これが新王陛下です、そして本当の私
血盟城の正面入り口で、アオはやっと止まった。止まったというよりは、止めた人物がいたのだが。
「陛下ーっ」
コンラッドとギュンターがユーリを呼ぶ。
「・・・陛下・・・これが?」
すると、アオをなだめていた男が呟いた。コンラッドの兄、フォンヴォルテール卿グウェンダルがいた。いつも皺が寄っているその眉間に、さらに皺が増える。しかし、“これ”はないだろう、“これ”は。私達は馬から降りてユーリに駆け寄った。
「陛下、お怪我は!?」
「なさそう、だけど・・・」
「それが新魔王だというのか!?」
ユーリの様子を見ていた時、新たなアルト声が響き渡った。グウェンダルとコンラッドの弟、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムだ。
「兄上、あんなやつの連れてきた素性も知れない人間を、王として迎え入れるおつもりですか!?ぼくはあんな薄汚い人間もどきを信用する気になれません!見た所、その辺の街道にでも転がっていそうな男を・・・」
「ヴォルフ!」
私は我慢ができなくなってヴォルフラムに詰め寄った。
「ヴォルフ、なんてこと言うの!確かにユーリは<b>こんなb>だけど、間違いなく新魔王よ!さらにはコンラッドのことを人間もどき!?いい加減にしなさいよ!<b>わがままプーb>!!」
「わっ・・・なんなんだそれは!?たとえの言う事でも、そいつが新魔王には見えない!おまえだって今こんなだと言っただろう!」
「ユーリはこちらのことを何も知らない。だけど、ユーリが新魔王なの。私とコンラッドが間違えるはずがない」
「ぼくと話している時にそいつの名を出すな!」
「コンラッドはあなたの兄上でしょ!?いい加減にしろって言ってるでしょうが!!」
「ぼくはあいつを兄だと思った事など一度も・・・」
「ヴォルフ!!」
「うるさいっ。大体、そいつが本物だという証拠はどこにある!?それを確かめるまでは、こんなガキが魔王だと認める気はないからな」
「ガキ!?どう見てもきみは、おれと同じ年くらいに見えるぞ」
唖然として私とヴォルフラムの言い合いを見聞きしていたユーリが、ガキと言われて口を挟んできた。
「いくつだ?」
ふんぞりかえってヴォルフラムがきく。新魔王に向かってなんて態度だ、と思うが、自分もそうだと気づいてこらえる。私は改める気は無いし、どのみちユーリは私に敬語禁止令をだすだろう。そういうやつだ。
「・・・15・・・あと二か月で16・・・」
素直に答えるユーリに、ヴォルフラムは「ふん」と鼻で笑った。
「ふんって何だ、ふんって!じゃあお前は何歳だよ!?そーんな美少年ヅラしてて、もう老人だとか言うんじゃないだろうな」
「82だ」
「・・・はい?」
ヴォルフラムの答えに、ユーリが一瞬固まる。
「ユーリ、魔族は人間より成長が遅くて長命で、大体外見カケル5なの」
「・・・マジ?」
「マジ」
またもやヴォルフラムが鼻で笑ったが、ユーリにはきこえなかったようだ。
「じゃ、じゃあは、いくつなんだ?」
「78」
「・・・おれ、マジで世の中分かんない」
だからそういうもんなんだって。
とりあえずヴォルフラムをなだめ、私たちは血盟城の中へ入った。
ユーリは風呂(魔王専用)に入りに行った。今のユーリにはコンラッド、とギュンターがついているから問題ない。私も風呂に入る準備をするべく、久しぶりの自室に足を踏み入れていた。
「・・・増えてる」
少し広めのベッドの上には、可愛らしい編みぐるみが10コ。以前帰って来た時は、確か7コだったはず。
「ま、いいけどね」
可愛いし。
それにしても、編みぐるみ作成は精神統一だと言っている作り主は、そんなにイライラしていることが多いのだろうか。少し心配だ。
とりあえず正装を手にして風呂場へ向かった。貸し切り、いや、自室のもの。大きさは一般家庭のより少し大きいくらいだ。鏡の前で、そっと目の中のモノを出した。ぱちぱちと瞬きをする自分が鏡に映っている。その瞳は先ほどのような黒茶ではなく、混じりけのない真紅。湯を頭からかけると、黒っぽいモノが一緒に流れ落ちていく。頭の色が、黒茶から段々本来の色に変わっていく。完全に流れきった時、本来の姿のヴェル・が姿を現した。瞳は真紅、髪は真紅に灰混じり。これが、本来の私の姿だ。
「ユーリ、私だってわかるかな」
答えはもうすぐわかる。
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