魔王、とぶ
戴冠式が始まる。
ユーリはどうやら、魔王になってやる宣言を後悔している様子。
「これで良かったのよ。ユーリが即位してくれないと、私無職になっちゃうんだから」
「そう言われてもなー」
「も特殊なんですよ。なんたって、“第二十七代魔王陛下”の側近なんだから」
「二十七代って決まってんのか」
「そ。ユーリが即位しないと、私も第二十七代魔王側近に慣れないの。・・・あ、ヴォルフ」
私たちが向かう方向からヴォルフラムが歩いてきた。ヴォルフラムはユーリを見るなり「質素でみじめでびんぼうくさい格好」と言ったが・・・どうも照れ隠しに思える。彼の頬が少々赤かったからだ。金色のブローチをユーリの胸に留めると、「まぁまぁだ」と早口で言って小走りに立ち去った。何て不自然な・・・。
「どうやら陛下はヴォルフラムに気に入られちゃったようですね」
弟の背中を得意げに見送り、コンラッドが言った。
「えええーっ!!?あの高慢ちきナニサマだ殿下にぃ!?」
「一言で言うと“わがままプー”」
「わがままプー・・・」
「それより、ほら、始まるよ」
扉の向こうには、各地の貴族諸侯、各種族を代表する者たちがいた。その奥の滝の前に、前王であるツェリ様がいる。ユーリはツェリ様と少し話をし、戴冠式のならわしである滝に右手を突っ込む行為を行った。が。
「あれ・・・うわぁッ、なんか、なんかがッ。つっ、掴まれたッ!」
「えっ、ちょ、ユーリ!?」
ユーリが滝に引きずり込まれていく。その手を掴もうとするけど、水の中で掻き消えた。
「陛下?陛下ァッ!?」
ギュンターを筆頭に騒ぎ始める。戴冠式の最中に、即位する本人が消えてしまったのだから。
「・・・置いて行かれた」
おかしいな、私側近のはずなのに。変な脱力感に見舞われたまま、王の居ない戴冠式は幕を閉じた。
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