二人のサムライ と 見守りし者





















陽がサンサンと差す夏空の下。青とオレンジの中に、黄がはしっていた。
小さな手がオレンジに手を伸ばすと、違う所から黄がはしって来て、小さな手が狙っていたオレンジをいとも簡単に落としてしまう。


「かえせ!おれのオレンジ!!」


木から降りて追いかけるが、身軽な彼は捕まらない。オレンジを手にしたまま海へとダイブした。


「かえせー!おれのオレンジー!!」

「まだまだだぜ!チービースーケ!!」


そんな様子をはたから見ていた、二人とよく似た顔の少女は苦笑いを漏らし、「ふたりともまたやってるよ」と呟いた。





























「・・・ん?」


眩しすぎる光に、自然と目が覚めた。うっすらと意識が覚醒していき、今のが夢であったことを認識する。


「何で今頃、あの頃の夢を・・・」


わからないまま体を起こすと、少し離れた所で寝ていたはずのリョーマがいない事に気づく。
近くにいた人に聞くと、テニスコートに向かったらしい。起こしてくれればいいのに。置いていくなんて。
私も着替えてテニスコートに向かった。




















事の始まりは、スミレちゃんが持ってきた話だった。
テニス好きの大富豪が、豪華客船のメインイベントであるエキジビジョンマッチに青学テニス部のみんなにぜひ出て欲しいと言ってきたとのこと。
みんな、主に初めて豪華客船に乗れるという理由で喜んだ。


「豪華客船ねぇ・・・パーティってことは人がわんさかいるよね」

「嫌なの?


呟くと周助がきいてきた。


「嫌というか・・・豪華客船っていうと、貸し切りだったから。というか、プライベートシップ?」

「・・・金持ちだもんなぁ、跡部」


言ったのは英二だ。豪華客船自体はアメリカで姉弟共々アメリカで1回乗ったけど、景吾のプライベートシップには驚かされた。
なんせ、乗っているのは氷帝レギュラー+αと跡部家お付の人たちのみなんだから。
そんなことを思っているうちに、招待を受けることに決定していたのだった。

























テニスコートに行くと、ギャラリーに人が大勢いた。練習試合をしていたというから、それを観に来た人達だろう。
テニスコートには青学のみんな、国光以外と、おそらく相手のチームの人たち。


「・・・え・・・?」


その中に、あるはずの無い、懐かしい顔があるような気がして、息が詰まりそうになった。静かになったコートに声が響く。





「おいおい、なんだぁ?兄貴の顔、忘れちまったのか?」





まさか。でも、あの顔、あのしゃべり方。





「兄貴ぃ!?」

「お前、兄貴なんていたのか!?きょうだいは先輩だけじゃねぇのかよ!?」

も来てんのか!?」


私の名前に食いつくヤツ。間違い、ない。










「リョーガ!?」









いつの間にコートに下りたのか自分でもわからない。いつの間にか、走っていた。




!!」




両手を広げるヤツに向かって走る。走って、思い切り、ボディブローをかましてやった。


「ぐぉ・・・っ、感動の再会が、これかよ・・・」

「感動なんてあるか!急にいなくなって・・・!!」


やばい。なんか目にこみ上げてきた。


「えっと・・・?」


周助からの控えめの声で我に返る。いけない、つい放置しかけた。涙も、引っ込んだようだ。


「こいつは越前リョーガ。・・・うん、きょうだい、かな」

「「・・・ええぇぇぇ!!?」」
























夕食は、相手チームと向き合って行う、会食式となった。この船のオーナー桜吹雪を上座に、国光から最後にリョーマ、さらに奥に私。
向こう側は、リョーガから。リョーガがあちらのキャプテンなのだという。


「越前リョーガ。よろしく!」

「越前たちと、縁ある間柄とききました。奇遇ですね」


奇遇、ね。と思ってしまう私はひねくれているんだろうか。
今までこちらと連絡すらとろうとしなかったリョーガが突然現れるなんて、何かあると思ってしまって素直に喜べない。


