決断の時
ザフトによるパナマへの攻撃が始まったとの報が入った。詳細は不明だが、まずは宇宙への移動手段であるマスドライバーの破壊が目的だと推測される。ザフトも出し抜かれたままで終わりではないから、パナマがおちるのも時間の問題だろう。
はオーブの技術者、エリカ・シモンズに呼ばれていた。そこへ行くとキラ、マリュー、ムウ、カガリの姿もあった。そして通されたところにあったのは、イージスの自爆によって大破したはずのストライクだった。オーブが回収し、修理していたのだという。キラではなくても他のパイロットが乗るのだと見越して。だがキラにはすでにフリーダムがあり、にもワルキューレがある、とそこで名乗り上げたのはカガリだった。
「私が乗る!」
「カガリは・・・うーん」
「なんだ、問題でもあるというのか!?」
問題があるとすれば性格かなとは口に出さない。
「あ、もちろんそっちがいいんならの話だが」
これはマリューに言ったものだ。ストライクは元々は地球軍のものだからであろう。
「いいや、ダメだ」
しかしそれを遮るものがいた。案の定、カガリが「え、なんで!?」と声を上げる。そこでムウは神妙は顔で、言い放った。
「俺が乗る」
「えー!」
カガリが残念だという声を上げるのと反対に、キラとの顔には笑みが浮かんだ。
「少佐!」
「じゃあないんじゃない?もう。マリューさん」
「・・・」
それは、ムウが連合から離れるという決意の言葉。マリューもまた、決断をするときはすぐであった。
ムウがストライク、キラがフリーダムでの模擬戦。相手をキラにと指名したのはムウ本人だったが、キラは少し心配のようである。
『いきなり僕との模擬戦ははやすぎると思いますけど』
『うるせぇ!生意気言うんじゃないよ!いくぞ!』
そして模擬戦が開始された。ムウは初めてMSを動かしたとは思えない腕前である。これにはエリカも感嘆していた。そしても。
「さすが“フラガ”、か」
「え?」
声をもらしたのはマリューだった。を見て目をぱちくりさせている。は彼女を一瞥したあと、またMSたちに目を戻して言った。
「あの人が元々乗っていたメビウス・ゼロ、あれのガンバレルを扱うのは並の人間にはできなくてね。幅広く精密な空間把握能力が必要なの」
「空間把握能力・・・」
「そう。それでその空間把握能力に長けているのが、フラガ家」
「血筋で決まるものなの?」
「とも限らないけど・・・ナチュラルだと、そうなるのかもしれないわね・・・」
はガラス向こうのふたつの機体を見上げた。刃を重ねるごとにストライクの動きが良くなっていく。
「まぁ、あの人の場合は元々パイロットとしての腕もいいし飲み込みもはやいから、ストライクとの相性はいいんだと思う」
「そう・・・」
マリューもストライクを見上げた。その揺れる瞳が何を意味しているのか、それは本人しかわからなかった。
数時間後、全クルーが集められた。現在オーブへ向け、地球連合軍艦隊が進行中である。協力要請を拒否し続けたオーブへ最後通告があったのだ。地球軍に与しザフトと戦うことを拒否すれば、ザフト支援国とみなしてオーブを攻撃する。そのための進行だ。オーブは中立国であることを捨てずそれを貫かんとしているが、このままでは戦闘は免れない。すでに市民への発表は終わらせ、都市街などでは住民の避難が始まっている。
「我々もまた、道を選ばねばなりません」
ここからが、本題の要であった。
「現在アークエンジェルは脱走艦であり、我々自身の立場も、定かでない状況にあります。オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか。命ずるものもなく、また、私も、あなた方に対し、その権限を持ち得ません」
そこで一区切りあった。動揺の声が各所から上がる。
「回避不能となれば、明後日、0900、戦闘は開始されます。オーブを守るべく、これと戦うべきなのか、そうではないのか。我々はみな、自身で判断せねばなりません。よってこれを機に、艦を離れようと思う者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って避難してください」
再び動揺の声。決断はもうすぐそこに迫られているのだ。
「私のような頼りない艦長に、ここまで、ついてきてくれて、ありがとう」
そこでマリューが頭を下げた。心からの礼。退艦したからといって決して責めることはない。だから、各々で覚悟を決めて欲しい。その意もこもっていた。
一時解散となり、各々部屋ないし作業場へ戻っていった。避難時間を考えなければいけなく、退艦を考える時間は一日あるかないか。それでも艦を降りたのはたったの11名らしく、は感心した。決して降りたものを責めるわけではない。だがそれ以上に、これからも共に戦ってくれる者たちがいるということなのだ。裏切った地球軍への怒りと、マリューの人望であろう。捕虜になっていたディアッカも釈放された。避難したかどうかは確認していないが、無事に逃げてくれればと思う。そこからプラントに戻ってザフトに帰属するかどうかはディアッカ次第だ。
そして、0900。戦闘が開始された。アークエンジェルも発進し、応戦する。機体が発進できるところまで来て、MS三機が、AAを飛び出す。
『キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!』
キラとフリーダムが。
『ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!』
ムウとストライクが。
「・
、ワルキューレ、出撃する!」
とワルキューレが、オーブの海戦上に飛び立った。
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