青い石に導かれし決闘の行方
翌日の正午。決闘の時間になった。私の側に立っているのは、寝不足の叔父上とさわやかコンラッド。前方には、ユーリとヴォルフラムが向き合って立っていた。ヴォルフラムは剣を抜く気満々だ。けれど、ユーリの方は違った。ユーリは蝋で石畳に大きな円を描いて、そして。
「なぜ服を脱ぐ!?」
ユーリは唐突に脱ぎだした。
「なに言ってんだよ、お前も脱げ」
「ぼくが!?」
「そうだ。相撲は『はだか』がユニフォームだからな」
脱ぐことに抵抗があるようで動こうとしないヴォルフラムとは反対に、ユーリは下まで脱ごうとしている。
「・・・ユーリ、下はとりあえずやめといて」
「え?あ、そうだよな、女の子もいるもんな」
おそらくその“女の子”の中に私は入っていない。酷いやつだ。
「でも、なんで相撲?」
「決闘ときいて、それしか思つかなかったらしい」
「野球は決闘向きじゃないうえに、二人じゃ戦い合えないもんねー」
「マワシ?ドヒョウ?」
ユーリの説明を聞いていたらしいギュンターが困惑している。他の人も頭の上にハテナをとばしている。ただ一人、隣でにこにこしているコンラッドを除いて。
「そういえばコンラッド、なんで相撲知ってるの?日本のものなのに」
「アメリカで少々」
「ふーん・・・」
ラッパを合図に決闘が始まった。直後ユーリが駆けだす。ヴォルフラムは困惑したまま抵抗する事も出来ず、あっという間にユーリに転ばされた。当然の結果だ。
「っしゃあッ!おれ、勝ったぞ!」
「ご立派な戦いぶりでございましたッ、陛下ッ!」
ユーリは嬉々として拳を突き上げ、ギュンターは涙ぐんでユーリを見つめている。あれ、こんな人だっけ?叔父上。
対戦相手であるヴォルフラムを見れば、差し出されたコンラッドの手を振り払って立ち上がった所だった。
「こんなバカな勝負があるか!」
「ヴォルフラム」
「異界の競技で勝敗が決められてたまるか!」
ヴォルフラムは今の勝負が納得できず、剣を抜いた。これもヴォルフラムの性格からしたら当然の結果だけど、方法はユーリに任せるって言わなかったか?多分、そんなことは忘れてしまっているだろう。ユーリは観念してギュンターにヴォルフラムの剣を練習用のものにかえさせて、自分もそれを手にした。
「怪我なんかしないでよ?」
「おれもできればしたくないなー。まぁ、気を付けるよ」
「陛下、これ」
コンラッドがユーリに、自分の首から下げていたモノを渡した。
「ライオンズブルーだね。おれの好きな色だ」
空より濃くて、強い青の魔石。一瞬、時が止まった様な感覚に見舞われる。
「俺の・・・友人がくれたものです。魔石なのですが、魔力を持たない俺が持っていても仕方ないので。何かの役に立てばいいけど」
「くれるの?」
「えぇ」
ユーリはそれを少し見つめた後、首にかけた。双黒、黒服によく合っている。そしてユーリはヴォルフラムに向き合って構えた。私の足は自然と、コンラッドの隣へ。
「・・・あれ、あげちゃっていいの?」
「いいんだ。俺が持っていても仕方ないし」
「でもあれは・・・!」
「」
コンラッドが、私を納得させるように見つめてくる。
「俺は、ユーリだからあれを渡したんだ」
結局その目に負けてしまい、軽く目を逸らす。
「・・・ま、コンラッドがいいならいいし、ユーリだから、いいけど」
「・・・ありがとう」
その礼の意味がイマイチわからなかったけど、きかないでおいた。それを境に、試合に意識を戻す。ユーリが何度もヴォルフラムの攻めに耐え、ちょうどフォームを変えた所だった。ユーリは大きく振りかぶり、思い切り打ちぬいた。勢いに負け、ヴォルフラムの剣は彼の手を離れて空で幾度も回転して地面に突き刺さった。
「ヒットね」
「えー、ホームランだろー」
ユーリは疲れた様子で、それでもなんとか未だ負けを認めないヴォルフラムをなだめようとした。が。
「うっわ!」
ユーリが驚いて後ずさる。ヴォルフラムの右手には、燃える火球が浮かんでいた。屈辱の末、魔術を出して来たか。
「ヴォルフラム!」
「うるさいっ」
ギュンターがヴォルフラムを止めようとしたが、グウェンダルの障壁によって阻まれた。
「グウェン!なぜ邪魔をするのです!?」
「邪魔をしているのはお前だろう。あれが本物の魔王だというのなら、ヴォルフラムごときに倒されはしないはず」
「しかし陛下はまだ要素との盟約も・・・「魔力は」
ギュンターを遮ったのは、他でもない私だった。
「魔力は魂の資質。ユーリが真の魔王なら、盟約も知識も追いつかなくても、あらゆる要素が従いたがるはず・・・。そう言いたいんでしょう?グウェンダル」
「そうだ」
「、あなたまで何を!?それでも陛下の側近ですか!?」
「ユーリの側近だからこそ、ユーリの力を見たいと思うのかもしれませんね。まぁ、ユーリなら大丈夫でしょう。やる時はやるし、キレると怖いやつですから」
「何をのん気に言っているのですか!はやく陛下を「叔父上」
私は再び彼の言葉を遮った。
「見守る事も、大切な役目です。大丈夫。いざとなったら障壁蹴破ってとびこみますから」
「・・・・・」
ギュンターが軽く目を伏せる。その横で、グウェンダルを力ずく手止めようと剣を手にかけていたコンラッドが手を降ろした。
「ユーリ、自前の反射神経で逃げ切りなさいよ」
ユーリの自前がどのくらいか正直わからないけど、その戦いをじっと見守った。
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