きょうだい
無事宇宙に到達できたアークエンジェル、クサナギは、今後について話し合うこととなった。マリューとムウがクサナギへ移動するシャトルにも乗り込む。フリーダムとジャスティスはひとまずクサナギに入り、キラたちはカガリの元を訪れた。父との急な別れを心配しての行動だった。キサカに案内されてブリッジについたマリューたちは、補給路などを話し合う。そこへカガリとともにブリッジにやってきたアスランが、設備が生きているコロニーもあると話した。補給はそこらからすることで決定となったが、そこでムウが、別件について口を開いた。
「しかし、本当にいいのか?君は。無論、君だけじゃない。もうひとりの彼もだが」
アスランと、ディアッカのことだ。
「オーブでの戦闘は俺も見てるし、状況が状況だしな。着ている軍服にこだわる気は無いが・・・」
「私も、だしね」
はオーブから支給されたものを着ていない。プラントから降りてきたとき同様の緑の軍服を身にしている。ムウがそれに頷き、続けた。
「この先状況次第では、ザフトと戦闘になることだってあるんだぜ。オーブの時とは違う」
ザフト、と言われて真っ先に浮かんだのが銀の髪で、はどうしたことかと苦笑した。
「そこまでの、覚悟はあるのか?君はパトリック・ザラの息子なんだろう!?」
「誰の子だって、関係ないじゃないか、アスランは・・・」
それに口を開いたのはアスランではなく、カガリだった。あんなことがあった直後だからだろう。だがそれをムウは一蹴する。
「軍人が自軍を抜けるってのは、君が思っているより、ずっと大変なことなんだよ。ましてやそのトップにいるのが、自分の父親じゃあ」
キラとの視線が、自然とアスランに向く。俯いているアスランにかける言葉は、今のところ無い。否、あるが、「自分がどうしたいのか」と言うほかないのであった。
「自軍の大義を信じてなきゃ、戦争なんてできないんだ!それがひっくり返るんだぞ。そう簡単にいくか。彼はキラと違って、ザフトの正規の軍人だろう!」
ムウの視線が、アスランに向いた。アスランもまた、ムウを見る。
「悪いんだけどな、一緒に戦うんなら、あてにしたい。いいのか?どうなんだ!?」
「・・・・・オーブで・・・いえ、プラントでも地球でも、見て、きいて、思ったことはたくさんあります。それが間違ってるのか、正しいのか、何がわかったのかわかっていないのか、それすら、今の俺にはよくわかりません。ただ、自分が願っている世界は、あなたがたと同じだと、今はそう感じています」
それはアスランの意思表示。ふっとムウが笑いを見せた。
「しっかりしてるねぇ、君は。キラとは大違いだ」
「えっ?」
急に自分に向けられて、キラが驚きの声を上げる。そして苦笑してアスランを見た。
「昔からね」
アスランの言葉に、マリューやも笑みを浮かべる。
「俺たちが、オーブから託されたものは、大きいぜ?」
「えぇ」
「こんなたった二隻で、はっきり言って、ほとんど不可能に近い」
「そうね」
ムウの言葉にマリューが相槌を入れながら、みな静かにきいている。
「でも、いいんだな」
「信じましょう。小さくても、強い火は消えないんでしょう?」
「・・・プラントにも、おんなじように考えている人はいる」
「ラクス?」
アスランの言葉に、キラが瞬時に名を出す。
「彼女はいま、追われている。反逆者として。俺の、父に」
「・・・」
の目が伏せられる。反逆者とされたのは、フリーダムとワルキューレをキラたちへ引き渡したからだ。それでも彼女は彼女たちの大きな意思のもとで動いていると信じている。いまは彼女の無事を、信じるしかなかった。
一時解散となり、はキラたちの準備が終わるのを待っていた。マリューたちは先にシャトルで戻り、はキラとアスランのどちらかに乗せてもらおうと思っているのだ。ドッグが見えるその休息所にキラとアスラン、カガリがいると聞いて、もそこに入った。三人の姿を見つけて寄ろうとしたが、そのただごとではない空気に、一瞬止まる。
「・・・?」
声をかけてきたのはアスランだった。そして、キラとカガリもを見る。は三人によっていき、キラの手に一枚の写真があることに気づいて、目を瞠った。
「キラ、それ・・・」
「は、知ってるの?これ・・・」
「・・・それ、もしかして、ウズミ様が?」
こくん、とカガリの首が動いた。は口を引き結んだあと、大きく息を吸い、吐いた。
「・・・私と、キラと、カガリ・・・三人は、きょうだいよ」
「・・・っ、じゃ、あ」
「それでも、カガリのお父さんはウズミ様。それに変わりはないわ」
「・・・・・」
目に涙を浮かべ、カガリが俯く。そこへは、「本当は」と続ける。
「本当は、私たちは出逢うはずはなかったの。きょうだいだと知ることもなかった。けれど、時の悪戯か、運命か、私たちは巡りあった・・・戦いの最中ではあるけど、私はこうしてキラとカガリに再会できて、嬉しいと思ってる」
「・・・・・」
「けど、どうして・・・それに・・・」
キラが自分の手を見つめた。自分はコーディネイターで、カガリはナチュラル。なぜ自分だけコーディネイターなのかという疑問。
「詳しいことは・・・ごめん。今話しても、うまく消化できないと思うし・・・正直、話すつもりは、無い」
「おい、・・・!」
「ごめんアスラン、これだけは、譲れないの。本当に」
たしなめるようなアスランの声も振り切り、は目を伏せた。これ以上考えても仕方がない。今はただ、託されたものを背負って進んでいくのみなのだ。
カガリを一人にしておくのも酷かと思ったが、一緒にいてもあれこれ考えてしまうだろう。三人はAAへと戻ることにした。戻る手段のないは、アスランと共にジャスティスへと乗り込む。
「・・・なんでこっちなんだ」
「キラと二人にされるの、今はちょっとね」
「・・・他人の俺には当然話せない、か」
「他人とか身内とかじゃなくて、これは、誰にも、言う気無いから・・・言えないから・・・」
の表情が曇る。よほど大きなことなのだろ。たしかにこれでキラと二人にするのは危険な気がする。アスランは小さく息を吐き、ジャスティスを発進させた。
「・・・キラ、アークエンジェルへ戻ったら、シャトルを1機、借りられるか?」
『アスラン?』
何を言い出すのか、とシートの後ろにいるも思わず身を乗り出す。
「俺は一度、プラントに戻る」
『え?』
「父と一度、ちゃんと話がしたい、やっぱり・・・」
『アスラン、でも』
「わかってる!でも・・・俺の父なんだ・・・!」
アスランの決意は固い。キラは頷いた。
『わかった、マリューさんたちに話すよ』
「・・・すまない」
「・・・それじゃ私も、そこに加えてもらおうかしらね」
『「えっ?」』
突然のの割り込みに、キラもアスランも目を丸くする。
「私もプラントへ戻るわ。・・・ちゃんと、話しておきたいことがあって」
遠く見ゆる場にうつるのは、金の面影。そして、そばにある紫の瞳。は心に決め、前を見据えた。
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