喪ったものたちのために






















機体から降り、見上げる。そこにあるはずの機体がひとつなくて、意識もしていないのに視界が滲みそうになった。
パイロットスーツからいつもの軍服に着替える。男子ロッカーから大きな物音が幾度もしてが顔をのぞかせると、イザークがロッカーを何度も蹴りつけているところだった。そこのロッカーは確か、ニコルの。蹴り続けた拍子に扉が開き、中身が顕になった。そこには、もう袖の通されることのない、一着の赤い軍服があった。


「なぜあいつが死ななきゃならない!?こんなところで!!えぇ!?」


それに答えられるはずもないが、言い放った先はアスランで、アスランも険しい表情で珍しくイザークに食ってかかった。その胸ぐらを掴み、ロッカーへ押し付ける。


「アスラン!」

「言いたきゃ言えばいいだろう!俺のせいだと!俺を助けようとして死んだと!」

「おいアスラン!」


が駆け寄っても、二人は落ち着く気配がない。さすがのディアッカも止めようと声を上げる。イザークの瞳からも、アスランの瞳からも、涙がこぼれていた。


「イザークもやめろ。ここでお前らがやりあったってしょうがないだろう!」


そしてディアッカは二人を引き剥がし、言い放った。


「俺達が討たなきゃならないのはストライクだ!」

「・・・っ、わかってるさ!!そんなことは!!」


イザークの声が荒げられる。


「ミゲルもあいつにやられた!」

「っ」


ここで聞くと思わなかった名前に、思わずの指先が震え、顔が歪められる。


「俺も傷をもらった!次は必ず、あいつを討つ!!」


それだけ言い放って、イザークは着替えも終わらないままロッカールームを飛び出していった。ディアッカが後を追い、そこにはとアスランのみが残される。


「アスラン・・・」


アスランはおもむろにニコルのロッカーを開き、その軍服を手にした。拍子に、ニコルの楽譜が床に散らばる。


「・・・ニコルの、ピアノの楽譜・・・」

「・・・くっそぉぉぉ!!」


ガンっとアスランが軍服を掻き抱いたままロッカーを殴りつける。


「討たれるのは俺のはずだった!!・・・ニコル・・・っ」

「アスラン・・・」


はただその背を見つめるしかできなかった。


「俺が・・・今まであいつを討てなかった俺の甘さが、あいつを殺した!!」

「それは・・・っ」


それは自分も同じだ。それだけの言葉なのに、の喉はそれを発してはくれなかった。アスランは床に座り込み、散らばった楽譜を見つめた。


「・・・

「・・・ん」

「・・・キラを、討つ」

「・・・」

「今度こそ、必ず!」


はただ目を伏せた。彼の決意と、喪った友へのかなしみに、涙がこぼれおちた。
























しばらく北に向けて進んでいると、センサーがアークエンジェルの反応をキャッチした。操舵室に集まっていた面々がモニターに集中する。もうすぐ夜明け、さらにこの先は小島だらけの海域。障害物が多い場所では大型のAAは不利となるだろう。仕掛けるなら、今だ。


「今日でカタだ、ストライクめ!」

「ニコルの仇もお前の傷の礼も、俺がまとめてとってやるぜ!」

「・・・出撃する!」


アスランの号に従い、4人は戦闘準備にとりかかった。


『・・・?』

「ん?どうしたの、イザーク」

『いや、様子がおかしいと思っただけだ』

「・・・めざとい」


表には出していなかったはずなのだが。癇癪起こしたり頭に血を昇らせたりしているわりにはよく見ている。


『なにか思うところでもあるのか?』

「んーん、ただ・・・いつまでこんなことが続くのかしらね、って」

『そんなもの、足つきとストライクを討つまでに決まっている!』

「墜としたら、終わる?」

『・・・どうしたんだ、不安なのか?』


そうなのだろうか、そうなのかもしれない。きっと自分はこわいのだ。自分が死ぬのも、これ以上大切なものをうしなうのも。それはここにいる仲間たちもそうで、キラも、そうで。


『安心しろ。言っただろう。俺は討たれたりしないと』

「・・・そうね」


思い出して苦笑する。バルトフェルドが討たれたあとに、イザークは死なないと言った。そんな確証どこにもないというのに。


『俺達は生きてやつらを討つ!それだけだ!』

「・・・えぇ」


アスランは覚悟を決めたのだ。自分もいい加減、覚悟を決めなければ。しっかりと前を見据え、は出撃した。





















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