昼食を終え、皆が立ち上がる。午後の演習思いついたの?とが問うと、そりゃあもう面白いのを、とカカシが笑った。見えているのは右目だけなのだが、なんとも不気味な笑みだ。そしてその口から衝撃的な言葉が発せられる。
「俺からを奪ってみろ」
「「え?」」
「はい?」
間の抜けた声を出したのはナルト、サクラ、だ。サスケも目を丸くした。
「には抵抗できないくらいの年齢・・・そうだな、3歳くらいに変化してもらって、俺がそのを抱えて逃げる。シチュエーションとしては、奪われた要人の子を取り戻す、ってトコだな。もちろん、人質に怪我なんてさせたらアウトだ」
人質、という言葉に誰かの喉がごくりと鳴った。要人の子を奪われただけでも失態なのに、さらに怪我までさせるなど言語道断である。
「でも3歳って・・・小さすぎない?」
「なーに言ってんの。いつつくらいになるともがいて逃げ出そうとするし、なんてよっつで忍者学校に入学してるんだぞ」
「よっつ!?」
「それを言うならあんたなんてよっつで入学していつつで下忍になってるじゃない」
「はい!?」
大人達の爆弾発言に、子ども達は驚くばかりである。
「時代が時代だったからなー」
「戦時だったからね。少しでも多くの優秀な戦力が必要だったのよ」
自分で優秀って言ってるみたいでなんかあれだけど。実際優秀デショ?あんたは天才様だものね。 という会話は子ども達の耳には入っていない。カカシ先生ってすごかったんだなぁとナルトがこぼすのを聞いて、は乾いた笑いしか出なかった。普段のカカシを見ていたらフォローのしどころが難しい。とはいえ、これも彼が“変わった”証拠でもあるのだが。
「まぁそんなことはどうでもいい。始めるぞー」
「はーい」
気は進まないが子どもたちのためだ、とは印を組んだ。
「変化の術」
ぼわんと白煙が舞い、晴れた所には人影は無く・・・なっていたわけではなく、視線を下へ下へと持って行くと、ちょこんと小さな少女が立っていた。
「さんかわいー!」
きゃーっとサクラがしゃがみ込んで3歳児姿になったと目線を合わせる。そのまま頭を撫でようと手を伸ばしたが、それはカカシによって阻まれた。ひょいとを抱え上げ、カカシは3人と距離をとる。
「可愛いを堪能したかったらはやく俺から奪い返すんだな」
「たんのーってなによ、たんのーって」
話す言葉はしっかりしているものの、三歳児の身体のせいで舌ったらずの喋り方でが呆れる。
「ほら、例えば、こうしてみたり?」
「ちょっ!やめなさいよ!せくはらよ!!」
すり、と頬を摺り寄せてくるカカシの顔をぐいっと押しのけるが、三歳児になっているの力では弱すぎてほとんど意味がない。サクラがひぃっと声を上げるのがきこえた。ナルトは「ロリコン・・・」と呟き、サスケは苛立ちを隠すのに必死である。
「ほらほら、はやく取り戻してみろ〜」
「姉ちゃんのためにも、やってやるってばよ!!」
危険な手の中からはやく救い出さねば。ナルトはダッと駆け出し、クナイを構えた。しかし、投げようとしてに当たる、と一瞬で打ち消す。接近戦に持ち込んで自分が相手をしているうちに2人に奪い返してもらおう。ナルトはそのまま駆けてカカシに突撃した。
向かってはあしらわれ、放っては避けられ。それらの繰り返しから、カカシはを抱えたまま三人の前から姿を隠した。三人を観察していると、突然の顔を覗きこむ。少し顔色が悪い。
「ちょっと、さすがに、ふりまわされすぎてきもちわるい」
「あら」
だし、と遠慮しなかったのが仇となったらしい。三歳児の身体では急な激しい動きに耐えられなかったようだ。背中をさすってやると、彼女は小さく「うう」とうめいた。
「んー、じゃあ仕方ないね。五歳でいいよ」
「いいよってあんたえらそうに・・・」
恨めしい視線を送りながら、は印を組んで変化の姿を変えた。二年ほど成長したが一息つく。
「いやぁ、なんか面白いねぇ。自分の知らないをこうして眺められるってのは」
「あんたね・・・」
まったくこいつは、とはため息をついた。そんな会話をしていると、ガサリと近くの茂みが揺れた。気配からしてナルトのようだが、これは隠す気があるのだろうかと思うくらいダダもれである。音から少し間が空いてシンとなるが、すぐにまた大きな音がして、黄色とオレンジの塊が飛びだしてきた。
「やいやいカカシ先生!姉ちゃんを返しやがれってばよ!!」
「お前ねぇ・・・忍なんだから忍んで来いって・・・」
呆れるカカシにここはも同感である。どーんと効果音でも付きそうな登場の仕方をしたナルトは、胸を張って仁王立ちしている。「ん?姉ちゃんなんかおっきくなった?まぁいいけどさ!」と言いながらナルトがさっとクナイを構えると、それに同調するかのように二方向から気配を感じた。サスケとサクラも、いつでも飛びだせるように身構えているようだ。そしてナルトがカカシに飛びかかった直後、二人も動いた。ナルトが避けられるとサクラがクナイを投げ、その間にサスケが印を組む。
「ゲ」
「火遁・豪火球の術!」
声をこぼしたのはカカシだった。難なく対処はできるが、まさか平気で豪火球を放ってくるとは。豪火球をかわしたあと、カカシは大きく息を吐いた。
「お前、がいるのに容赦ないのね」
「だからな」
「・・・を人質役にしたのは間違いだったかね」
今更である。 人質役が忍、それも幼児に変化しているとはいえ上忍の中でもチップクラスとなれば一般人よりも何倍も丈夫で、本当に危なくなれば自力で逃げる事もできる。さらに言えばナルトやサクラはともかく、サスケはをよく知っているわけで、遠慮しなくても問題ないと判断したのだろう。サスケが豪語したのを見て、カカシが「うーん、ならこれならどうかな」と呟いた。何をしてくる気だ?とサスケは身構えたが、そのカカシの行動に、彼は一瞬にして固まった。
「!?」
「ごちそーさま、なんつって」
その唇が、口布越しに、五歳児のの小さな唇に一瞬触れる。も瞬時に固まったが、すぐに我に返ってカカシの頭にその小さな拳を振るった。
「あんたなにやってんのよ!?なぐるわよ!?」
「いてっ、いたっ!殴ってる、もう殴ってるからな!?」
「もんどうむよう!!」
「・・・・・てめぇ・・・・・」
五歳児とはいえ。ゴッと何度も殴られてはさすがのカカシも放り投げたくなった。しかし、せり上げてくる殺気と低く絞り出すような唸り声に、もカカシも動きを止めた。
「サ、サスケ?」
「ゆるさねぇ・・・」
「・・・あらま」
頭に血が昇って冷静さを失くしたサスケは、ナルトもびっくりな突撃兵と化したのであった。