砂漠の虎






















ぼんやりと白い空間に金が浮かぶ。金と、緑。その後ろ姿が忘れようにも忘れられないもので、とっさに手を伸ばしていた。しかしいくら手を伸ばしても、足を動かしても、一向に近づく様子はない。むしろ遠ざかっている気がする。


「・・・待って」


どんどん、どんどん小さくなっていく。


「嫌だ・・・いかないで・・・いかないで・・・!」


光と共に消えていく。
逝かないで。その言葉さえも、消えていった。



















つん、と鼻をつく濃い香りで、はゆっくりと目を開けた。ぼんやりする頭でこの香りはと考える。この香りには覚えがある。むしろ馴染みのある類だ。このよくわからないブレンドの香りを嗅ぐのはどれくらいぶりだろうか。


「・・・・・アンディ・・・?」


小さく呟くと、少し離れたところでカチャと陶器のぶつかり合う音がした。


「気がついたか?


入れたてのコーヒーを手にしたまま、アンドリュー・バルトフェルドはが横たえられているベッドに歩み寄った。


「飲むか?」

「・・・起きがけにコーヒーは無理」


顔を歪めながら起きあがろうとすると手で制された。まだ熱があるから大人しくしていろと。そういえば身体中が熱い気がする、と今更思う。水をもらって一息つき、彼を見た。


「・・・アンディ」

「おまえが砂漠に転がっているのを昨日見つけたんだ。MS単独で降下したんだろう?そりゃ熱もでるさ」


呼んだだけでのききたいことを読みとり、バルトフェルドは続ける。


「一緒に落ちてきた二人はジブラルタルにいて無事だとさ」

「・・・そう」


良かった、と呟くと、熱のせいと安堵で睡魔が襲ってきた。


「俺はこれからちと出てくる。ちゃんと寝てろよ」

「・・・ん」


くしゃりとの髪をなぜるとバルトフェルドは部屋を出ていった。やがても睡魔に負けて意識を沈めた。



















眠っていると、また何かの香りがしてきた。今度は甘い・・・これは。スゥと目を開けると、そこには大きな瞳がふたつ。ぱち、ぱちと瞬きをする間が数秒。


「・・・アイシャ、近い」

「起きちゃったのね、残念」


残念ってなにをする気だったんだと思いつつ、先ほどよりは楽になったらしい身体を起こす。にアイシャと呼ばれた女性はデスクから水をとってに渡した。


「ありがとう」


まだ少し火照る身体に冷たい水がしみこむ。ふうと一息ついてはアイシャを見た。


「アンディってどこに行ったの?」

「んーと・・・“足付き”ってクルーゼ隊が呼んでる、地球軍のアークエンジェルの所に行ったわ」

「アークエンジェルの!?・・・ッて」


大声を上げるとズキリと痛んだ。これは熱によるものというよりは傷の痛みのような気がする。


「なんか、頭の傷開いちゃってたわよ?」

「・・・またか」


これで何度目だろう。一向に治る気配のない傷にため息がこぼれた。



















そのころ地球ザフト基地ジブラルタルでは、クルーゼがイザーク、ディアッカと通信を行っていた。


『両名とも無事で何よりだ』

「・・・死にそうになりましたけど」


ディアッカが肩をすくめてみせる。二人ともとくにあらたな外傷はなさそうだ。クルーゼは二人に、駐留軍と共に、地球へ降りたアークエンジェルの捜索と、機会があれば追撃もと命じた。


『そうだ、別所に降下しただが・・・』

「!」


クルーゼの前でも珍しくしかめっ面をしていたイザークが反応する。


『今はバルトフェルド隊長の元で療養中とのことだ。特に問題はなく、すぐに動けるようになるそうだ』

「・・・そうですか」


小さく安堵の息をつく。クルーゼとの通信が切れると、ディアッは大きく息を吐いた。


宇宙そらには帰ってくるなってことかぁ?なぁ?」


イザークと目が合う。イザークは依然と不機嫌なまま、おもむろに顔の包帯を解いた。


「機会があれば、だと・・・?」


その顔には屈辱の色と、斜めに走る傷が一本。


「討ってやるさ・・・次こそ必ず、この俺がな!!」


イザークは苛立ちをぶつける先が見あたらず、ダンッとじたんだを踏んだ。



















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