「ホント偶然って怖いねぇ。よぉチビ助ー!!みなさぁん、妹と弟がお世話になってまーす!」

「・・・違うって」


リョーガの言葉に小さく呟くリョーマ。私はというと、何とも言えず、ただ苦笑するだけだった。

























夕食後、みんな料理がおいしくないと言っていた。寿司屋の跡取りであるタカさんは、あれはレトルトの味だと言った。


「・・・やっぱりそうか」

もおかしいと思ってたにゃ?」

「こう見えても高級品はそれなりに口にしてるからね。誰かさんのおかげで」


ふと脳裏に浮かぶのは俺様なアイツ。


「あれは素材も作り方も三級だよ」


なにかがおかしい。私の手が、自然と携帯に伸びていた。
























『なんだ?』

「ちょっと気になることがあって」

『お前らが乗っている豪華客船の事か?』

「・・・よく御存じで」

『忍足の奴がどっかから仕入れて来たんだよ』


一体どこから仕入れて来たんだか・・・まぁいい。今はそれどころじゃない。


「まぁ、とにかくそのこと。桜吹雪ってやつを調べて欲しいんだけど」

『それならすでにこっちで動いている』

「え?」

『桜吹雪なんて金持ちは、きいたことがない』


単に“跡部”が大きすぎるから下が見えないのでは、とも思ったが、それはないとすぐに打ち消す。なんせ、“跡部”だ。


『決定的な事が出るのにはもう少し時間が掛かる・・・なんとかやりくりしとけ』

「・・・ありがとう、よろしく」


景吾との通話を終えて電話を切る。青学のみんなのところに戻ると、大変な話が繰り広げられていた。




















「八百長の賭け試合、か・・・」


秀一郎が言うには、どうもリョーガもグルらしい。


「・・・そんなことするやつじゃないのに」



「あいつだってテニスが大好きで、でっかい夢を追いかけてるはずなのに・・・!」

・・・」


何か理由があると、信じたい。桜吹雪の言う事をきかなければならない、理由が。八百長をやるかやらないか、そんなもの、始めから決まっていた。
リョーマが、「練習」と言って離れていく。リョーマは、もやもやしているのかもしれない。


「ねぇ


リョーマが離れたのを見計らってか、周助が声を掛けてきた。


「何?」

「実の所、越前リョーガって、何者なんだい?」

「リョーガは・・・」


ふと思い出されるのは、夏の陽射しにオレンジ。


「リョーガは、いつだったか、父さんが連れてきて、しばらく一緒に暮らしてたの。それはもう、ホントにきょうだいみたいに」

「ホントのきょうだいじゃにゃいの?」

「・・・わかんない」

「わからない?」


繰り返したのは貞治だろう。ペンの手が一瞬止まる。


「とにかく、それからリョーガは突然姿を消した。誰にも、何も言わずに。リョーマが最初憶えてなかったのは、多分まだ小さかったから」

「あっちの歳は?」

「私と同じ」

「つまり・・・きょうだいなら双子ってこと?」

「確かに似てるっスけど」

「・・・そう、問題はそこ」


はぁ、とため息がもれる。


「ホントは双子で、何らかの理由があって離れて暮らさなきゃいけなかったっていうならまだいい。
でも、それをきいても父さんは答えてくれない。母さんになんて聞けないし・・・」


父さんのことを、疑うなんてしたくないけど。


「顔が似てるから、血のつながりがあるとしか思えなくて・・・私もリョーマも父さん似だし」

「なるほど・・・」


双子だと思ってる。父さんを信じるとかじゃなくて、第一に、心が、魂が言っている気がするから。
























翌日、いよいよエキジビジョンが始まった。桃、海堂ペアは退く事を知らず攻め続け、勝ちをおさめた。
秀一郎、英二のペアも、タカさん、貞治のペアも難なく勝利。
ダブルスとシングルスの間の休憩時間、英二が相手側の様子をこっそり見に行ってきた。どうもあまりよくない雰囲気のようだ。
そして、ニセコックが、乗り込んできた。手には包丁。これは、強行手段に出るつもりか。


