狂戦士と虎と姫と
キラと、ケバブソースまみれになったカガリを乗せ、バギーは軍基地へと向かった。4人乗りバギーの後部座席のさらに後ろのスペアタイヤの上には座っている。
「落ちるなよ、」
「そんなヘマしないわよ」
「昔落ちたのは誰だったっけなぁダコスタくん」
「・・・さんです」
昔のことを引っ張りだしてきたバルトフェルドに舌打ちと恨めしい視線を向けると、こちらをみていたキラと目があった。
「・・・君は・・・」
「私はザフトよ。ここにいて何か問題でも?」
「いや・・・」
それ以上は言わない。そう、何も語り合うことはない。
「に砂漠での知り合いがいるとは驚いたよ。さぁどうぞ」
基地につきキラたちを降ろすとも飛び降りた。そのまま先頭をバルトフェルド、最後尾をで歩いていく。
「あら、おかえりなさい」
「アイシャ」
出迎えてくれたアイシャはカガリを上から下まで観察すると、よし、とでも言うように背筋をのばした。
「は?」
「・・・私はいいわ」
「そう?残念。じゃあ、傷の手当だけはちゃんとしておきなさいね」
弾がかすったところを触られて、チリと痛む。バスルームへ向かうアイシャとカガリを見送り、キラをバルトフェルドの待つ部屋へ誘導した。
「アンディ、私は自分で入れるから」
「おまえはすぐそう言うなぁ」
コーヒーを準備しているバルトフェルドに向かって先手をとって言う。当たりのときならいいのだが、彼のおもしろブレンドは外れが多いのだ。
「キラ、座って」
「・・・・・」
「大丈夫、危害は加えないから」
「・・・うん」
警戒したままのキラをソファへ促し、バルトフェルドとキラの“歓談”が始まった。
自分で入れたお気に入りブレンドのコーヒーを飲みながら二人の話をなんとなくきいていると、ドアがノックされた。カガリの支度が終わったのだろう。さて、カガリがどんな風に“着せかえ人形”されたのか。ドアが開かれて、アイシャとカガリが入ってくる。カガリはミントグリーンのドレスに髪をアップした姿となっていた。
「やっぱりもすればよかったわ。金髪美少女が並んだらとても絵になったと思うもの」
残念がるアイシャには苦笑で返す。ドレスなんて着なれないものは落ち着かなくて物事に集中できない。
「女・・・の子・・・」
「ッてんめぇっ!」
「あぁっ!だったんだよねって言おうとしただけだよ!」
「同じだろうがぁ!それじゃあ!」
「・・・ふふっ」
キラとカガリの会話に思わず笑みがこぼれる。こんな時、こんな間柄になっているというのに幸せを感じている自分がいて、は少しだけ切なくなった。バルトフェルドとアイシャも大笑いで、キラたちはただ顔を赤くするのだった。
落ち着いて話を、となるわけはなかった。先ほどのテロリストたちとの戦いの動きからキラをストライクのパイロットだと見抜いたバルトフェルドは、2人に銃口を向けた。キラは、どうしたら、と辺りに視線を巡らせた。
「やめた方が賢明だな。いくらきみが
狂戦士でも、暴れてここから脱出できるもんか」
バーサーカー・・・確かにここ最近のキラはなりふり構わず撃ち抜いている。そういうに的を射てるかもしれない。
「ここにいるのはみんな君と同じ、コーディネイターなのだからねぇ」
「えっ!?」
その言葉にカガリが驚きの声を上げてキラを見た。知らなかったのか、とはカガリにちらと視線を向ける。だがあとででもストライクのあのOSを見たら一瞬にして納得いくだろう。
「瞬時のパラメータの判断、書き換え・・・君は同胞の中でも特に優秀らしい。まるでを見ているようだったよ」
「・・・・・」
そこで自分に振らないでほしい。言葉にするものは何もないのでは沈黙したままだ。
「も前に
砂漠に来たばかりの時は苦戦していてねぇ。だがすぐになれてしまったよ。恐ろしいとさえ思えた」
「・・・昔話はいいわ、アンディ」
「そうだな、話を戻そう」
これまでバルトフェルドは一度もキラたちから視線をはずしていない。一瞬の隙も与えず、虎が獲物を逃がすまいとしているような光景だ。
「やっぱり、どちらかが滅びねばならんのかねぇ?」
「・・・ッ」
誰が息をのんだのか。向けられた銃口から弾が発せられると覚悟したキラたちか。
「まぁ、ここは戦場でもないし、君は命の恩人だ。帰りたまえ」
「・・・・・」
「また戦場でな」
バルトフェルドにうながされ、キラとカガリが歩き出す。
「、送ってやれ」
「・・・わかった」
キラとカガリに続いて、も部屋を出た。
2人をバギーに乗せ、走り出す。沈黙が流れていた。
「・・・」
その沈黙をやぶったのはキラだった。
「・・・何?」
「その・・・頭の傷、まだ治ってないんだね・・・」
「そうなのよねぇ、なんでか治らないのよねぇ」
これはキラがつけた傷も含まれているから気になったのだろう。は重苦しい空気を払うように、少々あっけらかんに言いあげた。
「・・・お前の所属はどこだ」
「ん?」
不意にカガリに言われ、声をもらす。
「虎と仲が良さげだったからな」
「あぁ、そういうこと。アンディたちと仲がいいのは、一時期こっちにいたからよ。所属はクルーゼ隊」
「クルーゼ隊・・・」
カガリが復唱した。クルーゼの名は地球上でも知っている人は知っているようだ。
「・・・っと、このへんでいいかしら」
「あ、あぁ」
あまり行きすぎてはのほうが危ない。バギーを停めて、は通信機を取り出した。
「?」
「まだ距離があるでしょ?」
周波をいじってアークエンジェルに合わせる。うまく繋がってくれるといいが。
「あー、あー。えーと、地球連合軍足つ・・・じゃないや。アークエンジェル、きこえてる?アークエンジェル?」
送信専用だから応答はない。きこえていると勝手に信じ、は続けた。
「こちらクルーゼ隊・シュライア。あぁ、今はわけあってバルトフェルド隊に身を寄せているけど。おちちゃったからねぇ」
軽口は外さない。別に戦いに来たわけでも取引をしに来たわけでもないのだから。
「ちょっとバルトフェルド隊長の気まぐれでキラとカガリをお借りしていたの。危害は加えていないから安心して」
そこまで言うと目配せをして2人をバギーから降ろす。
「えーと、ここに置いていくから、周波拾って回収に来てちょうだい。それじゃ」
言い切って通信を切る。キラたちはほぼ呆然とを見ていた。
「それじゃ、私は戻るわね。・・・次は、戦場で」
キラの顔が強ばったのだけ見て、返事をきくまえにバギーを発進させる。は一度も振り返らなかった。
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