ツェリ様のお心
どうやったのかどうなったのか通じ合ったグウェンダルとケイジくん。出口を探すよう伝えると、ケイジくんがしっかりと頷いて歩きはじめた。
しばらく進んで行くとケイジくんがなにか発見したかのように走り出す。足元が不安定だから走りにくいけど、必死に後を追った。
「と、わっ!?」
でもやっぱりつまづいてしまってバランスを崩す。でもなぜか地面とキスすることにはならなかった。身体は一時停止したまま、進んでいる感覚がある。
「・・・・・」
おそるおそる首を持ち上げてみると、まっすぐ前を見ているグウェンダルの顔。えーと、これどういう状態?グウェンダルの左腕がわたしの腰回りにあってわたしが宙に浮いててわたしが下から見上げてるってことは・・・。
「小脇に抱えられた状態!?」
「黙っていろ、舌を噛むぞ」
冷静に言われて大人しく口を閉じる。まさか誰かに小脇に抱えられてダッシュされる日が来ようとは思ってなかった。さすが軍人さん、というべきなのか。重たくないのかな。重たかったとしても、グウェンダルは顔に出しそうにないな。
やがて、ケイジくんの走る音とは別に、人の声らしきものがきこえてきた。耳にしみついているユーリの声と、安心できるコンラートの声と、この低めの声はシュトッフェルさんだろうか。ユーリが「大人しくしないとライアンにちょめちょめされちゃうぞ!」って言ってて、ちょめちょめって・・・と呆れたのは多分わたしだけ。ケイジくんはそのまま突っ込んで壁をぶち抜いた。ユーリたちは大丈夫かな?コンラートがいるから大丈夫か。グウェンダルが足を止めると、わたしも地面に降ろされた。あ、なんかジェットコースターのあとみたいな感覚。そんなにはやく走ってないはずなのに。
「安心しろ、お前達を襲ったのではない」
「グウェンダル!それに、も!?」
「ユーリ、無事?」
わたしたちを確認すると、ユーリたちは安心した顔で寄ってくる。
「今まで砂熊と一緒に?」
「・・・近くで見ると、なかなかに愛らしいものだ」
愛らしいって・・・あぁもしかして、さっきの様子もそれか。
「グウェンダルって、もしかして可愛いもの好き?」
「・・・・・」
ぼそっと彼だけにきこえるように呟くと、否定も肯定もされなかった。うん、だんまりは肯定とみなす。ケイジくんが突っ込んで行った方をのぞいてみれば、そこはキラキラ光っていて綺麗な場所だった。思わず「わぁ・・・」と声をもらすと、「これは砂潜り虫ですね」とコンラートに言われた。そんな虫いるのかと思いつつ、そこにすでにいたレイブンさんに目を向ける。どうやらここが出口に通じているようだ。
「なかなか賢い。我が城でも砂熊の飼育を一考しよう」
「それは、ちょっと」
「あはははは・・・」
ケイジくんのおかげでグウェンダルの中で砂熊への好感度がぐっと上がったようだけど、コンラートはおすすめしない、という顔だった。あと合流していないのはツェリ様だけだけど、ツェリ様はすでに自由恋愛旅行に旅立たれた後だろうと、レイブンさんは言った。つまり、再婚は無しということで。何がしたかったんだろう、ツェリ様は。いつもの心変わりですなんてレイブンさんは言ってたけど、多分、違う気がする。
「どう違うんだい?」
「んー・・・よくわかんないけど、女の勘?」
「それは確かかもしれないな」
独り言で言ったつもりだったけど、コンラートにはきこえてしまったらしい。言葉が見つからなくて女の勘だなんて言ったら彼は信じた様子。コンラートってそういうの信じる人なのか。そんなことを話していたら、今度は別の場所に穴が空いた。こちらからではなく、向こう側から。砂熊は一頭のはず、とコンラートが言って一瞬緊張がはしったけど、それはすぐに消え去った。砂煙がおさまると、そこにはつるはしやハンマーを持ってぜぇはぁ言ってるヴォルフラムとギュンターさん、それにライアンさんの姿。ここは出口に繋がってるらしいけど、もしかして掘って来たの・・・?彼らははっとこちらに気づくと、ライアンさんはケイジくんに駆け寄り、ギュンターさんはユーリに抱きついた。出遅れたヴォルフラムが必死にはがしにかかっていて・・・なんだろうこの光景は。なんというか、気が抜けちゃった。乾いた笑いしか出てこないや。出口から出て太陽の光を浴びる。
「なんか疲れたー」
「おれもー」
「二人とも、お疲れ様です」
兄妹そろってぐだーっと頭を垂れると、コンラートがねぎらいの言葉をかけてくれる。
「でも、悪い事ばかりでもなかったよ」
「と、言うと?」
「グウェンダルのことが少しわかった」
ちらと彼を見てみれば、ギュンターさんとお話し中。さっきまでケイジくんにでれっとしてたのはどこにいったやら。
「やっぱりお兄ちゃんなんだなぁって」
「あ、お前もそう思う?やっぱ兄弟なんだなぁって思うよな」
「うんうん」
ユーリにも言われてしきりに頷く。
「最初に会ったときはなんとなく微笑みが似てるなってくらいだったんだけどね」
「・・・グウェンダルの?」
きいてきたのはコンラートだった。ほんの少し、意外そうに目を丸くしている。
「うん。コンラートと、似てる」
「・・・・・」
コンラートは目を瞬かせた後、どこか切なそうに微笑った。
「魔族似てねぇ三兄弟は、魔族実は似てる三兄弟だからなぁ」
「いまのとこヴォルフラムだけいまいちピンとこないんだけど・・・」
「そのうちわかるって!」
な!とユーリがコンラートに同意を求める。
「えぇ、俺の自慢の弟ですから」
今度は多分心からの笑みで、わたしも嬉しくて笑い返したのだった。
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