砂漠に散る
地球に降りてからの出撃は初めてで、は迎撃しつつタルタロスのパラメータを書き換えていた。
(ちっ、ながら作業は進まないわねっ!)
ただでさえ、ここは戦場だ。気を抜いてしまうとこっちがやられる。バルトフェルドとアイシャのラゴゥをちらと見れば、二人と対峙しているのがストライクだとわかった。他に、飛行タイプの戦機が二機。一機はムウだろう。メビウス・ゼロは大気圏内で使える機体ではないから。ではもう一機は誰が乗っているのだろうか。アークエンジェルには扱えそうなパイロットはいなかったように思える。ふとまさか、と浮かんだのがカガリで、は顔を苦くした。こういう時の勘はあたってくれるから困る。
カタカタとキーボードを動かしていると、不意にそばのデュエルが動き始めた。
『イザーク!』
『この状況でこんなことをしてられるか!』
「待ちなさいイザーク!」
の制止もきかず、デュエルは艦上からとびたつ。ちっと舌打ちをしてはパラメータ調整を仕上げた。
「イザークの援護に回る!ここ任せたわよディアッカ!」
『了解!』
レセップスはそう簡単には墜ちたりしないから大丈夫だろう。はデュエルの姿を探し、急ぎ後を追った。
デュエルは砂の上に降りたものの、ろくに動けずにいた。
「イザーク」
『くそっ、なんなんだこれは!?』
足が砂漠の砂に取られ、身動きがとれないでいる。この状態では今から感情に戻れというのも難しいだろう。
「だから言ったでしょうが・・・パラメータ調整を。砂漠の砂の柔らかさと、大気圏の重力を分析して・・・」
『くっ・・・』
そんな計算今すぐできるか!と怒声が飛んできそうであるが、ここは甘やかす気はない。
「ろくに動けないだろうからと判断しての配置だったのに、命令に逆らって飛び出したのはあんたよ。身に染みたでしょう?ここで砂に埋もれていなくなかったら、調整に集中しなさい」
ダンっと機内を殴る音がスピーカー越しに聞こえてきた。
イザークの調整を待ちながら戦況を見る。アークエンジェルがレセップスに向けて主砲を放ち、避けて飛び立ったバスターもまた砂に足をとられていた。
「・・・ちょうどいいわ。あんたたちここで大人しくしていなさい」
『!!』
二人とも艦から離れているし、アークエンジェルと飛空戦機はセレップスや他の艦、ストライクはラゴゥの相手で手一杯だ。そう危険はないだろう。
「アンディたちの援護に向かう」
『、俺も・・・っ!』
「ろくに動けもしない奴しゃしゃりでるな!!」
『・・・ッ』
珍しいの怒鳴り声にイザークは気圧されてしまう。
「どのみち調整が完了しないと動けないんだから、今のうちにしときなさい。ディアッカにも伝えて」
それだけ言ってとびたつ。遠目にラゴゥの脚が一本無くなっているのが見えて、は気をはやらせた。
飛んでいる最中に、レセップスのダコスタから退艦命令が出た。それに伴い、こちら側の機体が次々引き上げていく。ラゴゥは、とは橙を探した。ラゴゥは未だ、ストライクと対峙していた。
「まさか」
まさか、時間稼ぎをするつもりなのだろうか。レセップスも大きな被害をうけているし、他の艦もそうだ。機動性に長けるストライクを自分が引き止めて皆を逃がすつもりなのだ。は瞬時にラゴゥへ回線をつないだ。
「アンディ!アイシャ!何やってるの!?退きなさいよ!!」
『誰かがこいつを足止めしておいたほうがいいだろう』
「それなら私が・・・っ!」
『、このまま私たちを退かせて、悔しさで泣けというの?』
決定だ。このふたりは相討ちになってでもストライクを討つつもりだ。降伏するくらいなら死を選ぶ。そんなこと、させるものか、絶対に。そう思うのに宇宙ほどスピードが出なくて苛々させる。もう少し、もう少しなのに。
「だめ・・・だめよアンディ、アイシャ・・・!」
馬鹿なことはやめて。そんなの願いは二人に届いてはいても、叶いはしない。
ストライクのPS装甲が解けて向こうもパワー切れだとわかった。しかしストライクは諦めず、邪魔なパーツを外すとアサルトシュラウドを取り、駆けた。ラゴゥもまた、ストライクへと突っ込んでいく。
「やめてえぇぇぇ!!!」
の叫びも虚しく、ストライクの刃がラゴゥの頭へと突き刺さった。
「あ・・・あ・・・」
また、またこんな。
「―――ッ、アンディぃぃぃ!!アイシャぁぁぁ!!」
橙の機体が爆発し、燃える炎に赤く染まった。
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