大きな犠牲のもと
イザークとの通信からそれほどたたないうちのことだった。ディアッカからの通信で、イザークが顔に傷を負ったとしらされた。命に別状はないが、モニターの爆発により顔にを負傷したとのこと。気がかりに思いながら、合流したラコーニにラクスを預ける。ラコーニはさらに、とあるものを運び込んでいた。橙色の、ジン。今はもう乗り手を喪った、ミゲル・アイマンの専用機。大分前に修復は完了していたのだがなかなか引き渡せず、これを機にこちらへ持ち込んだとのことだった。はその、“黄昏の魔弾”といわしめた機体を見上げ、口を引き締めた。
「隊長、お願いがあるのですが」
「なんだね?」
「ミゲル機のパーツを、タルタロスへ組み込んではいただけないでしょうか?」
「ほう・・・?」
なにやらおもしろそうにクルーゼがもらす。
「しかしタルタロスとジンでは構造もパーツも違う。タルタロスの性能を落とすのではないのかね?」
「おとさせなどしません」
やけにきっぱり、は言い切った。そしてまたその橙を見上げる。
「絶対に」
「・・・いいだろう。整備士たちに指示しておこう」
「ありがとうございます!」
一礼し、敬礼も忘れない。そんなを一瞥し、クルーゼはその場を後にした。
整備士たちは人力を尽くしてくれたらしい。次の出撃命令時には、黄色の機体に所々橙色が組み込まれていた。一番特徴的なのは右肩のスカルだ。散々「趣味が悪い」と言ったそれも、今では愛しさに似たものが感じられる。戦闘準備でコックピットに入り、性能を確認する。橙パーツの部分も一応PSがいけるらしいが、従来の装甲より弱いから気をつけろと注意を受けた。あとはそれほどでもないか、とは前を見据えた。
「・、タルタロス、出撃する!」
目指すは、地球降下しようとしているアークエンジェル。アークエンジェルを援護しようといくつかの地球軍戦艦も出てきていた。は味方の数を確認し、そこに今は待機中のはずの機体を見つけて目をみはった。
「イザーク!?あんたまだ出れる状態じゃないんじゃ・・・」
『うるさい!人のことを言えた義理か!?』
不機嫌な声で怒鳴りつけられ、イイエと返す。の頭の包帯はなぜか未だとれないままだ。本国に帰れる状態でない今これ以上の治療ができないというのもそうなのだが、なぜだかなかなか治らない。
「無茶はしないようにね」
『そっくりそのまま返してやる!重傷のくせに筋トレしていたやつに言われたくはない!』
「あー・・・はは」
それを言われてしまうと返す言葉もない。他三機の面子もあきれの息しか出ないようだ。
『戯れるのもそれくらいにしておけ。目標はあくまで足付きだ。他にあまり時間をとられるなよ』
「はっ!」
クルーゼに言われ、気を引き締める。向かってくる数多くのMAを迎え撃つために身構えた。
MAを撃っていく中、ふと、アークエンジェルからの出撃がないことに気づいた。メビウス・ゼロもストライクもいない。そしてアークエンジェルに動きがあった。
「まさか・・・この状況で降下する気!?」
は急ぎアークエンジェルへタルタロスをとばした。しかし地球軍第八艦隊の数が多すぎてなかなか近づけずにいた。はやくしなければ。地球に近づきすぎるとこちらも危ない。そういえば、とは考えた。この地球軍のXシリーズMSは確か単独でも降下できたはずだ。
「・・・なら」
はぐっとアクセルを踏んだ。
『!?』
「いけるとこまでいく!」
アスランの戸惑いの声にそれだけ返すと、そこへ新たな信号が入った。アークエンジェルから発進する機体が2。ストライクと、メビウス・ゼロ。降下中のこの状況で出てくるのかと驚きはしたものの、は揺るがない。たとえ、相手がキラでも。も守りたいものがあるのだ。
ストライクとデュエルが、メビウス・ゼロとバスターが対峙する。はそのままアークエンジェルに向かって突っ込んだ。
「行かせるかぁぁぁ!!!」
重力で多少ぐらつくが、なんてことはない。はやく、はやくしなければ。近づいてくるMAをけちらしつつ、アークエンジェルへ突撃する。反転したところで、はっとそのおかしな距離に気づいた。なぜ、ガモフがあんなところに。
「ゼルマン艦長・・・?・・・まさかっ!?」
ガモフが地球軍艦隊と隣合い、撃ち合う。
「そんな・・・ゼルマン艦長・・・ガモフのみんな・・・っ!」
差し違えるつもりだ、ガモフは。ダンッと機内を殴った後、大きな衝撃に襲われた。
「大気圏に入ったか・・・」
さすがに深追いしすぎたか。他のみんなはと辺りを見れば、バスターも同じ状況だった。メビウス・ゼロは大気圏に突入できないため、すでにアークエンジェルに退いている。デュエルはストライクと交戦したまま重力に引き寄せられていく。そこへ、アークエンジェルから発射されたらしい脱出用のシャトルがとびこんだ。いけない。
「だめ!イザーク!!」
の叫び声は届かなかった。デュエルのビームがシャトルを撃ち抜き、爆発した。
「・・・ッ!」
おそらくあれには、アークエンジェルの民間人が乗っていたのだろう。しかしアークエンジェルに民間人が乗っていたなど知る由もないイザークは、脱出兵だと思った。
「・・・・・ごめんなさい・・・・・」
のせいでは決してないというのに、謝らずにはいられなかった。アークエンジェル内を走り回っていた子どもの笑い声が聞こえた気がし、は一筋の涙を流しながら意識を手放した。
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