ここがあなたの世界です































「陛下!」


難民の村に着いて大きめの家の前に来た時、扉が勢いよく開いて、私にとって懐かしの人物が飛び出してきた。フォンクライスト卿ギュンター。王佐である彼は、陛下の・・・つまりユーリの、教育係である。


「ギュンター、フォングランツに先を越されかけた。が一緒じゃなかったらと思うと・・・」

、お手柄です。しかし陛下、奴らに何かされませんでしたか?」


棒読みで言われても嬉しくありませーん。しかし、何だか少々過保護ではないか?


「石を投げられたりしたけど・・・」

「なんということを!あの人間ども・・・けれど・・・陛下・・・何故お言葉が」


自然に、私に視線が集まる。


「私ではなく、アーダルベルトが」

「何故止めなかったのですか!」

「いや、だって不便だし・・・」

「皆さん外国人っぽいけど、日本語すごくお上手ですねぇ」


間の抜けた感じでユーリが言う。もう少し空気を読んでほしい。


「ユーリ、ここは日本じゃないの」

「なーに言ってんだよ。じゃあなんでこの人たち日本語喋ってんの?」

「しゃべってないよ」


ユーリを挟んだ所に立つ長身が答える。


「え・・・はもちろん、日本語・・・だよな?」

「残念ながら」


ユーリは困惑の表情を浮かべているが、はっきり言ってあげた方がいいだろう。


「ここは日本どころか地球ですらない、完全に異世界なのよ」

「え・・・え?」


ユーリが何を考えているのか、何も考えられないのかもよくわからない。おそらく自分の中でぐるぐる突発的な事を考えているのだろう。


「コンラッド・・・じゃない、えーっと、コンラート」

「え?あぁ、英語に耳が慣れてるなら、コンラッドのほうが発音しやすいでしょう。知人の中にはそう呼ぶ者もいますし」

「おれ、あんたとどっかで会ってるかな」


・・・なんてドラマティックなことを言い出すんだ、この子は。


コンラッドはユーリの疑問に、少し間をおいてから首を横に振った。


「いや」


嘘つき。


「とにかく陛下、こんなところではお話も出来ません。どうぞ中へ」


うながされ、私達は家の中に入った。





























私は話には入らず、彼らが話しているのを黙って聞いていた。この、灰色の髪でスミレ色の瞳を持つ、地球ではありえない位美しい容姿の人の話は長くてまどろっこしいから嫌だけど、それでユーリが信じてくれるなら黙って聞く。・・・信用性低いみたいだけど。


「あのさ、きいてもいい?」

「はい、なんなりと」

「なんではいろいろ知ってんの?」

、ですか?は元々この国の者ですから」

「え、そうなの!?」

「はい。、陛下にご説明を」


軽く返事をして、ユーリに向き直る。


「私の本名は、ヴェル。大体って呼ばれるわ。私は新王陛下・・・つまりあんたの、側近。家族そろって地球に渡って、渋谷家のお隣さんになったというわけ。OK?」

「おーけい。なんとなくわかった」


その時、扉が遠慮がちに数回叩かれた。コンラッドが用心深く扉を開ける。ノックしたのはコンラッドを慕うこの村の子ども達で、コンラッドを遊びの誘いに来たらしい。コンラッドは頭を下げつつ外へ出て行った。そのあとユーリは、“何を倒せばクリア”なのかときいた。


「人間です」


はっきりと出された答えに、ユーリはただ戸惑い、驚くしか出来ていない。


「だったらおれも殺されないといけないし、あんたたちも人間・・・だよな」

「陛下はどこからどう見ても我々と同じ魔族です。いえ、それ以上に、髪と瞳の両方が黒い、慕うべきお方です!身体に黒を宿してお生まれになるのは・・・」


云々。


言っちゃった。この文中に、ユーリは聞き逃せないフレーズを見つけたはずだ。


「我々と同じ、なんだって?」


ほらね。


「魔族です」

「・・・で、おれはなんの陛下だって?」

「魔王陛下であらせられます」


ユーリの首がギギギと機械音でも発しそうな勢いで動き、顔がこちらに向く。


「本当、なのか」

「全くもって本当ですよ、魔王陛下。私も魔族だし、父も母も兄も純粋の魔族です」


あえてきっぱり言うと、ユーリはふらりとよろめいた。


「しっかり、陛下、しっかりしてください!あなたは我等の希望となる、第二十七代魔王陛下なのですよっ」

「そんなに揺さぶったらユーリの意識が・・・」

「陛下ー――!!」


ユーリはおそらく現実逃避している。心の中で自分自身に向かってマシンガントーク発動中の可能性、特大。


「あああーうそーっ、誰か嘘って言ってくれー!!」

「嘘じゃありません!ほんとうにあなたが魔王なんです。おめでとうございます、今日からあなたは魔王です!」


ユーリにとっては、おめでたくもありがたくもないのかもしれないけどね。






























ユーリは落ち着くために外に出て行った。残された2人。


「・・・、あなた陛下に何もご説明していないのですか?」


あ、コンラッドが言ってたこと当たった。


「してない。勝馬さんも美子さんも言う気なかったみたいだし、父さんたちもそう」

「きちんと“父上”とお呼びしなさい」

「はいはい。“叔父上”は教育熱心ですね」


フォンクライスト卿ギュンター。またの名を、母の弟で私と兄の叔父上様。




「わかってますって。ユーリは知らないことだらけだし、双黒とはいえども片親は人間。ヴォルフラムが黙ってはいない。・・・グウェンダルもか」

「そうです。どうにかあの2人を説得しなければならないのです」

「ツェリ様の言葉も今回ばかりは聞きそうにないし・・・どうするかな・・・」

「そのことは行きながら考えましょう。陛下がお戻りになられました」


ドアノブに手を掛ける音がきこえた。


「だけど、ここがあなたの世界だ」


扉を開けて、コンラッドがユーリに言った。


「おかえりなさい、陛下」


少し不安だけど、ユーリなら大丈夫。そう信じて、疑わなかった。

























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