マリューにラクスのそばにいることを許されたは、手かせこそそのままだが、捕虜とは思えない扱いだった。やることと言えばラクスの歌を聴いたり筋トレしたりくらいしかない。手は使えないから主に腹筋や下半身だ。そして時折、ラクスに心配そうな顔をされる。「お怪我、大丈夫ですか?」と未だ取れない頭の包帯を撫でられたり、「手が使えないのは不便ですわよね・・・」と手を握られたり。そのたびには「丁寧な手当をしてくれただけでありがたいわ」「私は軍人で捕虜だもの。仕方がないわ。むしろこれは捕虜にしては良すぎる待遇よ」と返していた。食事を持ってくるのは相変わらずキラで、それで彼とも少しずつ話もできた。


















また今日もラクスの歌を聴いているときだった。突然の警報に、ラクスも歌うのを止める。


『総員、第一戦闘配備!』

「戦闘・・・」

「まぁ・・・」

「ラクス?」


不意にラクスがドアの方へ向かう。鍵は常にハロが開けているので、簡単にドアは開いた。


「!?」


ちょうど通りかかったらしいキラが、ラクスの部屋を見てぎょっとする。


「この部屋の鍵はどうなって・・・」

「鍵ね、そのコが」


ちら、とハロに目を向けるとキラもそっちを見るが、今は悠長に話している場合ではない。


「部屋から出ずに大人しくていてください。、お願いします」

「えぇ・・・・キラ」

「え?」


走りだそうとしたキラを、が呼び止める。


「死ぬんじゃないわよ」


それはかつて、後輩たちに言った言葉。キラは一瞬ぽかんとしたが、しっかりと頷いて走っていった。


「・・・、歌いますわ。祈りの歌を」


ラクスが部屋に入り、これから戦う人たちの無事と、散っていった人たちの安らぎを祈る歌を紡ぎ始めた。




















それからしばらくして、突如ドアが開かれた。そこにいたのは男女一名ずつ。確か女はフレイと言ったか。ラクスに暴言をはいた女。はとっさにラクスを自分の背に隠した。


「・・・何の用?」


フレイのただならぬ表情に、は敵意を向ける。フレイは一瞬びくりと身を震わせたが、キッとを睨んだ。


「その子をこっちに渡して」

「何?」

「はやく!その子プラント評議会議長の娘なんでしょう!?その子突き出して、パパの艦を攻撃しないように言うのよ!!」

「フレイ!」


の目が見開かれる。ラクスを交渉の道具にするというのか。さすがにそれは、と付き添ってきたサイがフレイを止めようとするが、彼女の勢いはおさまらない。相手は民間人だ。サイも、軍服を着てはいるが軍事訓練など受けたことのない、軍籍にも無い学生だという。どうするか、当て身をくらわせる程度ならいけるか。


・・・」

「大丈夫・・・ラクスは、私が守る」


ダンッと床を蹴って一気に間合いを詰める。フレイとサイの短い悲鳴が聞こえた。


「こないでぇぇぇ!!!」


無鉄砲に振り回される腕を避けつつ、酷くならない程度の位置を、と考えたが、両手が使えないのはやはり不利だった。ガッと鈍い音が頭をとらえる。


「ぐっ・・・」

・・・っ」


バランスを取り直すことができず、は床に倒れた。ラクスは慌てて駆け寄り、白い包帯が赤く染まっていく様を見て目をみはった。


「そ、そっちが悪いのよ!?いきなりとびかかってくるから・・・!」

「・・・・・っこの・・・」

「いけませんわ、、また傷が・・・」


身体をよじって立ち上がろうとするをラクスが止める。そして彼女はすくっと立ち上がり、コツコツと歩いていく。


「だめ・・・ラクス・・・っ!」

「・・・これ以上が、私のせいで傷つくのは、見たくありませんもの」


行っては駄目だ。取引の道具になんて、させられない。だがラクスはフレイをまっすぐに見据えた。


「どちらへ、ご一緒すればよろしいんですの?」


そしてドアの向こうへと消えていく。はもう一度彼女の名を呼び、意識を手放した。



















ラクスはフレイによってブリッジに連れてこられた。そしてフレイは叫ぶ。艦への攻撃を止めなければラクスを殺すと。しかし、ブリッジに動揺がはしる中、フレイの父を乗せた艦は呆気なく撃沈された。フレイの悲鳴がブリッジ内に響く。状況は地球軍側の圧倒的不利で、このままではアークエンジェルも墜とされてしまう。マリューが判断しかねている中、ナタルが全周波通信でザフトに訴えかけた。アークエンジェルへの攻撃をやめなければ、保護しているラクス・クラインと捕虜となっている・シュライアの身柄は保障できない、と。それによりザフトの攻撃は止み、アークエンジェルはかろうじて難を逃れたのであった。




















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