アスラン
連合のMS部隊を蹴散らしながら、オーブのMS部隊の援護、AAの援護をしていく。と、そこへ、見慣れない型のMSが三機、現れた。ストライクらの新型とでもいうべきか、量産型とも違う、新しいMSだ。そちらはキラとムウに任せ、はAAのそばにいた。とにかく連合は量でくる。全部を相手にするのは正直手厳しかった。
「こんの・・・!」
マルチロックオンで多数の敵をおとしていくが、それでも手がまわらない状態。AAも何発か被弾していた。とそこへ、一筋のキャノンがAAの横を過ぎ去り、連合の機体を撃ち落とした。
「今の、って・・・」
明らかに遠くの地からの砲だった。ストライクは現在エールタイプで、あれほどの火力はない。フリーダムは二機を相手にしているからこちらにかける余裕は流石にない。とすれば、答えはひとつしか浮かばなかった。オーブのモルゲンレーテの港に、見慣れた機体がひとつ、いた。
「バスター・・・ディアッカ!」
バスターはAAの周りにまとわりついている機体を撃ち落としていく。
『さっさとそこからさがれよ!アークエンジェル!』
なんで、その疑問が真っ先に浮かんだが、同時には口元に弧を描いた。
「OK!ディアッカはそのまま援護よろしく!バスターが危なくなったらそっちに向かう!」
『ならねぇよ!』
ディアッカの軽口に笑いながらはAAの護衛を続けた。キラは気がかりだが、こっちをおとさせるわけにもいかない。とそこへ、ピピピと電子音がコックピットに響いた。キラが苦戦しているようだ。どうしたら、と判断を決めあぐねていると、敵の銃口がフリーダムを捉えかけた。しかしそれは、突然の乱入者によって防がれた。
「赤い、機体・・・?登録は、ザフト・・・X-O9A、ジャスティス・・・まさか」
は思い当たった一人の人物を思い浮かべて、その名を小さく呟いた。
「アスラン・・・?」
なぜ彼がキラを助けるのか、その心意は彼本人にしかわからなかった。
アスランがキラを助けるというのなら、そちらは任せて大丈夫だろう。なぜ、というのはひとまず置いておくことにする。今はAAの援護に集中しなければ。
「アレは置いておいて大丈夫!みんな、今は自分の戦いに集中して!」
一声いれておけば大丈夫だろう。ジャスティスがフリーダムを援護しているということは理解しているだろうから。二人はさすがというべきか、共闘するのは初めてのはずなのに息が合っている。やがてなぜか、向こうの新型三機は急に引き上げていった。さらに連合軍は撤退の信号を上げ、退却していった。
オーブの地は荒れ、みな疲れ果てていた。だが連合はまた攻撃を仕掛けてくるだろう。補給と休息は必要不可欠だった。キラとアスランを心配しつつ、はバスターのそばへ着陸する。コックピットから降りた彼に笑いかけ、AAが寄せてきたそばに着陸したフリーダムとジャスティスを見る。
「・・・あれって、さ」
「多分、いや、絶対に、アスラン」
「・・・」
やはり思ったとおりで、二機のコックピットからそれぞれが降りてきた。カガリやらが駆け寄り、二人を見守る。キラとアスランが、見つめ合い、そして、歩みだした。突然のザフト兵の登場にオーブ兵が銃を構えると、キラがそれを制す。
「彼は敵じゃない!」
それはキラの心からの言葉で。みな、ただただ二人を見守った。
昔からの親友だった二人。二人は成長し、それぞれの生きる場所で、それぞれの思いを胸に、やがて刃を交えなければならなくなった。互いの友を殺し、自分たちも相うったかのように思えた。その二人がいま、何を思うのか。
(キラ・・・アスラン・・・)
がぎゅっと拳を握る。息を飲んで、二人を見つめる。そこへ飛び込んできたのは、トリィだった。「トリィ!」と声を上げ、キラの肩に降り立つ。そして、キラが口を開いた。
「・・・やあ、アスラン」
「っ・・・キ、ラ・・・」
ぎこちない二人。だが、そこに敵意はなかった。それを感じ取ったカガリが、一目散に走り出す。
「おまえらあああっ!!」
そして、その両手で二人を抱きしめた。その行動にはさすがにも唖然とし、だがすぐに噴き出した。
「ぷっ、あっはははは!!」
「おい、?」
隣にいるディアッカがどうしたのかと驚きの声を上げる。だがそんなものお構いなしに、はカガリと同じように走り出した。
「こんの、馬鹿共!!」
「わっ!?」
「ちょっ!」
「おい!?」
カガリの後ろからさらに抱きしめ、キラとアスランの頭をがしがしかき回した。
「ほんと・・・馬鹿な子たち・・・」
いくつもの障害、いくつもの犠牲を乗り越えたそこには、確かな喜びが生まれていた。
補給や整備を行っている間に、キラとアスランはゆっくり話をすることになった。そこにカガリとも同席し、またマリューやミリアリアらもそれを見守った。連合についても、ザフトについても、ただどちらかと戦うことになる。それではなにも変わらず、なにも終わらない。だからこそ厳しい道でも中立を貫いていく。
「・・・僕は、君の仲間・・・友達を殺した。でも、僕は、彼を知らない」
ニコルのことが頭に浮かび、軽く目を伏せる。そうだ、確かに、戦争をする相手のことなんて、普通は知らないのだ。
「殺したかったわけでもない。・・・君も、トールを殺した」
ここで、アスランが驚きの表情になり、ミリアリアが反応する。
「でも、君も、トールのことを、知らない。・・・殺したかったわけでもないだろう?」
「・・・」
アスランが唇を噛んだ。そして、言葉を紡ぐ。
「俺は・・・お前を、殺そうとした」
「・・・僕もさ、アスラン」
「!」
キラは、いまはフェイズシフトをおとしている機体を見上げた。
「戦わなくて済む世界ならいい。そんな世界に、ずっといられたんなら・・・。でも、戦争は、どんどん広がろうとするばかりで・・・このままじゃ本当に、プラントと地球は、お互い滅ぼし合うしかなくなるよ。だから、僕も戦うんだ」
その表情には切なさが浮かんでいる。
「キラ・・・」
「例え守るためでも、もう銃を撃ってしまった僕だから。・・・僕たちも、また戦うのかな」
「キラ・・・!?」
それは、アスランがザフトに与したまま戦い続けるのなら、いずれまた戦わなければならないということを意味している。アスランもまた、苦悩に顔を歪めた。
「もう作業に戻らなきゃ。攻撃、いつ再開されるかわかんないから」
言ってキラは立ち上がり、歩き出した。
「ひとつだけききたい」
それを制するように、アスランも立ち上がってキラに問いかける。
「フリーダムには、Nジャマーキャンセラーが搭載されている。そのデータ、お前は・・・」
「ここで、あれを何かに利用しようとする人がいるなら、僕が討つ」
それだけ返し、キラは歩いて行った。キラとアスランの対話が終わると同時に、ミリアリアが涙を浮かべて走り出す。それを、ディアッカが追った。ミリアリアとディアッカの会話をきき、アスランが表情を曇らせる。討った相手には親兄弟や恋人がいて、遺族は悲しみに暮れる。そんなもの、とうの昔にわかっていたはずだ。もどかしい思いがただよい、どうすればいいのか考えさせられる。終わらせなければいけないのだ、こんな戦いは。
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