Serious injury





















とミゲルの予想通り、ルーキーたちの初陣は一週間もすれば決まった。クルーゼ隊の相手ともなれば大物・・・と言いたいところだが、今回はそれほど大物でもない。初陣にはちょうどいいだろう。しかし油断は禁物である。緊張している者もいるようで、は彼の肩をポンと叩いた。

「大丈夫よ、ニコル。作戦通りにすれば」

「は、はいっ」

「ふんっ」

鼻で笑ったのはイザークだった。この一週間彼らを見ていて気付いた。アスランとニコル、イザークとディアッカはそれぞれ仲が良いのだが、その両間は仲が良くないらしい。一方的にイザークたちが皮肉屋嫌味をぶつけているように見えなくもないが。ラスティは両方と仲が良いようで、上手い事中和剤の役目を果たしている。
クルーゼ隊はナスカ級ヴェサリウスと、ローラシア級ガモフの二隻の艦を持つ。ミゲル、オロール、マシュー、アスラン、ラスティはヴェサリウス、、イザーク、ディアッカ、ニコルはガモフに乗艦していた。、それぞれの機体に乗り込み、出撃命令を待つ。やがて敵艦からMAメビウスが出撃されたとの報せが入り、こちらも出撃命令が出た。

、出撃する!」

黄金色の戦乙女が、宇宙そらへと舞い降りた。





















地球連合軍のMAはとにかく数が多い。片っ端から叩いていくしかなかった。横目でルーキー達の機体を確認し、初陣にしては良く動けていると感心する。それも良いような悪いような、ではあるが。MS戦では、相手の死を実感しにくいから。命の重みをあまり感じる事が出来ない。それもあってMS戦で敵を撃つのに慣れてしまうのは早かった。

MAの数が減っていくにつれて、集中力や体力も落ちてくる。は不意にノーマルジンに背後から突撃していくMAに気づいて、機体を加速させた。

「・・・ッ!!」

なんとかジンとの間に機体を滑り込ませたが、MAの勢いは全くおさまらず衝突した。

!!』

ミゲルかららしい通信の声を、若干遠くで聞く。衝撃で頭を打ったらしい。さらに、コックピットにもダメージを受けていた。それでもMAは離れる様子はない。は、はっと最悪の事態を思い浮かべた。急いでシートから体を離し、ハッチを開ける。体中が痛むが、鞭打って動かした。かばったジンが手を伸ばしてくるが、一歩及ばず。

「―――ッ!!」

MAが自爆して、の身体は爆風で吹き飛ばされた。そして、の意識はそこで途絶えた。





















ぼんやりと頭に何かが入ってくる。声、が聞こえる気がする。だが身体はぴくりとも動かない。遠くで聞こえるそれは、いつもは皮肉を言ったり、怒鳴り上げたり、時々素直じゃない声。しきりに、すまない、すまないと言っているような気がする。あぁ、そんなにあやまらないで、悲しまないで。大丈夫だから、平気だから。言ってあげたいのに全く動かない身体を恨めしく思いながら、の意識は再び深く沈んだ。





















目がゆっくり、ゆっくりと開いていく。自分で意識したというよりは、無意識に。ぼーっとする頭で天井を見つめる。これは、見知った天井だ。ガモフの医務室の天井だ。口元に何かがあると感じて視線を落とす。呼吸器が目に入り、そんなに重傷なのか、と他人事のように思う。ほとんど力は入らないが、身じろぎする。何かにぶつかってそちらに視線を降ろすと、白銀と赤が、視界に入った。その氷にも例えられる薄青の双眸は、今は瞼の下に隠れている。声でわかっていたはずなのに、あぁそうかあれはイザークだったのかと今になって頭で理解する。静かに寝息を立てている顔を眺める。睫毛長いな、なんて場違いな事を思い、自分で笑う。内臓系をやられているのか、ズキリと痛んだ。

(ごめんね・・・)

心配かけて。辛い顔させて。あんな声を出させて。申し訳なく思いながら、だがここに付き添ってくれている事を有り難く、嬉しく思いながら、は再び目を閉じた。





















次に目を開けると、天井ではなく薄青の双眸と目が合った。バチッと目が合った直後にふいとそらされてしまったが。ゆるゆると鈍い動きでイザークが備え付けのベッド脇の椅子に腰を落とす。俯いた顔はベッドに横たわるこちらからでも伺う事が出来ない。

「・・・すまない」

ぽつり、と呟かれた言葉。覇気がなく、すぐに消えてしまいそうな声。

「すまない・・・」

先ほどよりは強い声で同じ言葉が紡がれる。

「俺が・・・背後の敵に気づかなかったせいで、こんな・・・こんな目に遭わせてしまった・・・」

ベッドの上でぎゅっと拳が握られるのが見えた。小さく、震えている。

「俺が不甲斐ないばかりに・・・こんな・・・!!」

泣きそうな、悲痛な声。は力のほとんど入らない手を、イザークの拳の上に乗せた。ぴくり、とその手が小さく跳ねる。

「・・・だい・・・じょ・・・ぶ・・・よ・・・。こん、な、くらい・・・だいじょ・・・ぶ・・・」

「・・・ッ、大丈夫なわけがっ・・・あるか・・・!!」

ぎゅっとイザークがの手を握り、顔を埋める。

「あん、た・・・たちは・・・ういじ、ん・・・なの、に・・・しっかり、うご、けてた・・・。あの、パイロット、が・・・すこ、し・・・うわて、だった、だけ・・・」

イザークは変わりなく、顔を沈めて震えている。

「イザ・・・ク・・・」

名を呼ぶと、ようやく少し顔を上げた。今度はしっかりその双眸と視線がかち合う。

「うい、じん・・・おつかれ・・・さま・・・」

なんとか微笑んでみせると、イザークは「馬鹿野郎・・・・!!」と再び顔を埋めた。手が濡れた気がしたが、気付かないふりをした。





















「ほんっっっとに、お前は大馬鹿野郎だ!!」

意識が戻った事を休憩中の軍医に伝えに行ったイザークと入れ替わりに、軍医と共に来たミゲルが放った言葉がこれだった。とりあえず意識はしっかりと覚醒したが目を瞬かせる。

「そりゃあなぁ、後輩助けたいのはわかるぜ?けどなぁ、それで自分がこんな重傷負ってどうすんだよ!」

全くもってその通りで、返す言葉もない。

「つか問題は相手の自爆に気づくのが遅かったって事だな。はやく気付いてれば軽傷ですんだろうに・・・機体も大破させちまうし」

はぁ、とミゲルが大きなため息をつく。面目ない、とは目を伏せた。

「二か月は大人しくしてろってよ!ルーキーが来たと思ったらお前が抜けるとかどう言う事だよ!」

「・・・ごめん」

小さく呟いた言葉はミゲルにも届いたようで、彼はまた一つため息をついた。

「あんま・・・心配かけさせんなよ。あと、絶対死ぬなよ、意地でも死ぬなよ。お前が死ぬと、悲しむ奴が沢山居るんだからな」

「・・・ん」

布団で半分顔を隠しながら、は小さくうなずいた。





















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Serious injury

直訳「重傷」

安直( )


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