新たな決意を、新たな翼で






















キラとは、クライン邸で養生していた。傷もほとんど治り、の身にある包帯は、頭部のみとなっていた。


「なかなか治りませんわねぇ・・・」

「そうねぇ・・・いい加減おさらばしたいんだけど」

「その、傷・・・」

「あぁもうそこでキラが顔暗くしない!キラのせいじゃないって」


キラと戦ったときについた傷だからか、キラが責任を感じて表情を沈める。それに慌てては手を振って訂正し、紅茶を口にした。傷の原因は確かにキラなのだが、それに事が重なって重なって、だ。治らない原因は自身にもわからない。
ふとキラが雨の降る外をじっと見つめていることに気づき、ラクスが「キラは雨がお好きですか?」ときいた。それにキラは、「不思議だなって、思って」と答えた。人工であるプラントに雨が降ることだろうか、それの仕組みはキラも知っているだろうに、とは首をかしげる。だがそれは見当違いであった。


「なんで僕は、ここにいるんだろうって」

「・・・キラはどこにいたいのですか?」

「・・・わからない」


キラの言いたいこともわからなくはない。本来なら死んでいたであろう身。そしてここは地球ではない宇宙のプラント。アークエンジェルへ戻ろうにも戻れない。


「ここはお嫌いですか?」

「・・・ここにいて、いいのかな?」

「私はもちろん、とお答えしますけど」

「・・・、は?」

「え?」


不意に話の先がこちらに向かってき、は目を瞬かせた。カップを置いて、うーん、と間を置く。


「正直言うと、私もよくわからないわね。ザフトではMIA扱いだろうし・・・。けど、私は軍に戻るわよ」

「なん、で?」

「・・・私は、戦わなければならないから」


キラと、ラクスもが首をかしげた。が戦わなければならない理由はなんなのか。それをきこうとキラが口を開けようとしたとき、遮るかのようにマルキオが口を開いた。


「自分の向かうべき場所、せねばならないことは、やがて自ずとしれましょう。あなた方はシードを持つ者、故に」

「種・・・」

「ですって」


種、それは潜在能力の一種。それがなんなのか、も詳しくは知らない。ただ戦闘中に何かが弾けるような感覚、それがおそらく種なのだろう。









しばらくして、ラクスの父、シーゲル・クライン下議長が帰宅した。評議会議長はシーゲルから、アスランの父、パトリックへ引き継がれたらしい。現在地球へのシャトルはすべて使用許可が下りないらしい。マルキオも地球へ戻ることができなくなっているのだった。そこへ、シーゲル宛に、評議会議員アイリーン・カナーバから通信が入った。シーゲルはそれに応答する。


「シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない!アラスカだ!」

「なんだと!?」

「!」


ガシャン、とキラの手からカップが落ちた。も目を見開いてアイリーンを凝視している。キラへラクスが歩み寄る。


「アラスカ・・・確かに、アラスカは地球軍の本拠・・・だけど・・・」


アラスカには、アークエンジェルが向かったはずだ。顔を青く息を荒くしているキラが、心配だった。















はひとり、椅子に座って考え込んでいた。仕組んだのはパトリックと、おそらくクルーゼだ。評議会もザフトも、ふたりの思うままになっている。


「・・・・・」


目を伏せ、大きく息を吐く。浮かんでくるのは、夢に見る人々。





名を呼ぶ声が、脳裏に染み付いている。は目を、開けた。


「・・・プラントを、汚させはしない。地球を、壊させはしない」


決意を胸に、は再び立ち上がった。



















ラクスに声をかけ、屋敷を飛び出す。帽子と眼鏡で変装しているからだとはそうばれないだろう。は息を弾ませながら、一軒の家の前にたどり着いた。震える手で、インターホンを押す。心臓がはねているのがわかる。しばらくしてドアが開かれ、対面する。彼女はの姿を目にして目を見開いた。


「・・・っ!」


すかさず手で制し、名を呼ぶのはが防ぐ。顔を合わせづらくて斜め下を見ていると、彼女はなにもきかずにを中へと入れた。をひとまずソファに座らせ、彼女は、ミゲルの母・カルナはの対面に座った。


