魔王陛下は竜に会いたいお年頃
じー・・・っと見つめる視線の先は、訓練中の兵士さん達。シンプルなグレーの軍服の人たちを指南しているのは、おなじくシンプルな、カーキ色の軍服に身を包んだコンラートだった。そういえばコンラートが戦っているのをちゃんと見たことはない気がする。見ないに越したことはないんだけど。ユーリいわく、すごく強くてすごく頼りになる、らしいから、その勇姿を一度は見てみたいなって思ったり。なんてのが視線に出たのかどうかわかんないけど、わたしの心を読むのが非常に上手いコンラートが、こっちを向いて笑顔で手を振った。その笑顔に癒されるなぁと思いながら手を振り返す。続いてコンラートはユーリに手を振る。と、振り返したユーリにはヴォルフラムの「浮気者!」の一言。ヴォルフラムは今ユーリの絵を描いているんだけど、ユーリがその最中によそ見をするのが気にくわなかった様子。
「動かないでいるのは結構大変なんだぜ?」
「うるさい!僕たち武人のように毎日訓練していれば、これくらいなんでもない!」
うん、ヴォルフラムたちはそうかもだけど、ユーリは武人じゃないし、どっちかっていうと動いていなきゃむずむずするタイプだよ。
「とくに、ウェラー卿などは、さっき見たように眞魔国一の剣の使い手でぇ」
「へぇ、自慢の兄ちゃんなんだ」
「・・・ぐ・・・っ!」
ちょっと、意外だった。これグウェンダルのときにも思ったけど、あんまりコンラートを“兄弟”とみてる感じがしなかったから。それはコンラートが魔族と人間のハーフだからってきいたけど・・・。でもこの様子だと、グウェンダルと同じく“武人”としては認めてる、って感じかな。いや、ヴォルフラムの場合は素直じゃないってこともあるんだろうけど。
それにしても・・・ヴォルフラムが使っている絵具のにおいが・・・ひどすぎる。なんでもこれは最高級の絵の具らしいんだけど・・・なにぶん、クマハチの“フン”なわけで。せめてにおい加工とかしてほしいものだ。ヴォルフラムもさすがに強がりだったらしく、ぜぇはぁ言ってる。そこからなぜか思い出のクマハチ話。
「うんうん、クマハチ可愛かった!」
「な!さすがは天然記念物だよな!」
「なんでノギス!なのかはわかんないけど」
「そんな事言ったらお前、猫はめぇめぇだぞ」
「にゃーはゾモ・・・なんとか竜なんでしょ?」
あぁこのへん曖昧だ。前の人あんまり興味なかったのかも。すると突然ユーリが「あー!」って大声を出した。
「どうした、ユーリ?」
「異世界っていったら、肝心なのに会ってないじゃん!」
もしかして。
「竜!!?」
ギュンターさんに言ったら、すごい声を上げられた。まぁ、突然「竜に会いたい」なんて言ったらびっくりするよねぇ。
「異世界に来たら、やっぱりドラゴンは見ておかなくちゃ!」
RPG界では鉄板だからわからないでもないけど、ゲームと違って生身ってことを忘れないでよユーリ。
どうやら眞魔国では竜は保護対象らしいから会えるんじゃないかというのがユーリの言い分。眞魔国を知る為にも!なんて言われちゃギュンターさんも断れないみたいで、さっそく出発の準備にとりかかることになった。
竜の谷に行く準備・・・は武装する必要があるらしい。許可の無い者は入れないけど、時々密猟者がいるからだとか。どこにでもそういうのはあるんだなぁと、地下室の武器防具を見ながら思う。さすがに鎧までつけたら動きにくいから、ちょっと厚手の革物を胸のあたりに仕込んで、武器を、と数種類見せられる。ユーリは魔王の相棒、魔剣モルギフがいるから彼で決定みたい。わたしはどっちかっていうと素手がいいんだけどなぁ・・・刃物持つのちょっと怖いし。
「、これは?」
決めあぐねているのを感じ取ったのか、ユーリがそれを見せてくる。よっつの穴が空いたそれはこう、手になじみそうな・・・。
「メリケンサックなんてこの世界にあったんだ・・・」
これなら大丈夫かも。ユーリにありがとうと言って受け取る。ギュンターさんはちょっと心配そうだったけど、剣のほうが慣れていなくてこわいですって言ったら納得してくれた。
思えば王都から出るのはこれが初めてで、馬に乗るのもこれが人生初なわけで。お父さん、わたしたちがこっちに来るってわかってたなら乗馬くらいさせてくれてたらよかったのに、って思いながら乗ってみたんだけど。
「なんであっさり乗れちゃってるわけ!?」
おれなんてしばらくタンデムだったのに!
って文句を言われるくらいにはすんなり乗れて馬ともすぐ仲良くなれた。
「いやぁ、前世様様?」
笑って言うとユーリにぶーぶー言われたけど、のんびりしてたら日が暮れてしまうので、魔王様と竜のご対面に付き合いましょう一行は出発した。
馬を進め進め、途中で休みつつ進む。
「、ケツ痛くねぇ?」
「もうちょっとマシな言い方出来ないの?ゆーちゃん」
「ゆーちゃん言うな。そしておふくろの真似をするな」
だって、ねぇ?仮にも女の子にケツなんて言っちゃだめですよ!・・・仮にもなんて自分で言ってる時点で駄目な気がするけど。
「そうですよ陛下。は女性なんですから」
「じゃあコンラッドだったらなんていうんだよ?」
「そうですね・・・」
うーんとコンラートが思案する。おしりが痛くないかって、オブラートに包んで言えるものなのかな。
「お尻が痛くないか、ではなく、様子を見ながら休憩しますかね、って言いますね」
「あーあー空気読めるやつは違うよなー」
あぁ、ユーリがふてくされちゃった。仕方がないよ、コンラートは紳士だもん。わたしにも女性なんですからなんて言っちゃう人なんだもん。
「で?空気が読めるイケメン、の様子は?」
「やはり記憶には馬の乗り方があっても身体は今世のですからね。お疲れのようです」
「・・・すごい」
どうしてわかっちゃうんだろう、ほんとコンラートってすごい。
そこで少し休憩をとり、次の村までは一気に進んで行った。
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