交渉決裂
キラの訴えをきいて、ヴェサリウスからはイージス一機のみが出てきた。ストライクの前に、いつでも撃てる距離で停止する。互いのハッチが開き、また確認のためにラクスが言葉を発する。「こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ」なんて、この場にそぐわない、彼女らしい言葉。アスランがコックピットから出てラクスを受け取る準備をする。そしてキラが、ラクスの背を押した。無重力に従い、アスランの元にラクスが到着する。
『色々とありがとう、キラ。アスラン、あなたも』
『・・・』
キラに呼ばれ、は静かにストライクの隣にあったタルタロスをイージスの方へ寄せる。
『キラ!おまえも一緒に来い!』
『!』
おそらくそれは最後の叫び、最後の呼びかけ、最後のチャンス。はただこの二人を見守った。
『おまえが地球軍にいる理由がどこにある!?』
『・・・僕だって、君となんて戦いたくない』
キラの表情が苦しみに、瞳が悲しみに揺らぐ。
『でも、あの艦には守りたい人が・・・友達がいるんだ!!』
ナチュラルだから、コーディネイターだから、そういうことではなく、純粋に、心から思える“友達”。キラの決断は変わらないと悟ったアスランの表情もまた苦しみと悲しみに揺れた。
『ならば仕方ない・・・次に会うときは、俺がおまえを討つ!』
『・・・ッ僕もだ』
どうしてこんな巡り合わせになってしまったのだろう。答えなんてわかるはずもないが、そう考えずにはいられなかった。
ストライクのハッチが閉まり、遠ざかっていく。は次におこるべく事態にそなえて構えた。仕掛けるなら、ここだ。
ヴェサリウスからは隊長機であるシグーが、アークエンジェルからはメビウス・ゼロが発進された。
『隊長!?』
『アスランはラクス嬢をつれて帰投しろ。、君もだ』
この場合は仕方がない。は戦線離脱するためにいタルタロスを発進させようとした。その時。
『ラウ・ル・クルーゼ隊長』
凜とした声がコックピット内に響く。
『やめてください。追悼慰霊団代表の私のいる場所を、戦場にするおつもりですか?』
「ラクス・・・」
『そんなことは許しません。すぐに戦闘行動を中止してください』
ラクスの言っていることはもっともで、クルーゼも従わざるおえなかった。クルーゼが退くのをみると、アークエンジェル側も退いていった。は最後にストライクの後ろ姿を見やる。これで完全に、キラとアスランは決別することとなった。これが運命というものなのだろうか。
「・・・運命なんて、くそくらえだ」
ダンッと強く打ちつけるの表情も、酷く苦痛に歪んでいた。
ヴェサリウスに帰艦してタルタロスから出る。アスランがラクスを連れて出るのを見て後に続いた。ロッカールームで久しぶりに自分の軍服に袖を通して落ち着く。今頃クルーゼはラクスと対面しているだろうが、まずはブリッジが。そう思ってブリッジに飛び込むと、歓迎の声が上がった。
「よく戻ったな、!」
「心配したんだぞ」
「お帰りなさい、さん」
様々な出迎えに、は笑みを浮かべた。ただいま、とこぼして艦長に敬礼、そして隊長であるクルーゼへ。
「・、ただいま帰艦致しました。私のふがいなさにより艦を空けてしまい、申し訳ありません」
「何、無事に戻ってきてくれたのだから問題はないさ。・・・その頭の傷は?」
敬礼を解き、頭の包帯を苦い顔でさする。
「2、3カ所の傷と・・・何度かそれらが開いてしまってなかなか治らない状態で・・・。それ以外は問題ないのですが」
「そうか・・・ならば軍医の元へ行き、しばらく休むと良い。気疲れもしているだろうしな」
「・・・お心遣い、いたみいります」
ここはありがたく受け入れておこう。そうしてもう一度敬礼し、ブリッジをあとにしようとしたの背中に、もう一言降りかかった。
「そうだ、。ガモフの三人も君のことをひどく心配していた。連絡してやると良い」
「・・・はい」
どんな光景になるのか目に見えて、は苦笑したのだった。
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