「不二、手塚、越前、出ろ。あぁ・・・越前は二人共だ」

「・・・・・」














連れて行かれる途中に、リョーガがいた。オレンジを手に、その表情は。


「そういうえば、そのオレンジを見て思い出したよ。あの頃の親父の口癖。
 “テニスってのは、でっけぇ世界を見せてくれる、でっけぇ夢だ”って。よくオレンジをかじりながら言ってたよね」

「・・・あ、あぁ。そうだったな」


歯切れの悪いリョーガの相槌。リョーガだって本当は・・・。


「・・・ねぇ、リョーガ」

「なんだ」

「あんた、ホントにこれでいいの?」

「・・・・・」

「あんたの“でっけぇ夢”は、こんなトコにあるの?こんな、八百長の中に」

「・・・・・俺は」

「おい、何してる」


リョーガの答えを聞く前に背中を押され、歩みを強制される。


「リョーガ!あんたの“でっけぇ夢”は、もっとでっかいトコにあるはずよ!!」

「黙って歩け!」


そうしてリョーガの姿は見えなくなった。

























周助の試合。ダブルス組が人質にされてしまった以上、ただ試合をして勝つ、わけにはいかない。
しかし負けるわけにもいかない。今は時間を稼ぐことが重要だ。




5−4




後が無くなって来た。これをとると試合が終わってしまう。が。


「あ・・・桃先輩」

「え!」

「ん?」


リョーマの視線の先。そこには確かに、人質になっていたはずの桃がいた。逃げる事が出来たんだ。周助もそれに気づいたようだ。周助が、攻める。













次に試合はリョーマ、の、はずだった。しかし名前を呼ばれたのはリョーマではなく国光だった。


「いつのまにオーダー変更を・・・」


国光、リョーマの意を汲んだのだろうか。リョーガと戦いという、リョーマのおもいを。
国光は手塚ゾーンで完全に試合を支配し、あっさり勝利した。














次はリョーマとリョーガの試合だ。だが、桜吹雪はここでまたキタナイテに出た。
























リョーマとリョーガがコートに立つ。


(リョーマ・・・リョーガ・・・)


見守ることしかできない自分が、少し歯がゆい。いや、これが自分の役目なのだから、しっかり見守らないと。


リョーガは、強い。さすが父さんが見込んだだけの事はある。強い。
1ポイントもとれずに、リョーマは1ゲームおとした。そして、2ゲーム目も。
3ゲーム目、リョーマが動いた。
サイクロンスマッシュでポイントをとっていく。だがリョーガもそれで終わりはしない。
サイクロンの中に突っ込んで、スマッシュが返される。しかしリョーマは、それをさらにサイクロンスマッシュで打ち返し、1ゲームブレイクした。


「ねぇ、結局俺、あんたと1度もまともに試合したことなかったよね」


そう、リョーマは小さかったから、。“試合”なんてできる歳じゃなかったから。リョーガが飽きて途中で終わるのがパターンだった。


「ちゃんと試合したこと、あったっけ」

「・・・なかったなぁ」

「そろそろ決着、つけようよ」


リョーマは思い出していたんだ。リョーガの、1ゲームでもとれたら相手をしてやるという言葉を。だから、1ゲームとったここで、こんなことを。


「いいぜ、チビ助」


二人が構えた。お互い本気のゲーム。
しかしそこで、桜吹雪の横やりが入る事となった。























タイムという声が響き、桜吹雪に注目する。
と、部屋から逃げ出していた秀一郎たちが、奴らの前へ出された。捕まってしまったようだ。
これでまた振出しに戻ってしまった。八百長をしなければ、あいつらが危ない。
でも、こんなこと、リョーマは・・・二人は・・・。


「ねぇ・・・ホントにこれでいいの?リョーガ・・・」


この声は、届かないのだろうか。
























リョーガが、ロブを上げる。歓声の無いこの場で、リョーガの声が響く。


「おい、チビ助。俺がお前のオレンジとった時の事、覚えてるだろ?」


オレンジ・・・リョーマがボールで取ろうとして取れなかったオレンジを、リョーガがあっさり横取りしたときのことだろうか。
リョーガのロブを、リョーマはリターンで返す。


