身体を動かせるまで回復したは、ひとまず医務室から別室へ移されることになった。ザフト軍人であるが医務室にいるままだとほかの人間が行きづらい、とのことだった。アリアは完治していないのにと少々渋ったが、独房よりはマシかと折れた。はむしろ独房でないのかを目を瞬かせたくらいだ。両手を拘束されたまま、アリアの後に続いて歩く。だが不意にアリアが立ち止まって、も必然的に足を止めた。


「・・・どうしたの?」

「・・・鍵してあったはずなのに」

「?」

ちょうど曲がり角なので、にはアリアの前方が見えない。ひょいと顔をのぞかせたは、そこにいるはずのない人物の姿を見て、目をみはった。


「ラクス様!?」


ピンクの長い髪の少女。それは地球軍の艦にいるはずのない人物。彼女がその部屋へと入っていき、その後に丸いピンクの物体が続く。なぜここに彼女が。その疑問が頭の中をぐるぐる回っている。はなるべく平静を装い、アリアの後に続いた。しかし、そこに到着したタイミングが、悪かった。


「コーディネイターのクセに、馴れ馴れしくしないで!!」


ぷつん、との中のなにかが切れた。


「ちょっ、!」


アリアが止めるが止まらない。はすぐさま食堂に飛び込み、ラクスとフレイの間に滑り込んだ。


「きゃあっ!何この人!?」

「きみは・・・っ」

「まぁ、ではありませんか。どうしてこちらに?」


フレイが悲鳴を上げてミリアリアにすがりつく。ミリアリアも突然のの登場に驚き、キラもまた、タルタロスからおろしたザフトのパイロットが現れたことに目を丸くした。ただラクスだけは、かわらぬ穏やかさでの背中を見つめていた。どうしてここに、はこちらがききたいものである。


「・・・・・コーディネイターだからなんだってのよ・・・そもそもナチュラルが生み出したものじゃない。それをコーディネイターだから近寄るな?滅びろ?ふざけるな!」

、落ち着きなさい」


アリアの制止の声はには届かない。両手を拘束されているというのにその怒気殺気はひしひしと辺りを包み込んでいる。


「ラクス様に危害を加えてみなさい。その命、狩り取ってやるから」

「ひっ・・・」

、怖がらせてはいけませんわ」


そっと、ラクスが怒りに震えるの肩に触れる。




「・・・・・」



「・・・・・はい」


身構えを解き、一歩さがる。アリアの大きなため息がきこえた。もめていた原因をきくと、アリアはキラに目を向ける。


「キラくん、ラクス嬢の食事を運んでもらえる?」

「は・・・はい」

「それと、あなたは立場をわきまえなさい」

「・・・・・」


口を引き結び、食堂を出ていくアリアに続く。キラとラクスもまたその後に続いた。





















「・・・アリアさん」

「何?」

「ラクス様と、同じ部屋にしてもらえますか」

「・・・それは」


突然の申し出に、アリアは戸惑った。


「ラクス様は、私が守る」

「・・・艦長に、かけあってはみるわ」


アリアはひとまずラクスの部屋にも入れ、その場をキラに任せてブリッジに向かった。その間、はラクスとキラの会話に黙って耳を傾けていた。


「あなたが優しいのは、あなただからでしょう?」


この子は、どんな人の心も癒し、どんな人の心へも入ってくる。ラクスの空気で、キラの心も癒えてくれたらと、は願うのだった。




















「キラ」

「え?」


なぜ名前を、とキラがきくのに、さっきアリアさんが呼んでいたからとは答える。


「あなたがここにいるのは、友達のため?」

「・・・はい」

「そう・・・やっぱり説得は無理そうね」


再びキラが「え?」とこぼした。アスラン、と小さくつぶやくと、キラの目が見開かれる。


「あなたは・・・」



「え」

「私はよ、キラ」

・・・」


なれ合うのは得策ではない。彼はこっちにいることを選んで、敵となっているのだから。それでも、出逢ってしまったから、はキラに“タルタロスのパイロット”ではなく、“”として覚えておいてほしかったのだ。
その後キラは、の分の食事も持ってくるといって部屋を出た。


「ラクス様」



「・・・ラクス、食べないの?」


様、と呼ぶとラクスは怒る。友人なのだからやめてください、と。他人の目があるときは仕方ないにしても、二人になったときまで様付けをする理由はなかった。


「キラ様がの分も持ってきてくださってからにしますわ」

「冷めるわよ」

「冷めてしまっても、と一緒に食べれば美味しさはさらに増しますわ」


全くこの子は、とは苦笑した。


「ならラクス、キラが来るまで、歌ってくれる?」

「えぇ、喜んで」


すぅっと息を吸い込み、ラクスが静かに歌い始める。ラクスの歌声は心癒される。生きる人にも死せる人にも与える、聖なる歌声に、も自らの心を癒してもらうべく、束の間静かにひたっているのだった。


















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