青春のはじまり
ピンポンパンポーン
学校内に響き渡る、何の変哲もない放送の合図。それは彼女、三橋の青春の始まりの合図だった。
『三橋さん。志賀先生がお呼びです。至急、数学準備室まで行ってください』
という放送をきき、現在数学準備室に向かっている。志賀先生は数学教師だから数学準備室に呼ぶのはわかる。気になるのは、なぜ自分か、だ。
志賀先生とは授業位でしか接点がないはずだし、今日は数学の授業はない。疑問と少しの不安を持ちながらも、辿り着いたドアをノックし、開けて中に入った。
「失礼します。三橋ですけど・・・」
「あぁ三橋、よく来たね。こっち来て」
「はい」
志賀に手招きされて奥に入る。と、そこには見た事の無い若い女性がいた。
「呼んだのは、彼女に会わせたかったからなんだ」
「え、と、この人は・・・?」
志賀に戸惑いがちに訊くと、女性がスッと一歩踏み出してきた。
「初めまして。百枝まりあっていいます。よろしくね」
「えと、三橋です」
何が何だかわからず、とりあえず差し出された手を握る。
「私ね、ここの卒業生なんだけど、志賀先生に協力してもらって、硬式野球部を作ろうと思ってるの」
「え!?」
「それでね、生徒で誰か手伝ってくれそうな子いませんかってきいたら、三橋がいいよって。だから呼んでもらったの」
突然の事では混乱気味になっていた。なんとか落ち着かせ、整理する。
「つまり、硬式野球部を作るから手伝ってくれって事ですか?」
「そう!のみこみが早くて助かるわ!」
ギュッと手を握られる。
「え、と。なんであたしなんですか?」
これは志賀への問いだ。答えは簡単に返って来た。
「だって三橋、野球好きだろう?」
「そりゃりょうですけど・・・」
というかなんで知っているんだろう。
「あ、無理にとは言わないよ。急な事だし、三橋さんにだって事情はあるだろうしね」
「あ、いえ、やります。やりたいです」
「ほんと!?」
の答えに、百枝は目を輝かせて、また手をギュッと握った。
「はい。高校生活ちょっと退屈してたし、野球、やりたいんで」
「ありがとう!じゃあ、さっそく打ち合わせしちゃおっか!」
「え、でも授業・・・」
席をすすめる百枝に、時計を見ながら言う。もうすぐ授業が始まる時間だ。
「大丈夫。担当の先生に入ってあるから」
三橋がこの話を断るとは思ってなかったからね、と笑う志賀を見て、はやられたと苦笑した。
道具やグラウンド整備の事、部員の事など、いろいろなことを話した。百枝はすごく気さくで、はすぐに打ち解けた。
「これからよろしくね、ちゃん!それじゃあ、また明日」
「はい、失礼します」
流石に次の授業は出ないといけないため、は数学準備室をあとにした。そういえば、と、立ち止まり、
「男子にも野球するやつはいるだろうに、なんであたしだったんだろ」
と思ったのは、また別の事。
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