魔剣を求めて
あれから、魔族だとバレた私たちは捕えられて船内の牢へ入れられた。ユーリはもう二日、眠ったままだ。片目だけコンタクトを入れたままのユーリの目からそれを外すのには苦労した。それでも起きないのだから、相当消耗したのだろう。
「大丈夫かな・・・」
「呼吸も安定してるし、大丈夫だよ」
ユーリの頭を胸に抱いた状態でコンラッドが言う。この体勢にはじめはヴォルフラムも反対していたが、さすがにバスローブ姿の彼にやらせるわけにはいかない。私もドレスのままなので同様に。そうこうしていると、ユーリが目を覚ました。そして以前と同じように魔術発動時のことを覚えていないと言うから、魔術発動からのことを教えてやる。あれを覚えていないなんて、なんかずるい。
「それにしてもおなかすいたな・・・」
「そうねぇ、そろそろ・・・」
「ちゃッらーんッ!」
あぁ、来た。
鉄格子の鍵を開けて中に入って来たのはオレンジ頭のがたいの良い兵士。
「お待たせ、メシよんっ」
「ヨザック。ねぇ、軍服とは言わないけど代わりの服ある?」
「もちろんさぁ」
よかった、さすがにこれからの行動もドレスだと動きづらいから。
「さ、陛下、お口に合うかどうかわかりませんがどうぞ」
「ななななんでおれのこと陛下って呼ぶの!?確かに魔族だってのはバレちゃったけど、おれ平凡な旅の魔族で・・・」
ユーリが慌てふためくとヨザックは笑った。
「いーねぇ!きいてたとおり、素だと相当かわいいねーェ」
「かわいいでしょー。だめよ、ユーリは私のだから」
「ななな何を言っているんだ!?ほ、ほんとなのか!!?」
冗談だよ、ヴォルフラム。そんなに本気で動揺して慌てないでよ。
「いやー部下にもモテモテってか?まぁこんだけかわいい陛下ならねーェ」
「おい、陛下に失礼だろう」
「そりゃ国内なら失礼だけど、ここは遠い海の国外だ。それにオレのことを忘れちまってるつれない男を、ちっとくらい困らせてもいいんじゃねぇかぁ?」
「忘れてるって、どこかで会ったっけ・・・?」
一致してないんだろうなぁ、ある意味衝撃的すぎて。
ユーリはじーっと彼を上から下まで観察した。そしてその視線は上腕二頭筋で止まる。どうしてそこで止まるの。
「あっ、みっ、ミス・上腕二頭筋!?」
「ご名答ーぅ」
ミス・上腕二頭筋って・・・それでOKを出しちゃうヨザックもヨザックだけど。
ユーリはヨザックが男になってしまったことに首を傾げた。もしかして本気で女だと思っていたのだろうか。あの体格で、あの声で、あの顔だけ白い化粧の仕方で。
「じゃあなんでコンラッドにナンパされてたんだよ」
「オレが隊長になんだって?仲が良いって事?そーりゃ当然ですよ、ガキの頃から一緒なんだから」
え?え?とユーリが困惑している。まさか、新たな兄弟だと思っているんじゃ。似ていなくても、すでに似てない三兄弟で慣れてしまっているから疑問に思わない。その可能性はコンラッドによって早々と否定されたけど。
「彼の名前はグリエ・ヨザック。シルドクラウトからずっとついていた護衛です」
「よろしこー」
ユーリとヨザック、実はユーリが今回こちらに来たばかりのときに会っていたらしい。・・・風呂で。裸のお付き合いときいてヴォルフラムが騒ぐのだけど、あの、下ネタは、あの、一応女に分類される者がここにいるんですけど。
そんなこんなでとりあえずヨザックが持って来てくれた食事を食べることにしたのだけど、子羊の骨付き肉ハーブ添えには、ユーリ以外は手を付けなかった。悪夢が蘇るから・・・。
真夜中、小舟の手配をしてきたヨザックが戻って来て、私たちは密かに牢を出た。寝ぼけ眼のヴォルフラムは半眼でオールを持っている。寝かけているから動きがそれていく。
「あーもう私が代わる!」
「はへ?」
ヴォルフラムを押しのけて彼の手にあったオールを漕ぐ。ユーリが漕ぎながら「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」と言い出した。
「陛下それ、ラマーズ法なんじゃないかなぁ・・・」
ラマーズ法って地球用語だよね、なんでコンラッド知ってるの?という疑問を抱きつつ、ヴァン・ダー・ヴィーア島へ船をすすめた。
上陸して山道を歩くこと約四時間半。ユーリはばてばてでぜーはー言っている。体力づくりだと思って頑張ってもらわないと。こんなの登攀訓練にもならないよ。
ヴォルフラムも船酔いの延長戦でふらふらしてるし・・・と思ったところで、茶店を見つけた。ここで少し休憩をする。これをさらにのぼってモルギフがある泉に行くのだけれど、ヴォルフラムはどうにも動けそうにない。目も虚ろだし、今ユーリ関連で何か言っても反応してくれそうにない。
「私もここで待ってるね」
「え、行かないの?」
「なんか嫌な予感がしてね」
泉だって言うし。だから三人で行ってらっしゃい。
この店は宿も兼ねているらしい。先に一部屋借りてヴォルフラムを押し込む。
「ヴォルフ、大丈夫?」
「・・・あぁ」
本当だろうか。あぁでもさっきよりはよくなってるかな。
「何か飲む?」
「水・・・」
「水ね」
備え付けのポットからコップに水を注いでヴォルフラムに渡す。
「・・・すまない」
「どうしてあやまるの?」
「ぼくがこんな状態だから残ったのだろう?」
「あぁ・・・それもあるけど、本当に嫌な予感がしたの」
「・・・そうか」
ヴォルフラムは水を一気に飲み干して一息ついた。
「」
「ん?」
「おまえはずっと眞魔国の・・・ユーリの元にいるだろう?」
「そりゃあ側近だし、大切な親友だし、眞魔国は故郷だし、大好きだし・・・なんでそんなこときくの?」
唐突な問いに首を傾げると、ヴォルフラムは小さく顔をそらした。
「いや・・・なぜだか確認したくなっただけだ」
「ふーん・・・まぁ、安心していいわよ。私がユーリを裏切る事なんて、絶対に、無い」
「あぁ、そうだな・・・」
ヴォルフラムが薄く笑うのに、私も微笑み返す。さて、今のうちにしっかり休んでおきましょうかね。
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