目を開けて真っ先に視界に入ったのは、銃口だった。ぼんやりする頭のまま、目だけで辺りを見渡す。銃を向けている人物の軍服の色は白だが、の知るそれではなかった。
「・・・ここは」
「やっとお目覚めか」
銃口がぐいと迫ってくる。身じろぎして、両手を後ろで縛り背を壁に座らせられていることを把握した。
「状況はなんとなくわかるだろう?」
言われ、ふと思い返す。確か戦闘中に意識を失って・・・キラによって敵艦アークエンジェルへとは連れて来られた。アルテミスという連合の軍事要塞へと逃げ込んだのだが、アルテミスはアークエンジェルを“歓迎”した。その際は応急処置のみでアルテミスへ運ばれ、今に至る。
「さぁ、ローラシア級のこと、洗いざらい吐いてもらおうか」
「・・・誰が・・・ッ」
銃口を頭に押しつけられ、ズキリと痛んだ。傷に響いてしまっているようだ。
「死にたいのか?」
「・・・生憎だけど」
こんな状況だというのに、の口元には笑みが浮かんでいる。
「死ぬ覚悟なんて、とうの昔にできているのよ」
そのまっすぐな瞳に苛立ちを隠せなかったらしい。連合の男は手にした銃での頭を思い切り殴った。激痛がはしり、こめかみの横を赤い筋が伝う。
「なら本当に、そのうち出血多量で死ぬかもなぁ!!」
「ぐっ・・・!!」
続いて腹を蹴られ、げほっとこみあげてきた液体を吐き出した。
「いい加減に吐いた方が身のためだぜ?」
「だから・・・っ」
「そうか・・・なら、死んで首を宇宙に流すか?」
「・・・ッ」
銃口が首筋に当てられる。万事休すか、と唇をかみしめたその時、大きな振動が二人を、否、アルテミスを襲った。
「な、なんだ?」
アルテミスは宇宙に浮かぶ軍事要塞。つまり地震なんてあるはずもない。
「敵襲だと!?馬鹿な!!」
男はをひとにらみすると、慌ただしく部屋を出ていった。ご丁寧に、ドアは開けっ放しで。
「・・・・・」
焦っていたのと動けないだろうと見てのことだろうが、なめてもらっては困る。
「こちとら、ザフト軍クルーゼ隊の赤服パイロットなのよ・・・!」
痛む身体と朦朧としてくる頭を叩き起こし、は脱出を試みた。
彼らがどうやって傘をかいくぐった、なんてことは考えるだけ無駄だ。荒くなる一方の息と爆発の振動を感じながら、は半ば身体を引きずるようにして歩いていた。そこへ、走ってくる複数の足音を聞いて足を止める。ここで捕まるわけにはいかない。覚悟を決めて身構えたが、ふっと目がかすみ、反応が遅れた。
「ヴァルキリー!?」
その呼び方、その声にはっと意識が浮上する。前方から来た3人をは目を細めて見た。
「・・・なに・・・」
「あーっと、メビウス・ゼロのパイロットのムウ・ラ・フラガだ。で、こっちはアークエンジェルの艦長と副長な」
「大尉、急ぎませんと」
慌ただしく自分たちの身元を説明する男―ムウに副長と紹介された女士官がせき立てる。もう一人の女士官には、見覚えがあった。
「・・・そっちは、ヘリオポリスの工区にいた人ね」
「あなたもあそこに・・・?」
「タルタロスのパイロットなんだ、いてもおかしくないさ。さて、その身体きっつそうだな〜・・・ちょいと失礼するぜ」
「んな・・・っ?!」
返事をきく間もなく、ムウがをひょいと抱き上げる。
「ちょ・・・なにするの・・・!?」
「おまえさんは“俺たち”の捕虜だからな。こんなところで死なせるわけにはいかんさ」
「・・・・・」
「急ぎましょう」
アークエンジェルの女艦長―マリュー・ラミアスの一声により、三人と一人はまた足早に艦へと向かった。