ひとときのやすらぎを
ホネ、ほね、骨。
床のあちこちに、食べ捨てられた骨が散らばっている。
「人間のマナーってわかんない・・・」
ふとユーリとコンラッドの方を見れば、二人はダンスの練習中。そしていくつもの視線があるのを感じる。少し離れた所から、何人もの女の子に見られている。
「我が陛下はモテモテですこと・・・」
「あら、ヤキモチ?」
「え」
独り言に相槌が帰ってきて、勢いよく振り向く。だって今、気配がしなかった。
「・・・ヨザ」
どこぞの強者かと思えば、顔馴染みだった。名前はグリエ・ヨザック。ただし、今の“彼”はとてもがたいの良い“彼女”。
「あの方は貴女のお相手なの?」
「チガイマスケド」
「そうなの。それじゃ」
“彼女”はそれだけ言うと、ユーリにダンスを求めに行った。“彼女”ダンスに誘うと、ユーリを狙っていた彼女たちが我先にと押し寄せていた。最終的に、朝のうちに知り合ったらしい男性の娘さん(6歳くらい)と踊る事になったようだ。
「・・・スケさん、せっかくだから踊らないか」
ユーリを放置してきたらしいコンラッドが言う。
「私がコン・・・カクさんと?」
「そう。きみが、俺と」
そう言ってコンラッドが私の手をとる。ユーリから少し離れた所で踊り出した。
「いいの?ユーリから離れて」
「近くにはヨザックがいるから大丈夫だろう」
「ヨザックねぇ・・・なんでヨザックがいるの?びびっちゃったんだけど」
「まだアレに慣れないのか。あいつはシルドクラウドからずっとついてたんだけど、気付かなかったのか」
「・・・私がにぶったのか、ヨザックが腕を上げたのか」
おそらく前者だ。情けない。
曲が終わると、スッとコンラッドが離れた。
「少しヨザックと話してくる。先に戻っててくれないか」
「わかった」
離れる時、コンラッドが少し名残惜しそうな表情をしていたのは、気のせいということにしておこう。
部屋に戻ると、ヴォルフラムとユーリが口喧嘩をしていた。というか、痴話喧嘩?裏切り者だの、尻軽だの言われてユーリが困惑している。ユーリが可愛いのは私も同感だし、幼女とはいえ女性と踊って来たのは事実だな。
「二人とも、いい加減にその辺で・・・」
それでもキリがないからと止めようとしたとき、強い衝撃が私たちを襲った。
グウェンダルと共に厨房に入る。見えたのは鍋に何かを入れようとしている叔父上の姿。どうやら叔父上は占いをよくしているようで、今度は油の中に白い子ネズミを入れて占おうとしているようだった。
「なるほど、相手があの陛下なら、下等動物で充分だろうな」
「そうでした!この私としたことが、なんと愚かな過ちを!気高く偉大な陛下の旅を、ネズミごときで占えるはずがない!ああどうしましょう!?ではせめて」
叔父上はそこで一旦止めて、逆の腕を勢いよく持ち上げた。
「仔猫なら」
「・・・・・」
この人は知らなかったようだ。グウェンダルの意外な面を。
冷徹で皮肉屋な美丈夫(女性達・談)の、思わぬ部分のテグスが切れる。
「や、やめろッ!!貴様これは虐待だぞ!?ほら恐がってめぇめぇ鳴いているではないか!可哀相に、もう大丈夫でちゅよー、そんな酷いことはさせましぇんからにぇー」
これをきいて一瞬でも固まらない者が、果たしているのか。
「・・・グウェン・・・あなた・・・」
「・・・ギュンター・・・貴様・・・」
叔父上が何に驚いて狼狽えているのかはわかるが、グウェンダルが動揺して怒っている理由がいまいちわからない。今のは不可抗力というか、抑制できなかった自分の不手際だろう。
「私の目の黒いうちは、二度と仔猫の虐待は許さん」
ちなみにフォンヴォルテール卿グウェンダルの瞳は、青だ。
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