・・・無事で良かったわ。あなたまで行方不明だと言われた時は、私・・・」

「・・・心配かけて、ごめんなさい」

「いいのよ、こうして戻ってきてくれたんだもの。でも、どうして急に?」

「・・・・・」


は顔を俯かせた。時間がないのだから、はやくしないと。大きく息を吐き、真っ直ぐにカルナを見る。


「今は、時間がなくて詳しいことが話せないの。でも、どうしても必要なものがあったから、それを“借り”に」

「借りる?何を・・・?」

「・・・ミゲルの、軍服を」

「え・・・?でも、には、赤い軍服が・・・」

「あれでは私だとバレてしまうから、駄目なんです。私だとわからないように、しないと」

「・・・何か、危険なことをしようとしているのね?」


痛いところをつかれ、の視線がまた下がっていく。だが今度は下がりきる前に踏ん張り、再び顔を上げた。


「それでも、必要なんです。プラントと、地球と・・・大切な“家族”を守るためには」

、もしかして・・・」

「・・・それも、また落ち着いてから、話します。お願いします、カルナさん」

「・・・待っていて」


カルナが席を立ってひとまずリビングから姿を消す。は大きく息をはいて自分を落ち着かせた。
戻ってきたカルナの手には緑の軍服があった。それを見ただけでミゲルの姿を思い出し、ちくりと胸が痛む。


「はい、あげるわ」

「え?」

「おさめておくよりも、が着て役に立つなら、その方がいいもの」

「・・・ありがとう、ございます」

「でもね、



カルナはに軍服を手渡すと、そのまま彼女を抱きしめた。え、とが小さく震える。


、あなたも私の大切な子どもだから、絶対に、帰ってきてね」

「・・・っ!」


我慢、していたのに。一気にたかが外れたようにぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。少しの間カルナの肩で泣き、もうひとつ、はお願い事をした。






















クライン邸に戻ってきたとき、キラは自分には見慣れた格好をしていた。「あら、似合うじゃない、キラ」と軽く言いながらツカツカ歩いて近寄ると、キラがぱちくりと目を瞬かせながらを見てくる。


「え・・・?・・・?」

「そうよ、何?」

「いや、だって、その、髪・・・」

「ふふ、似合う?」


はキラとさほど変わらぬほどの長さになった髪を触った。カルナへのもうひとつの頼みごとは、髪を切ることだった。肩下まであった金の髪はすっきりしている。ちなみに包帯は健在である。


「キラも決めたんでしょ?」

「・・・うん。僕は、行かなきゃ」

「もう少しだけ待ってて。私も着替えてくるから」

、髪を切ってしまわれたのですね」


キラと話していると、ラクスがやってきた。の髪を見て残念そうに小首を傾げる。


「潜入するなら変装しなきゃ、でしょ」

のお顔を知っていらっしゃる方もいらっしゃいますでしょうからね。では、あちらへ」


ラクスに促され、は部屋へと入っていく。数分して出てきたは、緑の軍服に身を包んでいた。赤服のキラと、緑服のを連れ、ラクスは平和の歌を歌いに向かった。



















車の中で敬礼の仕方を教え、はキラの部下だという設定をつける。すれ違うザフト兵には、ばれずに済んでいた。ラクスに通じている整備士たちに扉を開けさせ、キラと、それぞれ分かれる。そこには、二体のモビルスーツがあった。地球軍から奪った新型のデータを元につくりあげた、ザフトの新型MSだ。がその新型の試作機という機体に寄る。


「ZGMF−X00W、ワルキューレ・・・」


ラクスを見、頷いたのを確認してパイロットスーツに着替え、機体に乗り込む。キラもまた、フリーダムへと乗り込んだ。


「この機体・・・やばくない?これで試作機って・・・ていうか、Nジャマーキャンセラーって・・・これ、核なの・・・?」


複雑、ではある。だかこれほどの性能なら今まで以上に戦えそうだ。


「ありがとう、ラクス」


機体の外へは届かないが、きっとラクスに届いたであろう。そしてフリーダムとワルキューレは、広い宇宙そらへと飛び立った。前方からはプラント守衛のジン。


「キラ!」

『・・・!』


機動力の高いこの二機は銃撃を避けることは容易だ。だがそれではジンたちを振り切ることはできない。はキラのとった行動に、目を瞠った。


「キラ・・・」


キラは、ジンの腕や足、頭を斬り、行動不能にした。完全破壊ではなく、再起不能。これならば、MSは戦闘続行不可能で、かつパイロットは無事である。は少し口元を緩め、フリーダムのあとにワルキューレをはしらせた。



















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