白と金、戦場への帰艦






















アラスカは、酷い有様だった。地球連合軍は捨て駒を残してアラスカからすでにパナマに向かって出ていたため、戦闘力はたいして残っていなかったのだ。アークエンジェルも奮闘しているが、この差はなかなか埋められるものではなかった。被弾も多く、まさに絶体絶命だった。そこへ現れたのは、一機のスカイグラスパーだった。異動になったはずのムウが戻ってきたのだった。ムウは被弾したスカイグラスパーを、AAへ無理やり着艦させ、そして、伝える。


アラスカの基地地下にサイクロプスが仕掛けられており、スイッチひとつで半径10kmは溶解炉と化す。ザフトを一網打尽にするためのシナリオ。アラスカの守備隊は、捨て駒だ、と。


勝ち目のまるでない戦いだ。ザフトを誘い込む任は果たしたと理由付け、AAは戦闘を離脱することを決意した。




















AAに元々あったスカイグラスパーに乗り込み、ムウが再び出撃する。アラスカ基地のメインゲートが破られてもザフトの猛攻が止むことはなかった。補給の為一時退いていたデュエルも出てきて、場は鎮まる気配がない。そして、AAのブリッジ目前に、一機のジンが入り込んだ。銃口が、ブリッジに向けられる。誰もが息をのみ、死を決意した。スローモーションに時が流れているような気がした。が、その銃撃は、放たれることはなかった。上空からの一筋のビーム線。それがジンの銃を撃ち抜いたのであった。さらにビームソードがジンの頭を切り落とし、戦闘不能に落とした。そして青い翼がクルーらの視界に広がり、ブリッジ内に、もう二度ときくことは無いだろうと思っていた声が響き渡る。


『こちらキラ・ヤマト!援護します。今のうちに退艦を!』

「キラ・・・?」


ブリッジ内に、動揺と、同時に喜びと安堵が広がる。


『ついでに私もいるわよ』


フリーダムに並んできたのは、プラチナブロンドの機体。声をきいて、マリューはそれが誰なのかを把握した。


さん・・・?」

『あら、声だけでわかってくれるのね。ひどいことになってるじゃない』

「・・・」

『うなだれてる暇はないわよ。あそこのスカイグラスパー、鷹?』

「え、えぇ」

『OK、援護する。キラ』

『うん』


ふたりの脳内で、何かが弾けた。キラはまとわりついてくるジンたちを、はムウの援護のためにデュエルのほうへと向かった。


『マリューさん、はやく退艦を!』

『え、あの・・・基地の地下に、サイクロプスがあって、私たちは、囮に・・・!作戦なの!知らなかったの!だからここでは退艦できないわ!』

「なにそれ、連合もえげつないことするのね。・・・ザフトも言えた義理じゃないけど」


あくまで冷静な声だが、内心焦った。サイクロプスでザフトを一網打尽にしてしまおうという作戦だとすぐに把握したのだ。


『もっと基地から離れなくては!』

『わかりました!』


マリューの言葉をきき、キラが通信を解放する。連合だけでなく、ザフト軍にもきこえるようにだ。


『ザフト、連合、両軍に伝えます。アラスカ基地は、まもなくサイクロプスを作動させ、自爆します!両軍とも、ただちに戦闘を停止し、撤退してください!繰り返します!―――』


