愛の導き
天気がいいから城の敷地内で散歩をしていたら、コンラートが城門を出ようとするのが見えた。
「コンラート、でかけるの?」
「あぁ、ちょっと近くの村まで」
近くの村・・・そういえばこの王都以外出たことないんだっけ。って心を読まれたのか、コンラートは苦笑した。
「遅くはならないから」
「うん」
どうやら一緒に連れてってはもらえないらしい。まぁ、この髪と目を隠したりしないといけないんだもんね。時間かかるから仕方がない。コンラートを見送って、わたしは城内散歩を続けることにした。
休憩がてらユーリの顔を見ようと思ったけど、ユーリは部屋にはいなかった。どこに行ったんだろうと探していたら、中庭でギュンターさんたちが何かをしていた。とぎれとぎれ聞こえる声からして、ユーリを探している様子。
「あの、ユーリどこかに行ったんですか?」
「これは姫!」
「姫?」
不意に聞き覚えのない声がして、ぴょこっとグウェンダルの陰から赤い色が顔を出す。真っ赤で綺麗なポニーテールの女性がこちらをじっと見ていた。比較物がすぐ近くにいる大きなグウェンダルだからか、とても小柄に見える。
「貴女が陛下の妹君の様ですね?」
「あ、は、はい」
しゃきっとした喋り方で、こっちも背筋がぴしっとなりそうだ。
「お初にお目にかかります。私はフォンカーベルニコフ・アニシナといいます。以後、お見知りおきを」
「あ、です。よろしくお願いします!」
ぺこりとおじぎをすると、アニシナさんは満足そうに頷いていた。そしてなぜかぐったりしているギュンターさんをちらっと見た後、わたしを見て「そうだ」と目をきらめかせて言う。グウェンダルの顔が、嫌な予感とでも言いたそうに歪んだ。
「様の愛でも陛下をお探ししてみましょう!」
「あ、愛?」
「おいアニシナ・・・」
「なにか文句でも?」
「・・・・・」
アニシナさんに一蹴されてグウェンダルが黙る。グウェンダルが反論できないなんて珍しい・・・それだけアニシナさんがすごい人って事なのかな。ところで、愛で探すってどういうことだろう?言われるがままに、嘘探知機でありそうな機械を渡される。魔術のある世界でこんな化学的なものを見るとは思わなかった。大体のファンタジーって、化学が発展して魔法が滅びるか、魔法が発展して化学が発展しないかなのに。それを頭に、と言われてかぶってみると、近くにあった半円の装置にハートが浮かび上がった。
「ここに、ユーリがいるんですか?」
「はい。様の陛下への愛が、陛下の居場所をつきとめてくださるのです」
ユーリへの愛、ねぇ。確かにユーリは大事なお兄ちゃんで大好きだけど、愛って言われるとなんだかむずがゆいなぁ。ともあれわたしたちは、そのハートが示すところへと向かった。
辿って行くと、迎賓棟というところに到着した。そこには出かけたはずのコンラートがいて、ユーリとヴォルフラムの姿もあった。そしてなにやらファンシーな生き物がいっぱい・・・。
「なにこれかわいい・・・」
「クマハチだよ」
「クマハチ?まんまだねぇ」
でもかわいいなぁ。なんだかユーリとヴォルフラムにすごく懐いているような。どうやら二人はこのクマハチたちの親代わりになったみたい。やがてクマハチたちは「ノギス!」と鳴いて飛び立っていった。
「よかったなぁヴォルフラム。迎賓棟が空いて、お前にぴったりの部屋が・・・」
「来年も待ってるぞー!」
「え?」
えーと、詳しくは話が飲みこめないけど、この迎賓棟をヴォルフラムの部屋にしようとしてたのかな。確かにずっとユーリの部屋にいるもんね、ヴォルフラム。でも、来年もってことは、クマハチはもしかして燕と一緒?
「クマハチは一年間気候の良い場所を巡った後、戻って来てタマゴを産むんです。必ず戻ってきますよ。ここには両親がいるんですから」
あぁ、やっぱり。
「てことは、迎賓棟は・・・?」
「空けておかねばなりません」
「そ、そんなぁ」
どっちにしてもこの古さじゃひとが使うには改築が必要だとは思うけどね。ユーリは一人部屋への夢が閉ざされて、一人ショックで「ノギス〜〜〜!」って泣いた。
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