダコスタくん・・・!?」

「はやく!」


地球で別れた彼がなぜここに、罠か、と一瞬思ったが、すぐにかぶりを振る。なぜだか信じられた。そして車に乗り込むと、そこにある人物にまた驚く。


「アスラン!無事だったの・・・って無事でもない?」

「なんとか無事、ってとこだな」


苦笑してみせるアスランは腕を吊っていた。また怪我をしたらしい。


「まぁ、生きてるし動けるから大丈夫ってことにしておくわ。それでダコスタくん、一体・・・?」

「いわゆる、クライン派というやつです」

「・・・ラクスは、無事なのね?」

「えぇ、お元気ですよ」


よかった、とが息をはいた。そこからすぐさまはワルキューレへ移動、彼らはシャトルに乗り込み、宇宙へと飛び出した。飛び出した先には、桃色の戦艦。


「あれは・・・?」

『隊長!』

「え・・・」


ダコスタが「隊長」と呼ぶ人物は一人しかいない。は気が高揚するのを己の身で感じていた。


「アンディ・・・?」

『お前さんも無事でなによりだ、

「アンディ・・・!!」


死んだと思っていた大切な人が、生きていた。は喜びに、涙と、大きな笑みを浮かべた。後部ハッチから桃色の戦艦―エターナルへ入艦する。エターナルは宇宙艦の中でも超高速で、速度を誇るヴェサリウスでもそのはやさには追いつけない。ヤキンドゥーエへ一気に飛び込んだ。ブリッジにつき、まずラクスと対面する。

「ラクス!無事で良かった!」

「ご心配をおかけしてすみません、。アスランも、ご無事でなによりです」

「ラクス・・・」

「俺には心配無しか?

「っ」


ラクスに声をかけていると、前方から身に染み込んだ声がきこえてきた。


「アンディ・・・」

「どうした?もっと喜ばれるかと思ったが?」

「うちひしがれてるのよ・・・!」


床を蹴り、バルトフェルドの胸に飛び込む。瞬時にその片目と片腕と片脚がないことに気づくが、生きているということにかわりはなかった。


「・・・アイシャ、は」

「残念ながら、だ」

「・・・そっか」

「だが、俺は生きてる。・・・アイシャのぶんも、生きるさ」

「・・・うん」


溢れそうになった涙をぬぐい、前を見据える。まだ安全になったわけではない。ヤキンドゥーエの防衛戦を抜けなければ話にならないのだ。防衛隊はその数50。


「この艦にMSは?」

「私にはワルキューレがあるから出る!」

「落ち着きなさいって。一人で出てもどうしようもないだろう。そして、MSはあいにく出払っててねぇ。この艦は、フリーダムとジャスティスの専用運用艦なんだ」


思わずアスランの口から「は?」と上がる。もそんなものがあるのかと驚いていた。ラクスは回線を開き、ザフトへ訴えかける。だがさすがに聞き入れるわけがなく、やむなく戦闘に入った。小回りのきくジンと、スピードはあっても小回りのきかない戦艦では分が悪かった。もどかしさを抑えながら、外の光景を目に映す。ミサイルの直撃を、回避することができない。みなが息を飲んだ、その時。ミサイルを、ビームが撃ち抜いた。


「キラ!?」


フリーダムが突如飛び出し、援護に入った。


「えっ、キラ、待ってたの・・・?」

「戻るように行ったんだけどな」


アスランが苦笑した。まったく、と呆れの声もきこえてくる。フリーダムの加勢により、小回りの心配が改善された。これで一気にヤキンを突破できるだろう。


『こちらフリーダム、キラ・ヤマト!』

「キラ!」

『ラクス・・・?』


キラは通信を入れた先でラクスの姿を見て目を瞬かせた。


「よう、少年!助かったぞ」

『バルトフェルド、さん・・・?』


そしてバルトフェルドの姿に目を見開く。その様子に、バルトフェルドは笑みを浮かべていた。


















エターナルはアークエンジェル、クサナギと合流し、バルトフェルドらはマリューらと対面した。


「初めまして、というのは変かな。アンドリュー・バルトフェルドだ」

「マリュー・ラミアスです。しかし、驚きましたわ」

「お互い様さ。な、少年?」


バルトフェルドがキラに顔を向けると、キラは曇り顔となった。


「あなたには、僕を討つ理由がある・・・」

「戦争の中だ。誰にでもそんなものはあるし、誰にだってない」

「・・・ありがとう」


わだかまりはあるかもしれない。だが、それをも抱え、打ち払って、前に進みゆくのだ。同じ未来を望む者たちで。


















キラはラクス、アスランはカガリのそばにいて、バルトフェルドは今度の作戦会議。はどうしたものかとただアークエンジェル内を漂っていた。人に漂っていたは不適切かも知れないが、半無重力空間では致し方がない。不意には、懐から二枚の写真を取り出した。家に戻ったとき持ち出した写真。女性と、赤ん坊が二人、そして小さな少女の写真。もう一枚も四人の写真。女性と、ちいさな少年と、少し大きい少年少女。どちらも大切な家族で、の守りたいもの。はその二枚を胸に抱き、そしておなじくその懐にしまっていたものを出した。紫の石と少しの装飾のついたピアス。お守りだと、プレゼントしてもらった大切なもの。


「・・・イザーク・・・」


彼は今、どうしているだろうか。何を思っているだろうか。近くて遠い場所にいる彼の身を案じ、は窓から見える宇宙そらを見つめた。




















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