平和の国
カーペンタリからの圧力にオーブは応答がないらしいとのことで、潜入作戦を実行することになった。
「泳ぐのね・・・」
「苦手か」
「いや、別に」
泳ぐことが苦手なわけではないが、距離がありすぎな気がする。あまり近づいては潜入が悟られてしまうから致し方がないのだが。それにしても遠過ぎはしないか、とは口もとを引きつかせ、コーディネイターで良かったと思いながら海へ入った。
オノゴロ島で待ち合わせていた内通者と岩場で合流する。男が言った「ようこそ、平和の国へ」は皮肉でしかなかった。用意されたモルゲンレーテの作業着を身につければ、街中でもモルゲンレーテ近くでもとくに怪しまれることはない。工場の第一エリアまで入れるIDも受け取った。
「なーんかこういうマニアックなのいそうだよな」
「・・・変態」
着替えながら言ってくるディアッカに軽蔑の目を向ける。冗談だよ冗談、なんて彼は笑うが、こいつのこういう発言はどこまでが冗談かわかったものではない。
「・・・、お前ははやく服を着ろ!」
「あぁ、失礼」
イザークに言われて前を留める。ディアッカ以外は顔を赤く染め逸らしていた。
「そんなに気になるもん?」
「そりゃあ俺ら思春期だし?」
「あんたのは発情期じゃ・・・」
「失礼だな!」
「お前らいいかげんにしろ!」
緊張感なさすぎだぞ!とイザークに怒られてしまった。は気になさすぎなんだよ・・・とアスランがつぶやいたのをは聞き逃さなかった。
「周りが男ばっかだとあんま気にならなくなるのよねぇ、いちいち気にするのが馬鹿みたいで」
変わらず軽口なにため息をつき、アスランは次の行動を伝え始めるのだった。
高台まで来て、港を眺める。潮風にの金の髪が揺れた。
「オーブ・・・懐かしいわね」
「オーブに来たことがあるのか?」
のつぶやきをとなりで聞いたアスランは目を瞬かせた。プラント生まれのプラント育ちだと聞いていたから驚いたのだろう。
「あぁ・・・うん。何年か前に、一度だけ」
「一度か・・・では詳しい、とまではいかないか」
「そうねぇ、全部に行ったわけじゃないし、モルゲンレーテには近づいてないし」
残念だ、という表情のイザークに苦笑する。一行は作戦の効率をよくするために三手に分かれて行動することになった。アスランとニコル、イザークとディアッカ、そしてだ。
「一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、ヘマはしないわ」
「・・・どうだか」
イザークのジト目には乾き笑いしか出ず、反論できないのがかなしい。さて、とは髪を束ねて帽子に押し込んだ。これで男に見えるだろうし、海から上がったあとまきなおした頭の包帯も隠せて一石二鳥だ。
「女であることを隠す必要があるのか?」
「どこのモルゲンレーテも女は少ないもんだからね」
そんなものか。そんなものよ。そんな会話をし、作戦は開始された。
街中まで入ると陽は昇ってきて、人も出歩く時間となっていた。上手く人ごみに紛れて情報収集に入る。街の人々は、オーブ領海付近で戦闘があったことは知っているようだが、その後のことは自分たちに告げられたものと同じだった。良い成果が得られなかった五人は一度集まり、そのあたりのことを話し合った。街を調べるだけではAAのことは欠片も出てこない。モルゲンレーテ内部から探るしかないようだ。次はモルゲンレーテ付近まで行ってみることにし、またばらけて情報収集に徹することになった。
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