いざ異世界へ
えー・・・初めまして、です。ロードワーク中でして、現在地は公園です。さっき、お隣さんちの渋谷有利くん15歳がヤンキー数人に連れて行かれました。女子トイレに。とりあえず、助けに行ってあげましょうか。
「女子トイレでカワイイ子をいじめるなんて、あんたたち変態?」
「あぁ!んだとこの・・・」
ヤンキーは威勢よく振り向いたが、私の顔を見て青くなった。有利はというと、顔を便器に突っ込まれる一歩手前。
「・・・!!」
ヤンキーは無様に逃げて行った。喧嘩なんてほとんどしたことないが、“は鬼のように強い”というのがなぜか一人歩きしてしまっているのだった。
「大丈夫?」
便器にもたれかかるようにして座って溜息をついた有利のそばにしゃがみ込む。
「なんとか。ありがとう、」
「どういたしまして。・・・え?」
有利の頭はもう便器の中に無いのに、何かの力に引っ張られる感覚に襲われる。もしかしなくても、呼び出しか。予定より早い気がするが。そして、門は・・・
便器・・・。
(こんなところから行くのは嫌だぁぁぁ!!)
私の心の叫びもむなしく、私と有利は便器に吸い込まれてそこから姿を消した。
見えるのは、青い空。体を起こすとユーリも起き上がった。
「ここどこ?」
「・・・どこだろうね」
本当に分からないのでそう言っておく。国内であることを祈ろう。
「あ、人だ!」
丁度いいところに人が来た。あの人の反応を見て判断すればいい。偶然通りかかった女の人は、ユーリを見ると悲鳴を上げて村へ逃げて行った。
「ということは国外か。チッ。ユーリ、こっちへ!」
「え、うん。・・・イテッ」
村人が集まり、石を投げてきた。ユーリを背に隠し、どうしたものかと考える。その時、「やめろ!」と言う男の声が響いた。途端、村人たちの動きがピタリと止まる。その、馬に乗った男には見覚えがあった。
「フォングランツ・アーダルベルト・・・」
「言葉が通じる上にオレのことを知っている・・・。お前、何者だ?そいつと一緒に呼ばれたんだろう?」
「答える必要はない。・・・離れなさい」
「、何語話して
「ちょっと黙ってて」・・・はい」
うるさいので黙らせておく。アーダルベルト相手では、日本語は通じない。というか、“ここ”では誰にも通じない。
「丸腰の女を相手にするのは趣味じゃねぇんだが」
「なら黙って私達を行かせなさい」
「そういうわけにもいかん」
私はユーリを背にしたまま考えを巡らせた。武器があっても剣の腕で敵う相手ではないのに、丸腰では相手にすらならない。ここは国外だから制限されるし・・・。そうしているうちにアーダルベルトが近づいてくる。
「来るな!」
「まぁ待てって。言葉が通じねぇと不便だろうが」
「う・・・」
確かに。私とユーリの間では問題ないけど、他の人とユーリが通じないのは不便だ。・・・教える気満々の人がいたような気もするけど。
「・・・他に手を出したら許さない」
アーダルベルトがにっと笑った。ごつくて大きな手がユーリの頭を掴む。
「いっ・・・」
蓄積言語を引き出すために魂をいじるから痛いだろうけど、ここは我慢してもらおう。アーダルベルトが手を離すと、すぐさまユーリを背に隠した。
「用心深ぇな。ご苦労なこった」
「それが私の使命だからね」
「なになに?なんで二人とも険悪モードなわけ!?」
言葉が通じるようになったユーリが口を挟んでくる。
「こいつは敵よ、ユーリ。気を許しては駄目」
「敵!?でも、言葉分かるようにしてくれたし・・・」
「それでも敵なの!とりあえず迎えが来るまでなんとか・・・来た」
「何が」
ユーリに答えを言う前に、遠くからいくつかの蹄の音が聞こえてきた。
「ユーリ!レイ!」
ウェラー卿コンラートは、真っ先に、アーダルベルトに斬りかかった。私は今は戦えないため、二人から離れる。後ろにいたはずのユーリは、いつの間にか骨飛族に保護されていた。
なんか間抜けだなと思ったのは言わないでおこう。
村人を追い払った兵士たちが戻って来るのと、二人が剣を退くのとが、同時だった。アーダルベルトは自分が不利だと見たのか退いて行った。もう大丈夫だと判断し、空を見上げる。
「もう降りて来ていいよ」
「あのさ、これからどうなるわけ?」
落ち着いた頃、ユーリが言った。
「とりあえず、あんたを王都へ護送」
「なんではいろいろ知ってるふうなんだよ。これアトラクションだろ?」
「あのねぇ・・・ま、いっか。私が説明すると後から何か言われそうだし」
「逆に、なぜ説明してないんだって言われるかも」
馬を引きながらウェラー卿コンラートが言う。
「うーん、どっちだろ?ねぇ、このまま王都に直行するの?」
「いや、まずは近くの村に。ギュンターも来ているんだ」
「ならまずはそこね。ユーリ、乗馬の経験は?」
「えーっと・・・メリーゴーランド少々」
スタツアばっかやらせてないで乗馬もやらせといてよ、勝馬さん。
「陛下、こちらへ」
「え、うん」
「レイは・・・」
「わかってる。あっちの大人しそうな子よね」
私が乗馬した後、ユーリも馬に乗った。それにしても、乗り方が不細工。練習するのみだな。
ともあれ私達は、懐かしの大地へと踏み込んだ。
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