兄はマのつく城兵業





















俺はの兄です。実はがまだロードワークから帰って来ていない。いつもならとっくに戻って来ている時間だ。の事だから襲われるなんて事はないだろうが・・・それでも心配なのが兄心というやつで。そんなことを思っている時、ピンポーンとインターホンが鳴る。母さんは出る気が無いようなので、俺が玄関のドアを開けた。


「有利じゃないか。どうしたんだ?」

、戻って来てませんか」

「まだ戻ってない。一緒だったのか?」

「はい・・・」


有利の様子が少しおかしい。目がきょろきょろ泳いでいる。何か話したい事があるのだろう。有利を家の中へと招き入れた。



















有利をソファに座らせて紅茶を出すと、少し落ち着いたようだ。ふぅ、と力を抜いてソファに沈み込んだ有利の胸元で何かが揺れた。それを目にし、俺は軽く目を瞠る。


「有利、それは・・・」


声に出すと、有利が顔を上げる。と、青い石がまた揺れる。あんなに青くは無かった記憶があるが。


「もらったんです。俺の・・・名付け親に」


名付け親。それで、悟った。


「いったんだな、あちらへ」

「は、はい。・・・やっぱが言ってたことはホントのことだったんだ・・・」


やっぱり夢じゃなかった、と有利が呟く。それにしても、有利がここに居てが戻って来ていないのは、置いて行かれたということだろうか。


「すでに即位したのか?」

「・・・魔王になりました・・・戴冠式の途中で引きずり込まれちゃったけど」


なんか滝に手をぐいって引っ張られて、と苦い顔をする有利を見る。なぜ言賜巫女はそんな中途半端で送り返したんだか。


「まぁ、向こうに戻ったら慌ただしくなるだろうし、今のうちにゆっくり休んどけ」

「はい」


新魔王陛下を実家へ帰し、俺はキッチンに声を掛けた。


「母さん、風呂わかしてくれないか」

「どうせならここから行く?」


にこりと笑って母さんが示したのは、入れたてで湯気の立つ熱いコーヒー。


「・・・自分で入れます」


門はウルリーケが開いてくれるだろう。



















風呂を沸かすと、俺は服を着たまま湯船に手を突っ込んだ。少しすると強い力に腕が引っ張られる。抵抗する事なく風呂に引きずり込まれ、故郷への門をくぐった。



















・・・冷たい。入口は風呂だったが、出口も風呂とはいかなかったようだ。城内の噴水がすぐ後ろで水音を立てている。その中に人の足音が混じり込んだ。全部で五人分。


「うわっ、噴水の中とはまたこれは・・・」

「・・・悲惨だな」

「突然来たな」

「あーあ、びしょびしょじゃない」

、はやく替えの服を」


次男、長男、三男、妹、叔父の、三者三様ならぬ五者三様の反応。


「ただいま」


とりあえず右手を上げて挨拶をする。服が水を吸って重たい。


「おかえり、

「よく帰ったな!」

「・・・よく帰った」

「おかえり、兄貴」

「兄上でしょう?おかえりなさい、


今度は皆同じ返答。差し出されたコンラートの手をとって立ち上がる。ぽたぽたと雫が滴り落ちるが、決して涙ではない事を言っておく。


!」

「あ?」


突然ヴォルフラムに大声で呼ばれて変な声が出る。


「なぜ一人で戻ったんだ!」

「・・・は?」

「なぜユーリを連れて帰らなかったんだ!」

「・・・あ」


そういえばそうだ。


「変なところで抜けてるんだから・・・」


の呆れ声に反論できない。


「悪かったって。まぁ、いずれまた来るだろ。あいつはこの国の王なんだからさ」

「そうね」

「魔王が普段いない城なんて変だ」

「そう言うなヴォルフ。ユーリにとっては両方が“故郷”だ」


心身の生まれ故郷と、魂の故郷。


「・・・あいつに女なんていないよな?」

「は?」


ふくれ面のヴォルフラムの問にまた変な声が出る。なぜそんな問いが出てくるのか首を傾げていると、がこっそり教えてくれた。


「ユーリがヴォルフに、知らなかったとはいえ平手求婚しちゃって、二人は一応婚約者同士ってことになってるの」

「・・・なるほど」


ヴォルフラムのやつ、何かユーリを怒らせることでも言ったのだろうか。まぁ、このヴォルフラムの様子だとまんざらでもないようだから問題ないか、と俺は片づけたのだった。




















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