翌日、着任した残りのルーキー3人の前に、はいた。銀髪を綺麗に切りそろえたイザーク・ジュール、金髪に褐色肌のディアッカ・エルスマン、ミゲル機のような鮮やかなオレンジ色の髪のラスティ・マッケンジー。この3人も“赤服”で、まさかの新人5人とも赤にすくなからず驚いた。互いの自己紹介をして、簡単な説明をしながら基地内を歩く。なんとなく冷えた空気が流れている中、ラスティだけのテンションが高めだった。
「この先がMSの格納庫よ」
昨日はミゲルがアスランとニコルを連れていた所に立つ。ノーマルジン、隊長機であるシグー、ミゲル機、機などが並んでいた。ちらと後輩達を見て、は目を瞬かせた。先ほどとは顔つきが変わっている。やはりMSを目にすると気が高まるものなのだろう。
「・・・あの黄金色の機体は、どなたのものですか」
今までほとんど口を開かなかったイザークが言葉を発した。
「あれは私のよ」
「あなたの・・・?では、やはりあなたが、“黄金のヴァルキリー”・・・」
驚いた。軍人になりたてほやほやの新人が、の2つ名を知っているとは。
「よく知っているわね」
「クルーゼ隊のエースですから。“黄昏の魔弾”と共によく耳にします」
「そうなの?」
自分の知名度はよくわからない、とは首をひねった。ちなみに“黄昏の魔弾”はミゲルの2つ名で、コンビネーションの良い2人は、よく組んで任務をこなしていた。
「なぁなぁ、黄金のヴァルキリーって何?」
ラスティが興味津々な様子でイザークにきく。
「黄金色の機体で戦場を駆ける戦乙女・・・ついた名が“黄金のヴァルキリー”だ」
「へー」
わかったのかわかってないのか、ラスティの声はそれだけだった。
「さて、これで大体の説明はしたかな?後は宿舎だけど、さすがに私は入れないから、同室のやつにバトンタッチするわね。ほかに質問ある?」
「はぁいせんぱーい」
だらしなく間延びした声でディアッカが挙手する。なんだかにやにやした顔に、嫌な予感しかしない。
「・・・なに?」
「彼氏はいますかー?」
「なっ・・・なんてことをきくんだディアッカ!!」
そんな事だろうと思った、とため息をつくをよそに、イザークが慌てふためいている。こういう色恋事には弱いのだろうか。ラスティはというと、「俺も知りたい!」と目を輝かせている。
「・・・セクハラでクルーゼ隊長に訴えようかしら」
「えっ、はっ!?や、ちょ、すんません!!」
「・・・冗談よ」
本気で慌てるディアッカに苦笑してみせる。「なんだよもー」とディアッカが大きく息を吐いた。
「きいてどうするの?」
「別に?ただの好奇心です」
「うんうん!」
肩をすくめるディアッカに、しきりにうなずくラスティ。その隣のイザークは、そっぽを向いていて表情がよくわからない。
「彼氏は・・・」
「彼氏は・・・?」
ごくり、と固唾を飲むような勢いでラスティが見つめてくる。期待させるようで悪いが。
「いませーん。好きな人もいませーん」
「なぁぁぁんだー」
がっくりとラスティが肩を落とす。ディアッカには予想の範疇だったようで、ただ肩をすくめただけだった。そしてイザークは。
「・・・?」
なぜか、ほっと息をついたように見えたのだが。気のせいだろうか。
「周り男ばかりだけど、どんな桃色の空気はこれっぽっちも無いわよ」
「勿体ないなぁ。先輩、綺麗なのに」
「そ・・・そう・・・?」
言われ慣れていない言葉に一瞬ドキッとする。
「確かに、着飾ったら美人度増すだろうなー。なぁイザーク、お前も思うだろ?」
ディアッカがイザークに振るが、先ほどの様子からしてイザークに振る話題ではないような気がする。
「・・・そうだな」
だがイザークの思いもよらない返答に、彼の同期2人が固まった。自身も驚いて目を瞬かせた。イザークがはっと我に返ったように顔を上げる。
「なっ、ちっ、違うぞ!母上が、女性は着飾ろうが着飾るまいが、芯がしっかりしていれば美しいものだと・・・!!」
顔を赤くして必死に弁解するが、その内容も結局は褒め言葉な事に、彼自身は気づいていない。はそんな様子がなんだかおかしくて小さく笑った。イザークがまた何か言おうと口を開きかけたが、結局口をつぐんでそっぽを向いただけになった。
「さて、冗談はこれくらいでいいかしら?」
その微妙な声色の変化に、3人の顔が引き締まる。
「今日で無事着任だから、何日かすれば任務が入るでしょう。MSにも乗る事になる。出撃すれば“死”の直面に合う事も多い。でも」
は一度切って3人の顔を見渡した。そして息を吸い、気合を入れる。
「死ぬんじゃないわよ」
「「「はい!!」」」
しっかしりた返事と敬礼に、は満足そうにうなずいた。