カナシキモノに降り注ぎし雨





















ユーリとヴォルフラムの決闘から三日。ユーリは力を使って倒れた後、眠り続けている。その間に、国境近くの村で紛争が起きた。今はグウェンダルとコンラッドが鎮圧に赴いている。そんな状況下私はというと、馬小屋にいた。たくさんの馬が並ぶその中の一頭を撫でていると、ガタッと物音がした。思わず零れる笑みをおさえながら、音のした方を振り返る。


「目が覚めてよかったわ。と、どこへ行くつもり?ユーリ」


そこには三日間眠り続けていたユーリと、つい三日前まで険悪だったヴォルフラムが並んで立っていた。二人の後ろには数名のヴォルフラムの部下たち。


「あ、えっと・・・」

「難民の村だ」


口を濁らせるユーリのかわりにヴォルフラムがあっさり答える。


「ギュンターには?」

「言っていない。止められるのがオチだからな」


後で怒られるのが目に見える。


「先に行ってて。すぐ追いかけるから」

「止めないのか?」


きいたのはユーリだった。私は、今度は笑みを隠さなかった。


「こうなることを予測してここに居たんだから。それに、あんたは止めたって聞かないでしょ?」

「・・・ありがとう」


彼らの後ろ姿を見送ると、私は近くにいた馬を撫でた。


「ほんと、どうしようもない子たちね」


肯定するように軽く嘶いてくれたのを聞き、私は彼らの後を追った。



















村は、燃えていた。前方に見えるのは二つの人影。一目見てわかる。ひとつはユーリだ。


「ユーリ!」

!」


もうひとつの人影は、数日前に会った人物のものだった。


「アーダルベルト・・・!!」

「ヴェルか。厄介だな」

「ユーリは渡さない。ユーリ、こっちへ」


私が馬から降りるのとユーリが移動してくるのが同時。ヴォルフラムはどうしたのだろうか。疑問を抱きながらユーリを背にして身構えると、ユーリがいた地面に骨飛族がバラバラになって転がっているのが見えた。骨飛族が、ユーリを守った?


「その身構え、どこかで見たな・・・そうか、そいつがこっちに来た時・・・。あの嬢ちゃんはお前だったのか、

「髪と目の色が違うだけで騙されるなんてね。これでユーリを好きには・・・」


言葉は続かなかった。軍馬の駆ける音が聞こえてくる。ウェラー卿とフォンビーレフェルト卿の軍隊が到着した。



















コンラッドとヴォルフラムが来て分が悪くなったことを悟り、アーダルベルトは逃げて行った。


も、どうして陛下を止めてくれなかったんだ」

「止めて聞くような奴じゃないから」


さらりと言ってユーリを見る。彼はバラバラになった骨飛族を埋めようと・・・。


「ちょっ、埋めちゃだめよユーリ」

「なに言ってんだよっ、コッヒーを野晒しにはしておけないよー」

「責任もって回収させますから。埋めちゃったらもう二度と飛べないじゃないですか」

「は?」


私とコンラッドに言われ、ユーリが間抜け面で手を止める。


「だから、骨飛族はきちんと組み立て直せば、元通り飛べるようになりますから」

「し、死んでないの?」

「まぁ、元々骨だしね。不思議なのよねぇ、骨飛族って」

「そんなプラモみたいな仕組みなのー?」

「プラモよりは上等かな。専門の技術者がいるくらいだから」

「なんかすげー・・・」

「それより移動しましょ。流れ矢になんて当たられたらどうしようもない。とりあえず、ギーゼラの所まで行けば安心できるでしょ」


私たちはひとまず、救護テントに向かった。



















ギーゼラはテント内に居るらしい。私は外に溢れている人たちの治療に回った。ユーリが中に入って行くのが見えたけど、ギーゼラがいるから大丈夫だろう。が、救護テントで何かトラブルがあったらしい。脱力した様子でユーリがテントから出て行った。私は中でギーゼラに事情をきき、ユーリの後を追った。














「では、陛下のいらした地球では、人間同士が争う事はなかったとでも?」


さらに、こちらでもトラブルが起きたらしい。コンラッドに言われ、ユーリは言葉を失くしていた。地球にだって戦争はある。犯罪だってある。ユーリがキゴトを軽々しく口にするのは、それらの最中にいたことが無いからだ。あえて私が口出しする事じゃないから黙っていると、ヴォルフラムが宣戦布告だの言いだした。そこで我に返ったのか、ユーリの口が開いた。


「お前ら、きけーッ!!」


マシンガントーク炸裂。こうなったユーリは止められない。グウェンダルを上手く自分の議論に巻き込んでしまった。そして、彼は口にする。


「王様が戦争なんかダメだって言えば、国民はそれに従うんだろ?」

「陛下っ」


コンラッドが一度止めようと声を掛けるが、ユーリにはきこえていないらしい。


「・・・おれが魔王になってやる・・・」

「ユーリ!?」

「眞魔国国王になってやらぁッ」


その場の勢いとも言えるその言葉、あとで取り消しなんて言われても絶対にさせない。私たちは、彼の、ユーリの、陛下のその唇から、その言葉を聞いたのだから。




















堂々と王様宣言をしたのはまずかった。捕えられていたはずの男がいつのまにか剣を手にし、ユーリを人質にとってしまった。油断をしていた。これでは、何の為の側近だ。自分の失態で胸中をいらつかせながら、男を睨むしか出来なかった。隙あらばユーリを奪い返す。ユーリが馬に乗り終える直前、茂みから何か小さな影が飛び出た。影が男の足に突き立った矢を引き抜く。すると男は悲鳴を上げてよろめき、手にしていた刃が馬を傷つけた。恐怖した馬が、逃げようと“荷物”を振り落す。


「やば・・・っ」

「ユーリ!!」


ユーリを受け止めるために踏み出すが、それよりも早く横を駆ける大きな影があった。正直、驚いた。グウェンダルが、ユーリを助けに入ったのだ。ユーリ自身も驚いていたが、すぐに我に返って“小さな影”に駆け寄った。














それはまるで、涙のように。

それはまるで、鎮魂歌のように。

大地に激しく降り注ぐ雨は、まるで―――




















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