光にすくいあげられる
今ならストライクをやれる―――
PS装甲が落ちた今なら、相手がキラでも、やれるかもしれない。混乱する頭と弾む息のままタルタロスを発進させようとする。しかしその時、ダコスタの必死な呼び掛けで、は我に帰った。
『退いてください、さん。追撃はきっと、隊長たちは望みません・・・!』
「・・・・・」
小さく、たった今喪ったばかりのふたりの名をこぼす。燃える炎をもう一度見やり、は退却した。
タルタロスを降りると、イザークとディアッカが出迎えていた。ふたりの何とも言えぬ顔を見るのが辛くては俯く。
「ごめん、今は一人にして」
そのまま足早に横をすり抜ける。を呼ぶ声が聞こえたが、彼女は振り返りはしなかった。
宇宙で待機していたクルーゼたちがようやく動くらしい。彼らの地球降下まではゆっくりしているように言われ、はあてがわれた部屋のベッドに倒れ込んだ。そして、無意識に右耳に触れる。そこにはミゲルとバルトフェルドからもらったピアスがひとつずつついていた。
「・・・どんどん、消えてく」
大切なものたちが、自分を置いてどんどん消えていく。いつまで、どれだけ、なくせばいいのだろうか。そう思いを巡らせて息をついたとき、ドアの前に気配が立った。鍵をかけているため、ドアは閉ざされたまま開きはしない。
「・・・」
その声がよく知った声で、は身体を起こしてドアを見つめた。
「・・・イザーク」
「出てこなくていい、そのままきいてくれ」
真剣な声に、逆に身動きがとれなくなる。
「俺は、死なない」
ピクリと指先がはねた。ドクンと心臓が一波打ちしては胸をおさえた。
「お前が死ぬなと言ったから、俺は絶対に死なない。意地でも生き抜いてやる。だから・・・」
少し、間が空いた。
「だからお前も、死んでもいいなんて思うな、生きろ」
見透かされていたような言葉に、は小さく「ごめん」と呟いた。ドアという壁に阻まれて相手にきこえているかずもなく、イザークはそのまま続けた。
「俺はお前が死んで泣くのはごめんだからな」
「・・・・・」
何も言えなかった。自分がミゲルやバルトフェルドの死に対して思っているように、イザークも自分に対してそう思ってくれているのだとそれだけ感じ、同時に自分と同じ思いをイザークにさせたくはないと思った。「それじゃ、しっかり休めよ」と一言残し、イザークは部屋の前から去っていった。それを感じ取り、は再びベッドにぼすんと仰向けになる。腕で司会を隠し、ぽつりと呟いた。
「ありがとう、イザーク・・・」
腕の隙間から右頬を、一筋の涙が伝った。
二日もすればクルーゼたちは地球へ降下してきた。イザークがアークエンゲルを負うことを訴えかけたが、クルーゼ隊の今の任務は“スピリット・ブレイク”だと言われてしまう。だがそこでクルーゼが機転をきかし、「きみたちだけでやってみるかね?」と言い出した。
「イザーク、ディアッカ、ニコル、アスラン、で隊を結成し、指揮は・・・そうだな」
ちら、とクルーゼはに視線を向けたあと、アスランを見た。
「アスラン、きみに任せよう」
えっ、とアスランが小さく声を上げる。クルーゼの手前イザークは何も言わなかったが、忌々しそうにアスランを睨んでいた。
「隊長、私が、ですか?ではなく」
「私は君に任せようと思った。それが間違いだというのかね?」
「いっ、いえ、そんなことは・・・」
「確かにはきみよりも経験豊富だが、あまり指揮者には向かないのでね」
そうなのか?ときくようにアスランがを見れば、彼女は苦笑して肩をすくめてみせた。そしてアスランが承ると、クルーゼが退出していく。その後、イザークが一言嫌味を放った。
「ふんっ、お手なみ拝見と行こうじゃないか」
大丈夫かなぁ、と少々心配になるであった。
その後、詳しいことを決定するのに話し合った時、ニコルの視線を感じては顔を上げた。
「どうかした?ニコル」
「いえ、その・・・まだ治らないんですね、それ」
「あぁ・・・うん」
何のことかを把握してこし、とこめかみをさする。そこにはまだ白い包帯が巻かれていた。
「降下した時にまた開いちゃったらしいんだけど・・・」
「にしても、だよなぁ」
ディアッカもじーっと見てきて、は「うーん」と唸った。
「ストレス・・・ですかね?そういうので体調とか身体能力も変わりますし」
「ストレスねぇ・・・。ま、ストレス感じない軍人なんていないだろうけど」
それもひとつの理由なのかもねぇとため息をついて、じっと見てくるわりに黙っているイザークに目を向ける。
「イザーク?」
「・・・いや。お前は抱えてるものが大きい分、ストレスも多いんだろうと・・・」
きょとん、か唖然が合うだろうか。満場一致の反応がイザークに向けられた。
「イザーク、お前・・・」
「なっ、なんだ」
「・・・いーや、なんにも」
無意識の台詞らしい。ディアッカとニコルが同時にため息をついた。なんなんだ!と声を上げるイザークの横で、とアスランがよくわかっていない顔で首をかしげていた。
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