魔族・魔力
ユーリは文化の違いに驚かされっぱなしのようだ。昨日と同じように馬を目の前に出されてうんざりといった顔。ユーリが、魔術でばびゅーんと飛ばしてくれとか言っている。
「テレビではやってたぞー」
「テレビと現実を一緒にしないように。魔術は主に戦闘に使うの。あとは治療とか」
「まぁ簡単に言うと、省エネ」
コンラッド、それは少し違う気がする。
「もっとも、魔力のかけらさえ持ち合わせていない俺がそう言っても、説得力はないけどね」
コンラッドは魔力を持たないから、魔術を使う事は出来ない。魔力は魂の資質だとかいうけど、やっぱり生まれも関係あると思う。彼の父親は、人間だから・・・。
今日もコンラッドとユーリが相乗りで行く。空には骨飛族。ユーリ命名“コッヒー”。コンラッドが軽く骨飛族の説明をし終えると、私たちは村を出た。
次に着いたのは魔族の村だ。ここで一度休憩をとる。ユーリはかなり疲れているらしく、ぐちぐちわめいている。そこへ、一人の女の子がユーリに水を持ってきた。
「陛下、お待ちくださ・・・」
ギュンターが言い終わる前に、コンラッドがユーリから水の入ったグラスを取り上げた。
「私が・・・」
手で制され、言いかけで終わる。コンラッドはそのままグラスを口に持って行き、一口飲んでからユーリに返した。少し残して、と囁くのも忘れずに。ユーリはそれに従い、少しグラスに残すように水を飲んだ。グラスがお盆に返されると、女の子は嬉しそうに笑ってお辞儀をし、走り去って行った。
コンラッドがやったのは、いわゆる毒見という物。それされたんじゃ、私の側近という立場ないじゃん。
ユーリは満足、コンラッドはそれを見て微笑み、ギュンターは呆れている。
「陛下、あれほど、我々が持参したもの以外はお口になさらないようにと申し上げましたのに・・・。大体コンラート、あなたは庶民に肩入れしすぎです」
「だから何?」
と私も思うけど、ここまでしれっと言うことはできない。コンラッドと私では、国民に対する行動や思いが多少異なるからだ。
「国民に肩入れしなくて、誰にしろって言うんだ?ああもちろん・・・陛下には型なんて言わずに、手でも胸でも命でも差し上げますが」
「私も」
その為の
側近。
大切な主を守る盾であり、剣。
「・・・胸とか命はいらないよ」
「「そうおっしゃらずに」」
「そんかし魔術を貸してくれ。魔術でばびゅーんと飛ばしてくれ」
「魔術に関してちょっとなぁ。俺には魔力が無いって言ったでしょう?魔術に関しては我が国でも最高の術者の一人であるギュンター、それに近いがお役に立てますよ」
私の魔力ってそんなに強かったっけ?と首を傾げる。確かに母さんは魔力の強い湖畔族の血を継いでいるし、私もそうだけど。
「ギュンターはなんとなくわかるけど、もすごいのか?」
「いや、私はせいぜいギュンターの三分の二くらいかと」
「ふーん・・・それでも結構すごそうだよな」
「他人事のように言ってるけど、あんたの方が何倍も上なのよ。魔王なんだから」
「えー。おれ人間だから魔力とか霊力とか超能力とかぜんっぜん持ってないよ」
いや、霊力と超能力は違うから。しかもその二つは人間でも持ってる人は持ってる。
「へ、い、か、は、ま、ぞ、く、で、す!」
「ユーリの魂は間違いなく魔族のものだから、今は使えなくてもいずれ使えるようになるわよ。とりあえず今は、魔術よりも馬に一人で乗れるようにならないとね。歩くだけでも」
「おれは、こいつにィ?」
ユーリはすぐそばで水を飲んでいるコンラッドの愛馬ノーカンティー♀を凝視した。
「いいえー。陛下にばっちりお似合いの真っ黒いやつをご用意しましたよー」
「・・・あぁ、生まれる時もコンラッドが手懸けて、丹精込めて育て上げた愛娘ね」
ユーリは真っ黒より真っ白の方が良かったのかもしれないけど、仕方ないね、魔王なんだから。
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