アークエンジェルに戻ると、はすぐさま軍医の元に放り込まれた。その時にはすでに意識はなく、ある意味軍医も楽に治療ができたという。
意識が浮上してきて目を開けると、白い天井が見えた。身じろぎすると、両手が前で拘束されていることがわかった。
「あ、気がついた?」
デスクに向かっていた白衣の人物がが寝かされているベッドに近寄る。焦げ茶の髪を後ろでくくった、女性だった。
「ごめんなさいね、念のため両手だけ拘束させてもらっているわ」
「・・・・・なぜ」
「治療したのかって?私が医者で、あなたが大怪我人だからよ。そこに地球軍もザフト軍も、ナチュラルもコーディネイターもないわ」
「・・・・・」
胸を張って言われてしまい、なんだかまぶしくて目をそらす。
「しばらくおとなしくしておいてね。ま、無駄な抵抗をするような馬鹿ではないだろうけど」
「・・・・・」
この女、できる。がこの女軍医に抱いた第一印象だった。
ちょっとでてくるわね、と女軍医―アリア・ラシュトルは医療室をでていった。自然とうとうとし始めたが、数分後にドアがスラッシュする音で目を開ける。はやいなと目を向けたが、そこにいたのはアリアではなかった。
「よ、調子はどうだ?」
「エンデュミオンの鷹・・・」
「おいおい、ちゃんと名乗っただろ?」
苦笑しながら、ムウはベッド脇の椅子に腰掛ける。
「呼ばないわよ」
「敵だからか?」
「そう」
「なら俺も“ヴァルキリー”で通すかね」
「・・・・・」
いたずらっぽく笑うムウに、は一つため息をついた。
「で?何の用なの」
「冷たいねぇ、運んでやったのに」
「頼んでないし・・・でも、助かったわ、ありがとう」
「・・・・・」
「・・・何」
「いや・・・素直に礼を言われるとは思ってなくてな・・・ッて!」
失礼なことを言い出すムウに蹴りを食らわせてやると、腹がズキリと痛んだ。「いってぇなぁ、足も拘束した方がいいんじゃないか?」とムウがこぼすのは無視した。
「さて、用件だが」
急に声色が変わり、も向ける目を変えた。
「アルテミスで補給ができなかった俺たちは、とある場所で補給をしようと思っている。そのとある場所ってのがネックでな・・・」
「この辺りに地球軍が補給できそうな場所なんて無いでしょう・・・?」
「あぁ、だから・・・デブリから、ちょっと、な」
「・・・・・」
答えを聞き、思わず眉をしかめる。致し方無い、とはいえもあまりいい気はしなかった。さらに続けられた言葉に、は目を見開くことになる。
「そこがまた・・・ユニウスセブン、でな」
「ユニウスセブン・・・!?」
血のバレンタイン。すぐさまの言葉が浮かんだ。軍事プラントでもない、ただの農業プラントだった場所。それなのに、地球連合軍の核攻撃によって、何万もの人が死んだ。アスランの母もいたという。
「言いたいことはわかる。俺たちがそこからいただくなんて資格はないと思うし、俺たちも、好き好んで荒そうってんじゃない。これは・・・いきるためなんだ」
「・・・なぜ、それを私に?」
無意識にこみ上げてきた怒りをおさえながら、ムウに問う。
「もしおまさんがユニウスセブンの縁者なら・・・いや、そうでなくても、か。さすがに伝えておこうと思ってな」
「・・・そう」
大きく息を吐き、心を落ち着かせる。仕方のないこと、なのだ。
「ユニウスセブンとはとくに縁は無いけど・・・ありがとう」
「・・・おまえさんさぁ、人が良いって言われない?」
「今のところはないわね。それに、その言葉、そっくりそのまま返すわ」
別に知らせなくてもよかったろうに。敵なのだから、気にかける必要などなかっただろうに。
そろそろいくわ、と出ていったムウの背中を、は黙って見送った。
Created by DreamEditor