就寝していたは、部屋の前に人の気配があるのを感じ取って目を覚ました。ラクスを起こさないようにベッドから抜け出し、警戒する。またあのフレイなんて子が来てはたまらない。だがそのドアが開いた先にいた人物に、は目をみはった。
「・・・キラ?」
「・・・」
キラが、なにやら決意に満ちた顔で、そこにいた。
「どうしたの?こんな時間、休んでいる女性の部屋に来るのは感心しないわよ」
「・・・ごめん。でも僕、やっぱりこれは、よくないと思うんです」
「・・・?」
キラの物言いには眉をひそめる。いつの間にかラクスも目を覚ましていて、首を傾げていた。
「あなたたちを、脱出させます」
「!」
キラの言葉には目をみはった。そして、険しい表情になる。
「・・・そんなことをすればただじゃすまないわよ、キラ。ラクスだけならともかく捕虜の私まで逃がしたとなったら、軍法会議はまのがれない」
「わかってます。それでも・・・っ」
キラの瞳は揺るがない。言っても無駄だとは悟った。
「ラクス、支度して。ハロ、これ外してちょうだい」
『ハロ!』
手かせは外そうと思えばいつでも外せた。自由になった両手首をさすり、ラクスの支度と自分の身なりを整えると、三人はドッグへ向かった。
「キラ、ストップ」
言われてハッとし、キラはラクスを隠した。も物陰に隠れる。前方にはサイとミリアリアがいて、キラに気づいた二人は、なぜキラがこんなところにいて休んでいないのか疑問を抱きつつ近づいてきた。どうやってやりすごすか、キラが思いを巡らせるが、ひょいとラクスが顔をのぞかせたことでそれは無駄となった。サイとミリアリアの目が驚愕に見開かれる。
「キラ、おまえ・・・」
「まさか・・・」
「・・・黙って行かせてくれ。サイたちを巻き込みたくない。僕は嫌なんだ、こんなの!」
民間人の少女と捕虜を人質に取るなど。サイは頭をがしがしかき、大きく息を吐いた。
「ま、こんなの本来悪役がすることだしな。・・・手伝うよ」
「サイ・・・!」
キラの顔に喜びが浮かぶ。人に気をつけつつ、先へ進んだ。
ロッカールームの前に人がいて、ドキリとキラたちの心臓がはねる。が、そこにいた人物を確認し、またその手にあるものを見て、は警戒をといた。
「・・・アリアさん」
「・・・来たわね」
軍医、アリア。2、3日程度のはずなのに、しばらくの間会っていなかった気がする。ずいと渡されたのは、の赤いパイロットスーツ。え、とは彼女を見た。
「グッドラック」
彼女はそれだけ言って去っていく。これでアリアもこの件に荷担したことになるが、彼女なら自力でなんとでもするだろう。ロッカールームでキラとはパイロットスーツに、ラクスは宇宙服を着込んだ。スカートのボリュームで腹がぽっこりでてしまい、サイは「いきなり何ヶ月?なんて」と冗談をこぼした。
幸いハンガーには人がいなかった。キラとラクスはストライクへ、はその隣のタルタロスへ乗り込む。タルタロスも修理してくれていて助かった。
「サイ、ミリアリア」
不意に呼ばれ、二人が一瞬固まる。
「ありがとう。キラはいい友人をもったわね」
「・・・」
なんと言ったらいいのかわからず、二人は沈黙した。
「責任を問われたら、私に脅されたと言いなさい。絶対よ」
「・・・人が、良いんですね」
その言葉には目をぱちくりさせ、苦笑した。
「“ここ”でそれを言われたのは二度目だけど、私はそんな“良い人”じゃないわ。いいわね二人とも、何もかも私に押しつけなさい、必ず」
二人の返事を聞く前にコックピットに乗り込む。外部者の声がきこえて、見つかってしまったことを把握した。タルタロスを起動させて異常がないことを確認すると、ストライクに続けて発進させた。
『こちら地球連合軍アークエンジェル所属のMS、ストライク。ラクス・クライン、ならびに・を投降、引き渡す』
コックピットにキラの声が響く。
『ただし、ナスカ級は艦を停止。イージスのパイロットが単独で来ることが条件だ』
この文句も必死に考えたのだろう。
『この条件が破られた場合、二人の命は、保証しない・・・!』
申し訳ないことをさせている、とは目を伏せた。ただこれだけでは説得力に欠ける。は通信を全周波で繋げた。
「こちらタルタロス、・。この通り、命に別状はありません。また、彼の言っていることは本意であり、ラクス様は彼のコックピット内にいらっしゃいます。ご判断は隊長にお任せいたします」
言って、息をつく。クルーゼはこれを受けるだろう。そして、その後のこともしっかり考えている。はぎゅっと、拳を握った。
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