クルーゼ隊に新人が配属される。そう聞いたのは何日前だったか。新人は5人。いずれもアカデミーを卒業したばかりのヒヨッコ軍人だ。明日までに着任との事だから、今日来るか明日来るか。どちらにしても、迎えるだけである。
「さん、調整どうですかー!?」
「問題無しよー!」
黄金色にカスタマイズされた自分専用ジンのコックピットから顔を出して、・は整備士に返事した。ふ、と見られているような感じがして、見学フロアのガラス窓へ顔を向ける。3つの人影があった。よっ、と挨拶する様に片手を上げた金髪の同期ミゲルと、見知らぬ少年が2人。どちらもエリートの証であるワインレッドの軍服を着ている。は彼らの軍服と同じ“赤”のヘルメットを持ち上げて挨拶を返す。少年達が敬礼するとミゲルが何か話し出したが、さすがに声まではここには届かない。機体のメンテナンスも終わったし着替えて戻るかと、は格納庫を後にした。
「お、、いいとこにいた」
軽くシャワーを浴びて着替えた後何気なく歩いていると、後ろから声を掛けられた。振り向くと先ほどの3人がいて、新人達は何故か目をぱちくりさせている。
「さっき格納庫で見たパイロットこいつな。・・・って、お前またろくに髪乾かさずに出ただろ」
「えー」
2人に説明してすぐ、ミゲルはの肩からタオルをひったくって髪をがしがし拭きはじめた。
「すぐ乾くから大丈夫よ」
「そう言って何度風邪ひいてんだ?お前は」
「・・・さぁ?」
も慣れたものなのか、大人しくされるがままになっている。しばらくすると、よし、とミゲルが手を止めた。今度はがミゲルの手からタオルをひったくって、ぼさぼさになった髪をなだめた。
「・・・で、その子達が新人くん達?」
「あぁ」
タオルを肩にかけ直して2人に目を向けると、置いてけぼりだった彼らは我に返って背筋を伸ばし、敬礼した。
「アスラン・ザラです」
「ニコル・アマルフィです!」
年の割に落ち着いた声で紺髪の少年がアスラン、まだ幼さを残す軽い声で若草色の髪に少年がニコルというらしい。
「初めまして。あなたたちの二期上にあたる、・よ。よろしくね」
「「よろしくお願いします!」」
声をそろえた後、ふとニコルがおずおずと口を開く。
「あの・・・失礼かもしれないんですが、確認してもいいですか?」
「何?」
「その・・・先輩は、女性・・・です、よね?」
「へ?」
が目をぱちくり瞬かせる。そして、「あぁ」と納得の声を漏らす。
「この格好だものね。とりあえず女です。スカートよりズボンの方が動きやすいから男物のを着てるの」
「で、ですよね・・・」
つ、と目を逸らされる。なんだろうと首を傾げると、ミゲルがにやりと笑った。
「ははーん。さてはニコルお前、シャワー上がりのでいやらしい想像を「そそそんなのじゃありませんよ!!」
にやにやと笑うミゲルの言葉を、ニコルが真っ赤な顔で否定する。が、どもりすぎてなんとも説得力に欠ける。
「そうじゃなくて!ミゲル先輩と先輩は、その、恋人同士なのかと思って・・・」
「「・・・は?」」
今度はとミゲル、2人が揃って間の抜けた声を出す。互いに顔を合わせて、互いに噴き出した。
「無い無い、それは無い」
「だなー。は“家族”だからな」
「家族?でもファミリーネームが・・・」
今まで黙って聞いていたアスランが呟いて首を傾げた。
「簡単に言っちゃえば居候かな?移籍はしてないから」
「そうだな」
「居候、ですか・・・」
それ以上は聞かなかった。初対面で踏み込める領域では、おそらく無い。
「二期上ってことは、先輩とミゲル先輩は同期って事ですよね」
気を取り直してニコルがきく。
「でいいわよ。クルーゼ隊にいる同期は、私とミゲルの他に、オロールとマシューがいるわ」
「俺ら3人は“緑”、だけ“赤”のエリート様だ」
「もー、その言い方やめてよ」
ミゲルは別にひねくれて言ったわけではないが、の癇に障って眉をひそめた。
「それでもミゲルは専用機貰えるくらい腕良いんだから」
「わかってるってそんなこと」
「自分で言うー?」
あっさり肯定するミゲルには呆れた。その様子をニコルは、仲が良いんだなぁと眺めていた。
「それはさておき・・・2人とももう“軍人”になったんだから、当然“死”に直面することも幾度となくあるでしょう。でも、死ぬんじゃないわよ」
「「はっ・・・はい!」」
妙な間が空いた事に、は片眉を上げた。
「あ、いえ。さっきミゲル先輩にも“死ぬなよ”って言われたので・・・」
なるほど、とはミゲルを見た。彼は、当然だろ?と言うように肩をすくめてみせる。
「あぁそうだ」
「何?」
「明日来る3人の案内役お前な」
「は!?新人の面倒見役はあんたでしょ?」
突然言われたことに戸惑いを隠せずミゲルに食ってかかる。
「2回も同じ話すんの面倒だろ」
「面倒ってあんたね・・・宿舎どうするのよ」
さすがに女であるが男の宿舎に入っていくわけにはいかない。
「お前ならいけるだろ」
「どういう意味よ」
だが結局押し切られてしまい、明日の残り3人の案内はがすることになったのだった。