出会いは突然、声かけも突然
少しずつ、少しずつ実現に近づく、西浦高校硬式野球部。今日はその準備ではなく、秋季大会を観に来ていた。
どこが目的、というものはない。着いたとき始まる試合を観ようと思って、はその球場に出向いた。
そこでは、思いもしなかった素晴らしいものを目にした。一発で、彼を気に入った。
綺麗なフォーム
綺麗な球筋
まだ慣れきっていない表情
自分には無い球
が気に入るのには、充分な条件だった。
試合が終わり、は出口で待っていた。話し声が聞こえてきて、男子高校生の集団が出てくる。その中に、“彼”を見つけた。
「高瀬くん!」
“彼”は後ろから呼ばれたことに驚きながら振り返る。は彼の前まで進んで止まった。
「初めまして。あたし、三橋っていいます」
「はぁ」
高瀬と呼ばれた彼は戸惑いながら相槌を打った。彼のチームメイトが、何事かと二人を見ている。
「突然で悪いなーとは思うんだけど・・・」
は高瀬の顔色を見ながら、一度言葉を切った。
「あたし、高瀬くんの事気にいっちゃったんだけど、良かったら友達になってくれない?」
で、メアド教えて?
と続ける彼女に、高瀬は目を丸くして「は!?」と声を発した。傍観していたチームメイトも驚きながらを凝視している。
「無理にとは言わないけど・・・」
「あ、いや、別に、いいけど・・・」
「ホント!?」
は嬉しそうに高瀬の顔を覗き込んだ。といっても身長差があるためが見上げているという形なのだが。
高瀬はの勢いに後退気味で、その頬は少々赤い。
「ありがとう!じゃあさっそく」
「あ、あぁ」
高瀬は携帯電話をスポーツバッグから取り出し、がすぐさま出した携帯電話に近づけた。赤外線で高瀬のアドレスを受け取り、登録する。
「後で送るね」
「・・・あぁ」
がにっこりと笑うと、高瀬もつられて笑みを浮かべる。
傍観していたチームメイトたちは、いつのまにか先に行っていなくなっていたが、二人は気づいていない。
「あと、名前で呼んでいい?」
「え」
さすがに戸惑いを隠せず、高瀬は固まった。
「あたし、気に入った人は名前で呼ぶ主義なの。無理にとは、言わないけど・・・」
「あ、いや、いいよ」
「ありがと!」
また嬉しそうに笑うを見て、高瀬は再び薄く頬を染め、から視線を外す。は気づいていない様だ。
「あたしのことも『』って呼んで」
「あ、あぁ・・・」
「それじゃまたね、準太!」
は高瀬に背を向けて走り出した。高瀬はその後ろ姿を、しばらく呆然と見つめていた。
「・・・あれ?オレ置いてかれた!?」
置いてけぼりをくらった高瀬は、後でみんなにからかわれるのだった。
Created by DreamEditor