キラの声が戦場に響き渡る。それでもやはりその場しのぎだと向かってくるものはいた。


『下手な脅しを!!』


聴き慣れた声が響いてきて、不覚にも安心感がこみ上げていくる。できればまだ知られない方がと思ったが、仕方がない。はすっと息をすいこんだ。


「キラの言っていることは事実よ!退きなさい、イザーク!!」

『ん、な・・・・・・!?』


死んだと思っていたがいまそこに、向かい合っている。動揺と混乱が入りまじり、デュエルは停止した。


『生きて・・・いたのか・・・!?』

「・・・えぇ、まぁ」

『っ、なぜ今まで!?』

「詳しい話をしている暇は無い!いいからさっさと退きなさい!」

『お前も・・・っ!』

「ごめん」


あっさりした謝罪に、イザークの思考が停止する。


「私は、もうザフトには戻れない」

『何を・・・言っているんだ・・・?』

「ごめん、イザーク。・・・プラントを、お願い」

『何を馬鹿なことを!?ー―!?』


デュエルのグールを撃ち抜いてデュエルを海上へおとし、デュエルがジンに回収されたのを確認し、はAAの護衛に戻った。そしてついに、サイクロプスが発動された。強力な磁場が基地からわきあがり、徐々にその場を地獄へと変えていく。これでザフトにも事実だと、嫌でも伝わっただろう。ザフト軍が、連合の生き残った艦がアラスカから離れていく。アラスカ基地は、本当に、地獄と化した。



















サイクロプスの余波が届かない小島にAAを着艦させ、ムウのスカイグラスパーと、フリーダムとワルキューレもそこへ降り立った。生き延びることができた安堵感と、裏切られたことへの失望感、そして脱力感。だがここでただぼーっとしていても仕方のないことだ。AAの動けるクルーは外へと出てきていた。フリーダムをとめた向こう側から、赤いパイロットスーツに身を包んだキラが歩いてきた。そして、みながキラに駆け寄った。みなが、キラの生還を喜んだ。


「お話しなくちゃいけないことが、たくさんありますね」

「そうね」

「僕も、おききしたいことがたくさんあります」

「そうでしょうね」

「ザフトにいたのか?」


マリューとキラの会話にムウが割り込む。その前に、とキラは少し遠くを見た。視線の先には、今はフェイズシフトをおとして灰色になったワルキューレ。


!まだかかる?」

「ちょ、ちょっとまって!もう終わる!」


ワルキューレのコックピットから、緑のパイロットスーツに身を包んだ金色が下りてくる。駆け寄ってくるその姿に、ムウらは目を瞬かせた。


「おまえ・・・本当にヴァルキリーか?」

「ですけど何か文句でも?エンデュミオンの鷹」

「・・・まさしくお前さんだわ。どしたのその髪」

「それもひっくるめて話す、のよね?」


キラに向き直ると、頷いた。フリーダムとワルキューレはひとまずそのままで大丈夫なので、たちはAAに乗り込んでパイロットスーツを着替えた。


「なぁ、お前さん、なんで緑なんだ?」

「普通に赤服着てたら私だってばれちゃうでしょ?髪もそのために切ったのよ」

「・・・ばれちゃまずいことをしたってか?」

「・・・まぁ、そもそも私、MIAだし」


なんてことを言い合いながら、場所をブリッジに移して話を始める。AAが上の指示でアラスカにとどまり、防衛、そして捨て駒とされたこと、本部もザフトの目的がパナマではなくアラスカだと知っていたのであろうということ。ザフトも連合も同じだ。内部で欺きがあり、いまに至っている。状況を把握すると、キラはマリューたちにきりだした。


「それで、アークエンジェル・・・マリューさんたちは、これからどうするんですか?」

「どうって・・・」


Nジャマーキャンセラーと磁場の影響で通信機能は使えなくなっているという。本部と連絡をとろうにもとれない状態というわけだ。AAは命令なく退避した、いわゆる敵前逃亡艦だ。応急処置をしてなんとかパナマへたどりつけたとしても、命令違反で軍法会議は免れないであろう。そこへ、の一撃が降ってきた。


「あんな目にあったっていうのに、まだ戻ろうとか考えてるの?」

「それは・・・」

「戻ろうっていうなら私はここを離れるわ。連合になんて行きたくないし」




キラにたしなめられ、は口を閉ざす。言いたいことはわかっているのだ。キラにも、マリューたちにも。はひとつ息をついて落ち着かせ、再び口を開いた。


「もし、あなたたちに覚悟があるのであれば、私からひとつ提案できるわ」

「お?なんだ?」

「軽いわねぇ・・・。オーブよ」

「オーブ・・・」


意外だったのか、マリューが目を瞠る。反対にムウはなるほどと言った顔だ。


「詳しい話を、きかせてもらえる?」


とマリュー、ムウは艦長室へ移動し、ほかの面々は各々の作業を開始した。




















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