砂漠での邂逅





















「・・・えげつな」


昨夜の焼き討ち映像を観てがこぼした最初の言葉はそれだった。起きあがって筋トレまでしでかすくらいには回復したは、デスクに肘をついてモニターを眺めていた。レジスタンスの拠点のひとつ、タシルの焼き討ち。仕方がないにしても、やはり非戦闘員へのコレは見るに堪える。もちろんバルトフェルドとて好き好んでしているわけではないし、前警告で街人たちを逃がしている。


「まったく・・・くえないわねぇ、アンディ」


相手はよほど混乱するだろう。はバルトフェルドのやり方に苦笑し、敵に回したくないと改めて思う。プツっとモニターをきって、はコーヒーを口にした。これはバルトフェルドがおもしろおかしくブレンドしたものではなく、バルトフェルドがかき集めている材料でが自分の好みにブレンドしたものだ。




















バルトフェルドが一時帰還した。その表情には苦渋となにやらおもしろいものを見つけた嬉しさとが混ざっていて、はどうしたのかと首を傾げた。


「おかえり。何かあったの?」

「いやぁ、面白いな、あのストライクってのは!」


ストライク、という単語にドキっとなる。


、アークエンジェルの捕虜になってたことがあるんだろう?パイロットには会っていないのか?」

「・・・なんでそんなことまで知ってるの」

「クルーゼがな」


余計なことを、とここばかりは自分の隊長に舌打ちした。さてどう答えるかとは数秒思案する。もちろん会っているし、むしろ少し親しくなったのだが。しかしそれを言ってしまうのはよくない気がして。ちらとバルトフェルドを見ると、にっと笑われた。この笑いは、ばれている。


「ま、言いたくなきゃいいさ。当てていくのも面白いしな」


ぐりぐりと頭を撫でられてはため息をもらす。別にこの扱いは嫌いではないし、心中を読まれるほど彼との仲は良いわけだが。


「よし、


何、と言うと、バルトフェルドはまた笑った。


「出かけるぞ」




















出かけるのはいい。いいのだが・・・。


「・・・アンディ、その明らかに怪しい格好はどうにかならなかったの?」

「ん?気に入ってるんだが・・・」


バルトフェルドの格好はお世辞にもセンスがいいとは思えないのだが、まぁこの人だしとは諦めた。のほうはごく普通のシャツにカーゴパンツだ。サングラスもかけろよとバルトフェルドに手渡されて渋々かける。街のすぐそばには戦艦レセップスが鎮座していて、ここがバルトフェルドの支配下にあることを物語っていた。



















街を歩いていると、ふと、バルトフェルドの視線が一点にあることに気づいた。


「アンディ?」


小声で呼ぶと、これも小さな身振りで示される。そしてはそこをみて目をみはった。そこにいるのはキラと、金髪の少女。は彼女のことも知っていた。


「・・・カガリ」


キラとカガリがなぜ一緒に。というかなぜカガリがここに。


「おもしろいねぇ」


名の呟きが彼に聞こえたかはわからないが、彼はスタスタ歩いていく。はあわててあとを追った。



















キラとカガリは一通りの買い物を終えてテラスで一息ついていた。運ばれてきたケバブにカガリがチリソースをかけようとしたとき。


「あいや待った!ちょっと待った!」

「ちょっと・・・っ」


突然バルトフェルドが絡み始めた。が止めようとするが、耳を貸す気もないらしい。


「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ。このヨーグルトソースをかけるのが常識だろうが」

「・・・私チリソース派」


いったいどこの常識だ。唖然としている二人を見てがぼそっと呟いたが、これもまたきれいに流された。


「なんなんだおまえは!見ず知らずの男に、私の食べ方をとやかく言われる必要はない!」

「なっ」


まったくもってそのとおりである。が呆れのため息をつき、カガリはバルトフェルドなんておかまいなしにチリソースをケバブにかける。そしてパクッとおいしそうに頬張った。そして始まる、ソース戦争。置いてけぼりになっているキラのケバブに、二人がそれぞれの推しソースをかけようとしている。


「あほくさ・・・」


はとりあえず放置して眺めていたのだが、「あ」とこぼした。キラのケバブには、勢い余って赤と白のソースがべちゃり。日本人がここにいたのなら、「紅白でめでたいねー」とでも言いそうな色合いだ。それをキラはとりあえず食べてみる。ミックスもなかなか、らしい。今度やってみようかなと思ったは、先ほどから感じていた気配が動いたのに気づいた。


「来る!」


ミサイルの発射音と同時にバルトフェルドがテーブルを蹴り上げて防御壁をつくった。カガリのことはキラが反応して守っている。は隠し持っていた銃を出して構えた。


「ここで大人しくしてて。ただのクーデターなら押さえ込めば・・・」

「死ね!コーディネイター!」

「青き清浄なる世界のために!」


キラたちに言い聞かせていたの心臓がドクンと跳ねた。“青き清浄なる世界のために”―その言葉を発する組織は、この地球上でただひとつ。


「ブルーコスモス・・・!!」

「っ、待て!!」


えっ、とキラの口から漏れた。はバルトフェルドの制止もきかず飛び出し、敵が撃ってくる弾を避けながら拳銃とナイフでブルーコスモスを地に伏せていく。だがさすがに数が多く、キンッと目の端を弾がかすめた。幸い当たったのはサングラスだったがそれがふっとばされる。最後の一人を斬り伏せ、は大きく乱れる呼吸を落ち着かせるように深呼吸した。


「おいおい無茶するなよ」

「・・・ごめん」


背後の敵も終わったようで、バルトフェルドがに歩み寄ってきた。


「隊長!ご無事で」


軍靴を鳴らし、バルトフェルドの副官マーチン・ダコスタが走ってくる。


さんもご無事で」

「えぇ、大丈夫です」

・・・やっぱりあの、、なの・・・?」

「・・・久しぶりね、キラ」


の名前に反応し、キラが呟く。ケバブソースまみれになってしまったカガリが、とキラを交互に見た。そして、隊長と呼ばれた男を。


「俺も平気だ。彼のおかげでな」


どうやらキラも加勢したらしい。バルトフェルドは彼らを見やり、帽子とサングラスを外した。その顔を見て、カガリが目をみはる。


「アンドリュー・バルトフェルド・・・砂漠の、虎」


カガリたちの警戒が、一気に上昇した。




















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