新たなる一歩を
艦長室でコーヒーをいただき、一息つく。それで、とムウがきりだした。
「具体的にはどういうことなんだ?」
「あなたたちが本当に連合から離れるというのなら、私がウズミ様へ繋ぐわ」
「アスハ代表とは、どういうご関係なの?」
「・・・・・」
マリューの問いには口をつむぎ、ごまかすように苦笑して言った。
「ちょっと、ね」
「・・・そう」
「ごめんなさい、これは個人的なことだから」
「まぁ、そこは置いといてだ。本当にアスハ代表に繋げて、助けてもらえるのか?」
「完全な保証はできないけど、大丈夫だとは思う。キラも、いるし」
「キラくん?」
「・・・いや」
なんでもないとまたは口を閉ざした。
「けどまぁ、これで手はできてきたわけだ。応急処置が終わったらオーブへ向かおうじゃないか」
「そう、ね・・・」
「・・・」
マリューの様子はいささか不安だが、もう少し踏ん切りがつかないのだろう。決意してくれることを願いながら、は次の手を出すのであった。
応急処置が終わり、磁場の歪みが落ち着いた場所へと移動する。オーブに通信を合わせ、繋いだ。
「さん、それは・・・?」
「ウズミ様の個人コード」
「えっ!?」
「ウズミ様、今大丈夫ですか?外部からすみません、です」
マリューの驚きもそっちのけで、はさっさとウズミへ通信をつなげてしまった。
『・・・?なぜ、アークエンジェルに・・・』
「色々と事情がありまして。アラスカのことはききましたか?」
『あぁ・・・。アークエンジェルが無事でなによりだ』
「ありがとうございます。それでひとつ、お願いがあるのですけど」
『・・・わかった』
要件を言う前にウズミが頷き、の顔に笑みが浮かぶ。
「ありがとうございます、ウズミ様。・・・キラも無事だと、カガリとご両親に伝えてあげてください」
『!・・・そうか、わかった。迎えを出すから、領海に入るところで待っていなさい』
「はい、お願いします」
そこでプツリと通信が切れる。会話をききながらヒヤヒヤしていたのか、マリューが大きな息を吐いた。ムウもすごいものを見たように息をつく。
「もう一度きいていいか?」
「何?」
「アスハ代表って、お前にとってなんなんだ?」
「・・・そうねぇ・・・」
は一度きって、うーんと当てはまる言葉を浮かべた。
「おじさまみたいな人、かな?」
その発言に、ブリッジのクルーはに対して謎を深めたのであった。
やがて飛空艇が迎えにきて、AAは無事にオーブのカーペンタリアに着艦した。は「あとは任せた」とマリューたちに任せ、キラと共に艦内を歩いていた。
「疲れた?安心?」
「両方、かな・・・」
「キラ!」
そこへ、覚えのある声が背中を押す。反応して振り向いた時にはその身体がキラに体当たりしていて、二人そろって床に転がった。オーブの白い、位の高い軍服をまとった金の髪の少女、カガリだった。
「あらー・・・」
は衝撃的な再会にただ呆れていた。
「このばかぁ!」
ダンッダンッとカガリがキラの胸をたたく。さすがのキラもそれは痛くて呻いていた。そして、カガリの目から涙が溢れ出す。
「死んだと思ってたぞ!この野郎!!」
「・・・ごめん」
そんな光景を、はなんとも言えぬ顔をして見ていた。
キラとカガリを見送り、はまた艦内を歩いていた。キラと一緒にいたところでカガリに怪訝そうな顔をされたが、説明はキラに任せると言ってあるから大丈夫だろう。不意にの目に入ったのは茶のくせっ毛、ピンクの軍服の後ろ姿だった。この艦内でその軍服を着ているのは、今は一人しかいない。は歩み寄って声をかけた。
「ミリアリア?」
「あ・・・さん」
「それ、どこか持って行くの?」
ミリアリアの手には一人分の食事があった。だいたいのクルーは食堂で済ませるし、も先ほどいただいた。
「これは・・・捕虜ので」
「捕虜・・・?って、まさか」
「ザフトの捕虜です。バスターの」
「ディアッカ!?」
の剣幕にミリアリアはびくりと震え、「え、えぇ」と答えた。の顔が晴れるのを、ミリアリアは瞬時に読み取った。
「よかった・・・ディアッカ、無事だったんだ・・・」
「そっか・・・仲間、ですもんね・・・」
「えぇ」
これで生存が確認できたのはキラ、イザーク、ディアッカ。残りはアスランだ。
「それ、私も行っていい?」
「あ・・・はい」
ミリアリアはなんだか元気がないようだが、相手はザフトのコーディネイターで捕虜だ。無理もないのかもしれないと思い、同時になぜそんな相手にミリアリアが食事を持っていくのだろうかと、小さな疑問を抱いていた。
独房はやはりどこも暗いようだ。格子の中の薄暗い場所だと、金の髪はともかく浅黒い肌は見えにくかった。ミリアリアの後ろ、ちょうどディアッカからは見えない位置では待った。
「食事よ。ごたごたしてたの。遅れてごめん」
とミリアリアが格子の下からトレイを入れる。ぽかんと、そんなミリアリアを見る顔がなんだかかわいいものに見えて、は首をかしげた。この二人、何かあったのだろうか。
「なによ?」
「あ、いや・・・まさか、お前が持ってくるとは思わなかったからさ・・・」
やはりディアッカがなにかしたのだろう。やれやれ捕虜になってもこいつは、とは知られぬところで呆れた。
「お前?」
だがミリアリアが反応したのはそこではなかった。
「すいません、あなた様」
またお調子者の口が茶化す。これで喧嘩になったりしないだろうかと少しはらはらする。だがやはりミリアリアの様子は少しだけおかしかった。
「・・・ミリアリアよ。あんたじゃ、ないんでしょ」
「へ、へぇ、名前で呼んでいいのかよ?」
「いーや!」
会話の内容はイマイチわからないが、それほど険悪というわけでもなさそうだ。
「って、おいまてよ!」
去ろうとするミリアリアをディアッカが止める。
「この艦どうなってんだよ。なんで俺は乗っけられたままなわけ?その上そのまま戦闘なんて、まともじゃないぜ」
「わかってるわよ!でもしょうがないじゃない」
「ここはどこだよ。俺はいつこっから出られるんだよ?」
「オーブよ。でも、私たちだって降りられないんだもん。あんたのことなんて知らないわよ。・・・さん、あとお願いしますね」
「了解」
「っ、はぁ!?、って」
今度こそ去っていくミリアリアの背中をかろうじて見送り、ディアッカは続いてミリアリアの後方にいた人物に目を向けた。にこっと笑って手を振るその姿は、緑の軍服、髪は短くなっているにしてもやはり覚えのある人物で、ディアッカは目を瞠った。
「な・・・んで、お前・・・つか、生きてたのか・・・」
「それはこっちの台詞よ。さっきまで死んだと思ってたんだから」
「お前、なんでふつーにそこにいるわけ?なんで緑?髪は?」
「一度にきかないでよ、ていうか答えるのめんどくさい」
「あのなぁ・・・」
はー、とディアッカが呆れて大きなため息をついた。そのままずるずると座り込んでいく。はその格子の前にしゃがみこみ、ディアッカと目線を合わせる。
「話しましょ。別れている間、何があったのか」
ディアッカが顔を上げて苦笑した。もにこりと笑い、「ミリアリアのこともきかせてね」と言うと、ディアッカの口がひくりと引きつった。
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