重傷を負ったは、艦が本国に戻ると、ガモフの医務室から軍病院へと移された。見舞いに来たミゲルの母・カルナと弟・ユイルには泣きそうな顔をさせてしまった。ユイルは実際に泣いていたか。それでも「無茶をするな」「軍を辞めろ」などと言わないのは、カルナがの想いをわかっているからだった。初めは、病気であるユイルの治療費を稼ぐ為だった。それがいつしか拡大し、カルナやユイル、大切な人達がくらすプラントを守る為に、は戦っているのだった。
一ヵ月もすれば自力で歩けるようになっていた。さすがにまだ内臓に響くので動き回れるわけではないが。時々、クルーゼ隊のメンバーが見舞いに来てくれる。休暇中にまで来るときは、ちゃんと休めというのだが、あまり聞き入れてもらえない。今日は大体来る時間になっても誰も来ないから平和かな、とベッド脇の机から本を取ろうとしたら、部屋のドアが来客のブザーを鳴らす。
「・・・どうぞ」
本を諦めてドアに声を掛けると、ドアがスライドされて人影が姿を現した。非番なのだろう。私服姿の銀髪がコツコツ足音を立てながらベッドに近寄って来る。
「どうだ?調子は」
「良くはなってるわよ」
「・・・そうか」
イザークは小さく息をつくと、机の上の花瓶を手にした。「さっき看護師さんがかえてくれたばかりよ」と言うと、「そうか」と相槌を打って花を花瓶に活ける。
「イザーク、非番の時くらいちゃんと休みなさいよ?」
「休んでるさ」
椅子に座りながらイザークは答える。本当かなぁ、とは目だけで訴えかけるが、彼は気にも留めていなかった。
「そっちはどうなの?調子は」
「あぁ、大分慣れて、作戦もスムーズにいくようになってきた」
「それはなによりね」
後輩の成長に満足げに頷く。傍で見てあげられないのが残念だが、自業自得なのだから仕方がない。
「、俺は・・・」
あの出撃前に敬語を外させ、先輩呼びも止めさせた。ん?とが首を傾げて、イザークの次の言葉を待つ。だが次の音は、イザークの声ではなかった。
「よぉ、入るぜ」
「・・・入ってから言うもんじゃないわよ、ミゲル・・・」
シュッとドアが開き、ミゲルが入ってくる。呆れたように息をついてイザークに目を戻すが、なんでもない、と言葉を途切らせてしまった。
「邪魔したか?」
「いや、大丈夫だ」
ミゲルの言葉にイザークがかぶりを振る。何だったんだろうと思うが、続きは聞けそうにない。
「、お前の機体、再製造は時間かかるってよ」
「あらー・・・まぁ、特殊な部品使ってるから仕方ないわね。どっちにしてもすぐには使えないし、問題ないわ」
残り一ヵ月大人しく療養していなければならないのだから。
「・・・、お前、病室にダンベル持ち込んでないよな?」
「え゛」
ミゲルの問いただしに、思わず冷や汗が浮かぶ。なぜ、ばれた?
「担当看護師さんが、水の入ったペットボトルが必ず何本かあるのよねーまさか筋トレしてるんじゃないわよねー、って言ってたぞ」
「あー・・・」
弁解の余地も無い。ソレの目的までばれている。
「お前なぁ、仮にも重傷人だろ?大人しくしとけよ」
「だ、だって暇だし、腕はもう何ともないから大丈夫かなって・・・」
「腹はまだ痛ぇくせに」
「う・・・」
内臓はまだ治りきっていない。変に力が入ると「イタタ」となるのだった。
「お前からもなんか言ってやれよ、イザーク」
「隊は俺たちに任せて、今はちゃんと休め、」
「おぉっ、言うなぁ、イザーク」
ふんっと鼻を鳴らすイザークの様子には苦笑した。はーいと言いながら、心中で良かったとほっとする。イザークがまだ気にしていたら、と思ったのだ。とりあえず立ち直ってくれたようで安心した。
数日後にボトルダンベルで筋トレしている所をミゲルに見つかり、没収されてしまう。
「だって身体が鈍っちゃうんだもの!」
という訴えは聞き入れてもらえるわけが無かった。
――――――
ミゲルのお母さん、弟の名前は捏造です。