小鳥のさえずりが心地よく、穏やかな晴れの日の午後。は三代目火影・猿飛ヒルゼンに手渡された資料をパラリとめくっていた。それは、今年忍者アカデミーを卒業した者達のリストと班構成だった。何人か知った顔のあるは、あの子がこの面子とでこの担当上忍につくことになったか、と面白そうに見ていたが、そこで不意に、はたと気づいてヒルゼンを見た。
「あの、ヒルゼン様、これ一応まだ機密ですよね?私が見て大丈夫なんですか?」
「何、説明会は今日じゃし、問題無かろう」
「はぁ・・・え?」
そう言われたらまぁ見させてもらおうかと続きを目にしたは、その構成と担当上忍に、目を丸くした。
「え、あの、ヒルゼン様、これって・・・」
「適任じゃろう?」
「そうは思いますけど、まさか、で・・・」
並んだ名前は、うちはサスケ、うずまきナルト、春野サクラ。そしての同僚、はたけカカシ。サスケは一族惨殺にあった生き残り。一族をうしなった後、縁のあったが保護者となった子だ。ナルトは、とある事情を抱えた、とある人物の忘れ形見。サクラというくのいちのことは知らないが、この2人と同じ班に組み込んだということは、それでバランスのとれる構成なのだろう。この面子をカカシにみさせるということは適任であり、同時に驚きでもあった。
「お前に任せてもよかったんだが・・・苦手じゃろう?」
「えぇ・・・はい・・・」
ヒルゼンに、目を逸らしながら素直に答える。は人に教える事が苦手だ。だから中忍、上忍の隊長はともかく、下忍の担当上忍には向かない。カカシはというと、2年連続で下忍達をアカデミーの贈り返してはいるが、それはわけあってのことだ。今回は面子が面子であるし、上手くいってほしいとは思ったのであった。
ヒルゼンと別れたは、とある教室を遠くから観察していた。昼からは非番だし、誰も文句は言わないだろう。何をやっているんだとは思われるかもしれないが。の驚異的な遠視力でじっと“そこ”を見る。その教室には3人の子どもがいた。先日卒業試験を終えて下忍になったばかりの、サスケ、ナルト、サクラだ。説明会が終わって担当上忍がそれぞれの班員を迎えに来て、残りは彼らの第7班だけのようだ。カカシが遅れている理由を知っているナギは、ひとつ息をついてそのまま観察を続けた。カカシがなかなか来ない事に苛立ちを覚えたのか、ナルトが行動に出た。彼は黒板消しを手にして教室のドアの上部に挟み込む。単純なブービートラップだ。
(いやいや、さすがにそれは引っかからないわよ・・・?)
この子は上忍をなめているのだろうか。呆れたまま見ていたが、結果は予想外だった。不自然に空いたドアの隙間に手がかけられ、そのまま開けられたのだった。え、と思った時には、黒板消しがぽふんと彼の灰色の髪の上に落ちていた。
「えええええ・・・」
何の為に、何の意味があったわざとトラップをくらったのだろうか。右目以外見えないカカシの表情と口の動きがわからず、疑問を抱いたまま場所は教室から外へと移された。
遠視力はあっても声まではきこえないが、読唇術は結構得意だ。
「カカシ、気付いてるんでしょうねぇ」
距離はとっているし気配も消している、が、あの超人にはこうして隠れて見ていることを悟られているような気がしてならない。はぁと息をつくと、ちょうど自己紹介が始まった所だった。最初はナルト。好きなものはラーメン、とにかくラーメン。そして将来の夢は、火影になること。里のみんなに自分の存在を認めさせること。それを読み取って、は眉をひそめた。それは彼が今まで身をもって受けてきた境遇を物語っていた。
(ナルト・・・本当は、こんな風になるはずじゃなかったのに・・・)
“あの方”の想いがむくわれなかったようで切なくて、は一度目を閉じた。その間に次はサクラの番になっていた。好きなもの、好きな人は、サスケらしい。名前は言わないが、あからさまな視線でわかりやすい。“今時の女の子”はこんな感じなのだろうか。もっとも肝心のサスケは一瞥すらすることなくガン無視なのだが。
(私このくらいの時どんなんだったっけ・・・?)
