キラ
その後再び5人は集まり、モルゲンレーテへ向かうことになった。警戒は軍港よりも厳しく、なかに入り込むのは時間がかかりそうだ。
「中にはいれる人間を捕まえたほうが早いかも知れない」
「とは言ってもねぇ・・・」
さすがにオーブのモルゲンレーテに知り合いはいない。いや、いたとしても自分がザフトだと知っているだろうから、入れてなどもらえないだろう。さてどうする、と思案していたとき、遠くから「トリィ」と聞こえてきた気がして顔を上げた。アスランも気づいたらしく、ハッと目を見開いてその方向を見る。それは紛れもなく“彼”のそばにいつもいた、鳥型のロボットで。アスランがゆっくりと手を伸ばすと、トリィが羽ばたいてアスランの手の上に降り立った。
(トリィ・・・て、ことは・・・)
ゆっくりとトリィから目を外し、フェンスの向こう側を見据える。オレンジの夕日の中に、同じオレンジの作業着が見えた。トリィ、と声を上げた彼は、このロボットを探すように見渡している。は手が震えるのを感じながらも、アスランの背を押した。アスランの足が、一歩、二歩と動いていく。
「あいつのか?」
「・・・多分、ね」
遠目ではあるが、こちらに気づいた“彼”の目が見開くのが見えた。彼を知らない三人からすると、探し物がこんなところで見つかった、という驚きの様子に見えただろう。だがはその、彼の動揺を感じ取っていた。なぜこんなところに、と思っただろう。
(アスラン・・・キラ・・・)
トリィが二人を巡り合わせたのだろうか。トリィはアスランが作って、月で別れる際にキラに贈ったものだと言っていたから。目を動揺に揺らしながらも、キラはフェンスへと近づいてくる。ふたりの距離が、フェンスのみとなった。たったこれだけの距離なのに、このふたりの距離はあまりにも遠くなってしまった。
「君、の?」
アスランがトリィを差し出しながら言葉を絞り出す。
「うん・・・ありが、とう・・・」
キラが手を出すと、トリィはぴょんとその手に飛び移った。見つめ合ったまま、数秒流れる。
「そろそろ行きませんと」
「・・・そうね」
ニコルの声で時が動き始める。イザークとディアッカはすでに車に乗り込んでいた。ニコルとも乗車し、イザークがアスランに「行くぞ」と声をかける。アスランはそのままキラに何も言わず背を向けた。
(アスラン、このままで、いいの・・・?)
言ってどうなるものでもないが、このふたりは見ていて痛々しいのだ。ただ守りたいものが違うだけだというのに。は隣のニコルに気づかれないよう膝の上でぎゅっと拳を作った。
「昔っ、友達に・・・っ」
「!」
不意に絞り出されたキラの言葉にアスランが足を止める。キラ?とは彼を凝視した。
「大事な友達にもらった、大事なものなんだ・・・」
その言葉は何を意味するのか。まだキラはアスランを友だと思い続けていると、そういうことなのか。は視界が滲むのを必死にこらえた。どうしてこのふたりが戦わなければいけないのだろう。どうしてこのふたりだったのだろう。考えても答など出はしないというのに。
「キラー!」
そこへキラを呼ぶカガリの声が響いてきた。アスランは彼女の姿に目を留めると、キラに背を向けて歩き出す。自分が座った位置がここでよかった。こんな顔、他の三人には見せられない。きっと、とんでもなく情けない顔をしているだろうから。
「アスラン・・・」
アスランは一度だけ彼らを振り返ったが、直ぐに戻って車に乗った。アスランが乗ったことを確認すると、イザークはすぐに車を出した。
「・・・なんて顔をしてるんだよ」
「・・・だって」
風の音で会話はお互いにしか聞こえていない。は未だアスランの方を向いたままだった。
「仕方がないんだ」
嘆いても仕方がない。こうなってしまったのだから仕方がない。やるせない気持ちが溢れ出しそうで、はアスランの服をぎゅっと握り締めた。
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