更なる
戻って来たユーリの手に、モルギフは無かった。自分の手には負えないと。無理に取って来なくてもいいと思う。取って来れなければ、ということも考えておかなければならないけれど。ユーリの意志がそれならば、それに従う。
一人部屋で静かに就寝と思っていたら、隣から声が聞こえてきた。これは、コンラッドとヨザックの声。
ユーリを試す
ツェリ様の間違い
失われた部下や友
ジュリア
ルッテンベルグの獅子
ジュリアの魔石
ユーリがこれをきいていたらどうするだろうか。決まっている。あの子は取りに行くだろう。魔剣モルギフを。
私は逆隣りで戸の開く音をきいて小さく笑いながら床についた。
厨房から変な声が聞こえてきた。ここ数日聞き慣れた二つの声、グウェンダルと叔父上だ。この異臭はまた叔父上が占いと称して何かやったのだろう。おそるおそる入ってみて、後悔した。
「あああーっ、もう誰もかれもが陛下にメロメロで、陛下に骨抜きなんでしょーッ!?」
・・・叔父上・・・。
「誰か手を貸せっ!乱心だ、フォンクライスト卿が乱心したぞ!?」
「誰かギーゼラを呼んでくれ。一番安全で効果的だ」
できれば軍曹モードで。こってり絞られてくれ、叔父上。
魔剣モルギフを、ユーリは見事持ち帰った。けれどこのままではモルギフは意味を成さないらしい。なんでも、“充電”が必要なのだとか。モルギフのエネルギーは生命力だが、さすがに生きの良い人からもらうのは、ということで、今病院に来ている。危篤状態の人やご臨終寸前の方の元へ行ってみる・・・けれど、誰も亡くなる気配がない。死なないのはいいことなのだけれども、複雑な心境。今は困る。結局午前中はまったくのハズレ。午後からは私とコンラッドとヨザックが南、西、東の施設へ別れて行く事になった。
最近色々あるなと思いつつ、俺は今グウェンダルの部屋にいる。隣にはせっせと指を動かす部屋の主。俺も小さいエモノのために指を動かしていた。そんな中、コンコンとノックがさせて扉が開いた。
「入っていいと言ったか」
入って来たのは叔父上だった。グウェンダルは返事をきかずに入室した叔父上を睨みつける。
「入っていいと言ったか」
「ああ、あの、えーと、本当に、申し訳ありません。あのーグウェンダル、そのぉ」
ちらちらと叔父上の視線が部屋の隅に向く。そこに並ぶのはグウェンダルが作り上げたあみぐるみたち。
「編み物が・・・趣味だったんですか・・・」
「趣味ではない」
グウェンダルは否定するが、これはもう趣味の域だと思うんだが。俺?俺はグウェンダルに付き合ってたまにやっているだけだ。
「精神統一だ・・・」
「せ・・・」
「こうして毛糸を編んでいると、邪念を払って無心になれる」
グウェンダルがいらついているときに指が動くのはこれのせいだ。最近里親不足らしいから、またの部屋に新しい子がいきそうだな。俺はできたマスコットをグウェンダルの机に飾って、次を編むことにした。
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