空は快晴、風も心地良い日。第7班の本日は、任務演習である。基本的な低ランクの任務に飽き飽きしていたナルトは、任務演習ときいてさらにげんなりしていた。そこへいつものように大遅刻してきたカカシを下忍達3人が怒り、演習説明が開始される。
「今日はゲストを呼んでおいたぞー」
「ゲスト?」
「だれだれ?誰だってばよ!!」
カカシの言葉にサクラが首を傾げ、ゲストときいてテンションが下がっていたナルトは反対にテンションをあげてカカシに詰め寄った。まーまー落ち着けというカカシののそっとした声にナルトはぐっと引いた。
「ナルトとサクラも1回くらいは見たことあるんじゃないかねぇ。サスケはかなーりお世話になってる相手だし」
「!」
「えっ、何それカカシ先生どういうこと!?」
サスケラブなサクラがサスケの身近な人物らしいということを感じ取って食いつく。サスケは“ゲスト”が誰なのかをすぐに把握し、楽しそうににやりと笑みを浮かべた。
「会ってのお楽しみ〜。午前中の演習は、隣の演習場にいるそいつをこっちまで連れてくること。もちろん抵抗されるから、油断せずに行けよー」
「よっしゃー!やってやるってばよ!」
「あんた少しは落ち着きなさいよね・・・」
「よーし、それじゃあ3人とも、隣の演習場へ移動しろー」
「おーう!」
張り切り十分なナルトを先頭に、やれやれと呆れ顔のサクラ、口元に笑みを浮かべたままのサスケが続いた。その背中達を見送り、カカシは愛読書を取り出して読み始めたのであった。
隣の演習場に来れば捕まえる相手がいる。そう思って引き締めて来たのだが、移動してきた先の空気はのどかなもので、少しも張りつめたものはない。だからか、そこに居る人物を見ても、ナルトもサクラも疑う事をしなかった。
「あれ?ここってば俺達しか使ってないはずだよな?」
演習場は基本的に1グループで貸し切るものである。今日こことカカシのいる演習場は第7班の貸し切りのはずだというのに、そこにはナルト達より少し年上と思われる少女が1人、立っていた。彼女はゆっくりとナルト達の方を振り返る。その顔を見て、サスケがハッと気づいた。
「なぁなぁねーちゃん、ここは今日は俺達の貸し切りだってばよ?」
「止まれナルト!」
「あん?」
ナルトが彼女に近づこうとした時、サスケが声を上げて止めた。ナルトは怪訝そうな顔をし、サクラも首を傾げて「サスケくん?」と臨戦態勢に入っているサスケを見た。
「・・・こいつだ」
「えっ・・・じゃあ、この人が“ゲスト”!?」
「・・・サスケがいると騙しがいがなくて残念ねぇ」
ふぅと息をついて彼女はにっと笑った。3人がチャキ、とクナイを構える。
「随分と若作りしてるみてぇだけどな」
「あらひどい」
「どういうことだってばよ?」
「あの人はカカシと同年代だ」
「へ!?」
「うそぉ!?」
衝撃的な発言をきいてナルトとサクラが彼女を凝視する。彼女はぽりぽりと頬をかいて苦笑した。
「正しくはカカシの1つ下で、コレは変化の術だけどね」
言いながら、彼女はゆらりと右手を上げる。
「制限時間は正午だっけ?遠慮なくかかっていらっしゃい」
「くっそー!変化したまんまかよ!なめやがって!ぜってー倒す!!」
ナルトが意気込んで駆けて行く。サスケとサクラも、一拍あとにナルトに続いた。
ナルトがクナイで飛びかかる、サクラが手裏剣で援護する、さらにサスケがとびかかる。それらを彼女は軽くあしらい、悠々とかわしていた。
「くっそー!全然あたんねぇってばよ!!」
「なんて速くてなめらかな身のこなしなの・・・」
「相変わらず異常な動体視力してやがる・・・」
下忍達3人ははやくも肩で息をし始めていた。こればかりは成長期の体力不足だ。いや、だがしかし、ナルトだけは違った。
「まっだまだぁ!!」
「・・・タフなのねぇ」
ナルトが1人で突っ込んで行く。呆気なく弾かれては挑み、かわされては挑み。何度も何度も飽きることなく突っ込んで行く。
「ワンパターンすぎるのよ」
「ぐぬぬぬ・・・んじゃあこれならどうだっ!」
ナルトは彼女から少し距離をとり、印を組んだ。その印は先日も見て、驚いたもの。
「影分身の術!」
ぼわわんとナルトの両隣にナルトが現れる。普通の分身とは違う、実体のある影分身。
「いっくぞぉぉぉ!!」
3人のナルトが同時に襲いかかる。だがそれは先程も3人を同時にあしらっていた彼女には容易に対処できるものだった。順々にいなしていき、本体のみが残った。
「さて、もう終わり?」
「くっそぉぉぉ」
「まだだ!」
「!」
きこえたのは背後から。飛んできたクナイをかわし、体勢を整える。いつの間にか移動してきていたサスケがそこにいた。サクラもまたクナイを構えなおし、隙をうかがっている。ナルトが再び影分身を、今度は5人に増やしてかかっていった。それにサクラが援護でクナイを投げ、サスケは印を組んでいた。
「火遁・豪火球の術!」
サスケの口から大きな火の球が噴き出された。ごうっと炎が上がり、ナルトもサクラも避難する。炎がおさまりかけるが、それで終わらせはしない。3人は示し合わせたかのように同時に忍具を構え、同時に投げ放った。やったか、と気が高ぶろうとした時、キキキンと金属がぶつかり合う音が煙のなかからきこえてきた。煙が晴れたそこに、彼女はクナイを片手に無傷で立っていた。これでもだめなのかと、3人は詳しさを顔に出す。
「思ってたよりやるじゃない。とりあえずカカシの部下なだけはあるってことかしら?」
そう言って彼女は笑う。それから後ろ手に回し、ポーチから何かを取り出した。
「・・・鈴?」
ちりん、とみっつの鈴が揺れる。
「下忍最初のサバイバル演習で鈴取りしたでしょう?それと似たようなことをするわ。鈴はみっつ、1人ひとつ取りに来ること。仲間に援護してもらって取りに来るのは全く構わないし、むしろそうでもしないと取れないだろうけど、代わりにとってやるってのは無しね」
時間がないからちゃっちゃとした方がいいわよ〜と彼女は笑い、それから、と一拍おいてからパチンと指を鳴らした。ぼわんと白煙が上がる。
「あんたたち面白いから、こっちで相手してあげるわ」
煙がはれるとそこには先ほどの少女ではなく、10ほど成長した女性が立っていた。正真正銘の、あすかナギの姿である。3人の気合も入りなおり、再スタートである。