ふと思い出そうとしたが、トラウマを引きずり出しそうになってやめた。こんな感じではなかったことは確か、だと思いたい。最後はサスケの番だった。いよいよか、とは目を凝らしたが、サスケは口元で手を組んでいて読唇ができなかった。
(あぁもうサスケ!肝心なとこがわからないじゃないの!)
好きなものや嫌いなものは大体知っている。知りたいのは、“将来の夢”だ。
(復讐なんて、言わないでね・・・)
うちは一族を、サスケを残して壊滅させたのは、彼の兄であるイタチだった。それ以来、サスケは実の兄を殺すために力をつけ、兄を殺すために生きている。その闇を払ってやることは、にもできなかった。 明日からは任務となるが、下忍最初の任務はどの班も決まっている。それは、サバイバル演習。卒業生の中で本当に下忍になれるのはたったの9名。残りはアカデミーへ逆戻りとなる、過酷な試練だ。とくにカカシは、担当上忍を受け持つことになってからの過去2年とも、全員アカデミーに送り返している。
「あーあー、楽しそうに笑っちゃって・・・」
今までのやつらとは違うと思っているのも確かだろうが、それにしても笑い過ぎである。カカシからサバイバル演習の事をきいたらしい3人は、サスケ以外ものすごい顔をしていた。いや、実にカカシが楽しそうである。
「いや、うん、楽しそうにしてるのはいいことなんだけど・・・」
とても複雑である。苦笑いをしている間に解散となったらしく、カカシが彼らに背を向けた。そしての方を見て、にこりと笑って見せたのであった。
解散になった後、は茶店で個室をとっていた。1人でお茶を飲んでいると、その個室の戸がガラリと開けられる。
「・・・ほんと、毎度よくわかるわね」
「いやぁ、愛の成せる技ってネ」
「寝言は寝て言ってくれる?」
いる場所を教えたわけではない。それでも彼は、カカシは超人的な嗅覚でナギの居場所を見つけるのだ。冗談なのか本気なのかわからないことを言いながらにこりと笑ってみせる。本人的には本気らしいのだが、はいまいち受け入れられず、その応対である。カカシは中に入って戸を閉めるとの正面へと腰を下ろした。
「で、どうだった?観察は」
「まぁ、ばれてるわよね。どうと言われても、複雑、としか」
「複雑、か」
カカシはが注文した団子を手にして口に入れる。複雑というが何を意味しているか、彼にはすぐに把握できた。
「ねぇカカシ」
「うん?」
「サスケ、夢はなんだって、言ってた?」
「あー・・・」
カカシの妙な間。それだけでは答えを悟ってしまって眉をひそめた。 「殺す、ってさ」
「・・・そう」
息を吐き、はお茶を口にした。喉に水分を通さないと一気に乾いてしまいそうだった。
「ま、なるようにしかならんでしょ。とりあえず明日、生き残ってもらわんといかんわけだし」
「そう、ね・・・」
はー、と大きく息を吐いて、は天井を仰ぐ。両手を後ろについて体重をかければ、ひょこ、との顔の前にカカシが顔を覗かせた。
「明日もくるんだろう?」
「・・・あれ、私明日任務なかったっけ?」
「火影様が、明日は非番にするから様子見に行けって」
「ヒルゼン様ってば・・・」
気になって任務に集中できないとでも思われたのだろうか。上忍としては情けないし失礼なと思わなくもないが、完全には否定できなくては顔を歪めた。
「」
「ん?」
ぐっと急に地家具くカカシの顔。普段右目しか見ていないその顔面は、先程団子を口にした際に口布がとられ、今は左目しか隠れていなかった。急接近したことに動揺することも無く、はじっとその目を見つめる。
「・・・・・なんだかねぇ・・・」
「なんででしょうねぇ」
「、俺本気だよ?」
「・・・」
カカシはに「好きだ」とアピールしている。が、はそれを受け入れられていない。軽く流しているのが現状だった。それはカカシとが幼い時から一緒だからか、あるいはの心の問題か。両方あるのだろうが、後者が大きい事はカカシにはわかっていた。
「ま、諦めてやらないけどね」
「・・・あんたならモテるでしょに」
「さてねぇ。俺、お前以外の女には興味ないから」
「・・・・・」
ここまで言うとさすがのも照れて黙るのだが、所詮は“そこまで”だった。言いたいことを言ったカカシは口布を直し、に背を向けて出て行ったのであった。