「はい、時間切れ〜」
荒い息がいくつもある中に、ゆるい声が混じった。音も無く降り立ってきたのは、下忍達の担当上忍、はたけカカシ。カカシは部下達の相手がいつもと変わらない事に気づいて「あら」とこぼした。
「お前変化解いたの?そりゃ捕まらないわけだ」
そして、地に座り込む部下達に合わせるようにしゃがみこむ。
「お前らなー、3人がかりだぞー?」
「ん、なこと、言ったってぇ!このねーちゃん、めちゃくちゃ強いってばよ!?」
まだ息が整わないままナルトが声を上げる。サクラも同意するようにこくくこく頷いた。
「めちゃくちゃ強い、ねぇ。術は?」
「最初の変化だけ」
「2割も力出してもらってないじゃないの・・・」
はーあーとカカシがわざとらしくため息をついた。
「ま、とりあえず飯にするかねぇ。午後からの演習どうしたものか・・・」
「考えてなかったの?」
「いやいや、こいつらがお前を捕まえられたら変化解いて戦わせようとしたわけよ」
「あー・・・私が先に解いちゃったものね」
「そゆこと。捕まえられなかったしな。ほらお前らー、飯にするぞー」
カカシの号令に、沈んでいた3人が浮上した。
「飯にするぞとは言ったが、とりあえずこいつの紹介しとくか。どうせ名乗りもしてないだろうしな」
「あ、うん、してない」
「ホラね」
カカシが肩をすくめるのに彼女はただ「あはは」と笑う。
「こいつは。俺の、まぁ、同僚ってトコかな。で、サスケとの関係だが・・・」
わざともったいぶらせるように間を空けると、サクラがごくりと生唾を飲んだ。かなーり世話になっている相手、というのがよほど気になるらしい。
「私はサスケの保護者よ」
「「保護者ぁ?」」
声を上げたのは事情を知らないサクラとナルトだった。きょろきょろととサスケを交互に見ている。そんな視線を鬱陶しく思ったのか、サスケはそっぽを向いてため息をついた。
「そ、保護者。“あの事件”の後、仲の良かったがサスケを引き取ったんだよ。今は一緒に暮らしてはいないんだっけ?」
「そうね、去年くらいからかな」
言いながら、さて紹介も終わったし飯にするかと弁当を広げる。昼食をとりながらも会話は続いた。
「1回アカデミーの参観日にも行ってるんだけどねぇ。ナルトくんとはその時話もしてるのよ?」
「えっ、うそぉ!?」
信じられない覚えてない、という様子でナルトが目を見開く。は「ほんとだって」と笑った。
君たちがいくつの時だったかは忘れたけど、課外授業だったわねー。2人組を作ってそれに保護者が加わって薬草採集だったはず。サスケは誰と組むのかなーって見てたんだけど、誰かを誘う様子が無かったから、1人だったナルトくんに私が声をかけたのよ。
そこまで話すと、サクラが「あっ」と声を上げた。
「思い出した!サスケくんに保護者の人が来るのは初めてだったから、私達も遠巻きに見てるしかなかった時だわ」
「あー―――っ!思い出したってばよ!!」
こらナルト、人を指差すもんじゃないよ。 カカシの言葉は興奮にかき消されて耳に入りもしないらしい。ビシッとに指先を向けたままナルトが笑った。
「そっか、あんときの姉ちゃんか!大人で俺にあんな風にしてくれる人ってあんまいなかったから、嬉しかったってばよ!」
ナルトの笑顔に、苦笑で返す。20歳前後以上の人は、ナルトの中に九尾の妖狐がいることを大抵知っており、触らぬ神に祟りなし、とナルトに構う者はほとんどいなかったのである。だがにとってはそこは重要ではなかったのだ。
「改めてよろしくね、ナルトくん」
「ナルトでいいってばよ、姉ちゃん!」
その呼ばれ方には一瞬面をくらって固まったが、すぐに微笑みを浮かべた。
「おいウスラトンカチ・・・なんでてめぇがんな呼び方してやがる」
「俺が姉ちゃんのことどう呼ぼうが俺の勝手だろ!」
ギリギリとにらみ合う2人には思わず乾いた笑いを漏らす。姉離れできてないんだねぇというカカシの声は睨み合う2人にはきこえておらず、サクラはを複雑な思いで見ていた。