一件落着!





















助けた女の人は、食堂か何かをしているお店の人だった。今は事情があってお店は閉めているみたいだけど。ところでユーリ、身分を隠すためとはいえ「ハラジュクフウリ」を偽名に使うのはどうかと思うんだけど。渋谷は有利で原宿は不利、は言われ慣れててつい使っちゃうのかもしれないけど。身分は旅行中の商家の次男坊・・・よくそんなのがすらすら出てくるようになったものだ。王様ってすごい。女の人・・・もしかしたら魔族年齢では少女かもしれないこの人の名前はロゼというらしい。弟のリゾットくんと、お父さん。お父さんが身体を壊してしまって店を閉めているのだとか。
ロゼから事情をきいてわかったこと、それは、ロゼが拾った“石”をあの男たちが奪おうとしたということ。そしてその石こそが、血盟城に運ばれる途中で奪われた魔石だった、ということだった。ロゼはその魔石の力で新しい商売を始めてお父さんを助けてあげようとしているのだった。良い人のユーリは魔石を返せなんて言えるわけもなく、ある程度稼いだら返してもらおうと、お手伝いを始めるのだった。





















しばらくして来たのは小さな少女で、彼女の壊れた人形を直してあげた。とその時、さっきの男たちが仲間を引きつれて戻って来た。コンラートやヴォルフラムが腰の剣に手を掛ける。走って行ったのはヴォルフラムで、あっというまに7人の男たちをパンツ一丁にしてしまった。


「わああああ!!ヴォルフラムすごい!!」

「お前少しは恥じらいとか無いのかよ・・・」


ぱちぱちと拍手をして、満足そうに戻って来たヴォルフラムを迎える。呆れ顔のユーリは無視だ。


「これくらい、どうということはない」

「いやいやかっこいいよ〜。すごい剣の腕だよね!」

「・・・」


あれ?どうして顔が赤いのかな。褒められ慣れてないなんてこともないだろうに。ちら、と彼の次兄を見てみると、次兄の方は肩をすくめてみせただけだった。



















ユーリ、ただいまドラム缶風呂にてご入浴中。いいなぁと思いながら、とりあえず別所で待機していた。ユーリのお風呂が終わって夜になると、ひとまず城に戻る事になった。ギュンターさんに怒られないといいけど。


「いや、ギュンターはどっちかというと泣く、かな」


なんてのん気なことを言っていたのも束の間。悲報が飛びこんできた。
昼間の男らが、リゾットを誘拐したらしい。そしてロゼは魔石を持って一人で飛び出してしまったと。コッヒーも後を追ったんだけど、見失っちゃったって・・・さすがのユーリも呆れ顔。お父さんはコッヒーに連れられてここに来て、まぁ、驚かれるよね、お城だし。とりあえずユーリ自身が魔王陛下ってのは明かさないつもりみたいだけど。


「さてどうする?」

「どうするもなにも、決まってるだろ!」


急いで追うぞ!
ユーリの声に頷き、わたしたちは血盟城を出発した。




















盗賊たちと、ロゼと、捕まっているリゾット。見失っちゃったコッヒーに責任をとってもらうわけじゃないけど、不意打ちでリゾットを救出させて、さぁいくぞ!ってときに、茂みからギュンターさんと兵のみなさんがとびだしてきた。どうやらグウェンダルさんが兵を出してくれたそうだ。それにヨザックさんもコッヒーとは別に見張らせていたらしい。抜かりないなぁ。と思っていたら盗賊の頭がロゼから魔石を奪って逃走!急いであとを追った。














町中まで来て、ヨザックさんが頭にとび蹴りを食らわせて、頭の手から離れた魔石をユーリがキャッチ。道を防がれたユーリに屋根の上からヴォルフラムが声を掛けてユーリがそれを投げたけど、魔石はそれて、読んで先回りしたヨザックさんの手の中に。そのヨザックさんのところにも追手が来たけど、それはギュンターさんが引き受けてヨザックさんは走る。ギュンターさん強い!なんてはしゃぐと、「ギュンターは俺の剣の師でもあるんだ」とコンラートが笑った。屋根の上でヨザックさんが矢に狙われて、バランスを崩したところで魔石を落としてしまう。下で待機していたコンラートがそれをキャッチして安全圏。でも、それで終わりはしなかった。


「わー!助けてー!!」


叫び声がきこえてきて、そちらに顔を向ける。コッヒーが網で捉えられて、リゾットが落ちそうになっていた。そうしているうちに追手が集まって来て、万事休すか。突破してリゾットを助けに行こうと身構えた時、上の方から声が聞こえてきた。


「コンラッド!こっちだ!」


ユーリが建物の上から声を上げている。ここからそこに、投げろって言うの?


「しかし、陛下」

「忘れたのか?バッテリーは信頼関係だって!」

「!」

「お前の球ならどんな球でも受け止める。俺を信じて投げろ!」


ユーリの顔は自信と信頼に満ちて輝いていた。


「コンラート、お願い」

「・・・あぁ!」


コンラートが魔石を持って振りかぶり、投げた。と同時にコッヒーとリゾットの手が離れてリゾットが落ちる。走って行くコンラートに背を向けて、わたしは追手たちに向き直った。邪魔はさせない、と意気込んだけど、相手もまだまだ諦めていなかった。今度はロゼを人質にしてきたのだ。どうする、ユーリ・・・!?やめろと叫ぶけど、手は、今の所無い。ロゼが頭の腕を噛んで逃げ出すけど屋根の上。すぐ倒れてしまって、男が剣を振りかぶった。


「やめろぉぉぉ!!」


ユーリの声が響くと、わたしの身体も熱くなる。まるで呼応しているみたいに。そして不意に、ユーリの雰囲気が、変わった。


「なにあれ・・・ユーリ、なの・・・?」

「あぁ・・・ユーリだよ」


なぜか時代がかった口調で文句を言い立て、ユーリは盗賊達に雷を落とした。ユーリ、あんなこともできるんだ。これが、魔王の力なんだ。魔術がどんなものかなんとなく把握はしていたけど、これほどのものとは思っていなかった。思わず自分の手を見つめる。わたしにも、あんな力があるのかな。ふと顔をユーリに戻すと一件落着したようで、いつの間にかのぼっていたコンラートによって力を使い切って眠ったユーリは回収されていた。あれはいわゆる「魔王モード」なんだそうで、今度からそう呼ぶことにした。




















魔石は結局ロゼたちの手に置いたままにしておくことになった。これであの家族はまた落ち着いた生活に戻れるだろう。


「いやぁユーリすごかったねぇ。雷どかーん!って落としてさ」

「そう、だったの?」

「え、覚えてないの?」

「うーん、どうも魔王モードになるとよく覚えてなくてさ」


ぽりぽりと頭を掻くユーリにもったいないと呟く。せっかくの自分の勇姿なのに覚えてないだなんて。


「わたしもあんなの使えたりするのかな」

「お前もユーリと同じなら、使えるだろうな」


答えてくれたヴォルフラムに笑みを返すと、なぜかヴォルフラムが得意げに胸を張った。いつか、使えるのかな。使い方を少しでも間違えてしまうととんでもないことになりそうな気はするけど。楽しみで、少し、こわい。でもわたしにやれることならやりたい。複雑な思いはいろいろあるけど、前を向こうと、笑って見せた。




















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