「忘れちまったの、か!」


リョーガは再びロブを。


「オレンジの木!」


太陽とボールが重なり、まるで、オレンジに向かうボールのように見える。
オレンジの木。高い所へ打つ、あのコントロール。
リョーマの口角が、上がった。今度はリョーマがロブを、ベストポジションへ。


「リョーガ!!」


リョーガの構える方向は、リョーマの方ではない。そのスマッシュは、高い、ソコへ。
そのボールは見事、英二たちを抑えていたニセコックに命中した。その隙を狙って秀一郎たちがもう一人のヤツをおさえこむ。
続いてのリョーマのサーブは、桜吹雪の顔面に命中した。これで、彼らを縛るものは無くなった。


「リョーマ、リョーガ」


二人の、本当の、初めての試合が始まる。




しかし、雲行きは、危険信号を灯していた。
























船が揺れ始めた。インチキ金持ちの豪華客船は、船もインチキだったのかもしれない。船が異常を起こしているのがわかる。




「嫌」



「嫌!」


国光と周助が私を避難させようとする。嫌だ。この二人の傍を離れたくない。この二人の試合を目に焼けつけたい。
二人がラリーを続けているうちにも爆発が起きている。


「嫌だ。二人の傍に居る」

・・・」

「だって、きょうだいだもん。やっと・・・」


やっと、きょうだい三人、揃ったんだよ。


「・・・わかった。だが、本当に危ないと感じたら、2人を無理矢理止めてでも、脱出して来い。いいな?」

「・・・ありがとう」


国光と周助が走って行く。雨が降る中、二人のサムライは、楽しそうだった。

























二人の次元が違う。例えるなら、大噴火と大津波。二人の戦いは止まらない。
おそらく私とも違うトコロに、二人はいる。それでも、私は二人の戦いを見届ける。


「リョーマ!!リョーガ!!」


光が雲間から差し込む中、二人のサムライの戦いは、終わった。























すがすがしい顔の二人。良かった。何がよかったってよくわからないけど、よかった。


「・・・やっぱりあんたはあんただよ、リョーガ」

「・・・へへっ」























「ちょっ・・・!三人乗りは流石にきつくない・・・!?」

「じゃあ、お前運転できんのか?」

「無理!」

「・・・はぁ」


三人で水上スキーに乗り、船から脱出してみんなの待つ小舟へ向かった。




「ん?」

「お前と俺、なんだと思う?」

「双子」

「ははっ!即答かよ」

「だって、そうでしょ?」

「・・・そうだな。そんじゃ双子の妹様、チビ助」

「「ん?」」

「わりぃな」

「「は?・・・どわぁっ!?」」


リョーガに突き落とされ、口の中にしょっぱい水が入り込む。


「げっほげほ!!リョーガ!!」


少し離れた所のリョーガに文句言ってやろうと睨む。リョーガは、海に落ちたリョーマの帽子を拾い上げて被った。


「チビ助!」

「?」

「でっけぇ夢、見つけろ、よ!」


そう言って投げられるオレンジ。リョーマがそれをキャッチする。


!」

「ちょっと・・・何・・・あんたまさかまた・・・」

「悪ぃな。やっぱ俺は、こんななんだよ」

「何言ってんの!帰って来なさいよ・・・あんたの家は・・・私達のとこでしょ・・・?」

「・・・悪ぃな。けど、どこにいたって、離れてたって、俺たち三人は“きょうだい”だぜ!!」

「・・・ばかぁっ!!」

「じゃあな!!」


リョーガはそのまま水平線に向かって、走って行った。




オレンジ色の、夕陽の先へ。





























―――――
というわけで、「二人のサムライ The first game」でした!長々と一本ですみません^q^
私の中でのリョーガは、リョーマの二つ上で兄貴も同然。二つ上ってことはと同い年で、だったら双子だよな。って解釈です。
血繋がっていようがいまいが双子。そうなるといろいろ親父が危ないが・・・(
新テニにリョガがでちゃってどうしようか状態。なので、新テニ無視で、とりあえず行く。設定としては。
新テニも書くけど、新テニ無しの未来編も書くかも。
というわけでした←


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