三兄弟と母



























・・・・・眠れない。
こんな広い部屋に一人で寝るなんてしたことないから、なんだか落ち着かない。庶民なんでね!
さすがにこの辺りは前世の影響は出てくれないらしい。いや、もしかしたら前の人も苦手だったかも。隣のユーリは寝たかな?と小さくノックすると返事が返って来たから、ほっとしながら扉を開けた。けど、そこで一時停止してしまう。


「どうしたんだ?

「あ、うん、だだっ広い部屋で落ち着かなくて・・・・・なんでヴォルフラムくんがここに」


ユーリの部屋もやっぱりベッドは大きくて、ダブルどころかトリプルくらいありそうな大きさ。そのベッドにユーリと、ヴォルフラムくんが座っている。
心の声が漏れてしまったのか、ユーリに「あっ、変な想像してんなよ!?なんもないからな!?」と全否定されてしまった。とりあえず健全なご関係のようだ。


、さっきから気にはなっていたんだが・・・」

「ん?」

「ヴォルフラム“くん”と呼ぶのはよせ。ヴォルフラムでいい」


きょとん。自分で効果音をつけるのんばんだけど、多分これが一番しっくりくる。そして思わず漏れる笑い。


「うん、じゃあ、ヴォルフラムって呼ぶね」

「あぁ、それでいい」


満足げに頷くと、彼はもそもそベッドに潜り込んだ。ベッドの端っこに。そんなにユーリと離れていいの?


「・・・なにをしてる、はやくこい」

「え?」

「え?じゃない。ひとりでは眠れないから来たんだろう?ユーリの隣をゆずってやったんだから、はやくしろっ!」


なんてこった、まさかの事態。だって、ヴォルフラムがいると思わなかったから。ユーリだけだと思ったから。まさか、この歳で赤の他人の男の子と添い寝することになるなんて。まぁこの歳でなんて言っちゃうと、相手は82歳のおじいちゃんなんだけど。でもわたしオトシゴロってやつだと思うんだよね。ユーリもユーリでこういうときに限ってけろっと「寝るぞー」なんてベッドに潜り込むし。これは、腹を括るしかないのか・・・。
ええい渋谷!なるようになる!女は度胸!だ!ヴォルフラムはユーリが好きで、わたしのことはユーリの妹って認識でなんとも思ってないから意識する必要なんてない!よし!
おじゃましまーすとベッドに潜り込むと、あっという間に睡魔が来た。平気そうに感じていたけど、結構疲れてたんだなと思いながら、意識を沈めた。
そして、朝はギュンターさんの悲鳴で目を覚ますのだった。

























妙なスリーショットで寝ていたのを見て悲鳴をあげたのだろうが、いい迷惑である。欠伸をかみ殺しながら身支度を整えて、朝食をいただきにユーリの元へ。コンラートさんも来ていた。どうやら私室ではなく、どこかへ移動する様子。ついていくと、朝食が用意された部屋に到着した。そこにはすでにひとがいて、それはヴォルフムラムと、もうひとりは知らない人だった。渋いおにいさま、と言ったところだろうか。あ、もしかして。ついっとコンラートさんを見ると、頷かれた。このひとはどうしてわたしの考えてることがわかるんだろう。そんなにわかりやすい顔してるのかな。そんなことを思っていると、コンラートさんが彼の近くまで歩いた。


「姫、彼はフォンヴォルテール卿グウェンダル。お察しの通り、俺とヴォルフラムの兄です」


やっぱりー。うわぁまたしても似てない。渋い。でもやっぱり美形だ。あれ?でも今少し・・・。


「は、初めまして、ユーリの双子の妹で、といいます。よろしくお願いします?」

「なんで疑問形なんだよ」

「や、だってわたしがこっちにきたのが間違いだったら、わたしは地球に戻る事になるでしょう?」


だってわたしがここにいる意味ないって事だし。


「・・・おそらくそうはならないだろう」


眉間に皺を寄せたグウェンダルさんが呟く。どういうことですか?と首を傾げると、ギュンターさんの咳ばらいが聞こえた。


「姫に関する手紙が、眞王廟から朝一番で届けられました。姫はまごうことなき姫でした」

「えーと、つまり?」

「姫はなんと、眞王陛下の双子の姫君の生まれ変わりなのです!つまりユーリ陛下の妹君としてお生まれになったのも、こちらに来られたのも、陛下をお支えするためだと、言賜巫女は言っておりました」


シンオウヘイカシンオウヘイカ・・・。“記憶”を掘り起こして出てきたのは、眞魔国の建国者と、ズキリと痛む謎の部分。


「へー!、すごいひとだったんだなぁ」

「でもわたしじゃないし」

「けどさ、がいてくれると心強いよ、ほっとする」


そう言ってゆるく笑う兄に、わたしは弱い。全くこの子は、と文句を言う気にもなれない。


「さて、グウェンダルの紹介も終わりましたし、朝食にしましょうか」


コンラートさんの言葉を合図に席につき、朝食を開始した。




























他愛もない話をしながら朝食をいただく。主にしゃべっているのはユーリとヴォルフラムとわたしで、年長三人は聞き役だ。
朝食も終わりごろの、食後の紅茶を楽しんでいたら、扉が音を立てて開かれた。
・・・・・美人。なんて美しくて麗しいひとなんだろう。朝から露出の高めな服を着て、そのスタイルよくてナイスバディなお身体が強調されて・・・顔はヴォルフラムに似ている気がする。もしかして、お姉さんとか?でもコンラートさんはもうひとり兄がいる、としか言ってなかったし・・・。


「母上!」

「はっ・・・」


母上!?
さすがに予想してなかったよ!?
いや、でもまぁそれならヴォルフラムと似ているのも頷ける。同性でも見惚れてしまいそうなその方を、失礼と思いながらまじまじと見る。その視線に気づいたのか、魅惑の母上様がこちらを見てにこりと笑った。そして、そのまま近寄って来る。


「初めまして。貴女が姫ね?」

「え、は、はい、です、姫、らしいです」


ち、近いですうううううう!胸が!ぎゅって腕抱きしめられたら胸が!!こんなお美しいひと見たことないから心臓が暴れてます!ママ?ママは可愛い系なので!む、胸もこれほどまででは、無いので・・・怒られるかな。


「ふふっ、ほんとに陛下そっくりで可愛らしいお方ね。あたくしもこんな娘が欲しかったわ。もちろん、息子たちも可愛いのだけれど」


思わず“息子さんたち”をちらっと見てしまうと、コンラートさんと目が合った。


「母上、姫が困っていますよ」

「あら、あたくしとしたことが、自己紹介もせずに失礼しましたわ」


言ってやっと彼女はわたしから離れてくれる。ほっと息をつくと、お母さまはスッと背を正して笑った。


「改めて、初めまして、姫。あたくしはフォンシュピッツヴェーグ・ツェツィーリエ。陛下の前任にあたる者ですわ。ツェ、リって呼んでくださいませね」


な、なんて言いにくい名前の方なんだ。遠慮なくツェリ・・・様?って呼ばせてもらおう。ところで前任ってことは、この人、前の王様ってこと?とても王様してたようには見えないけど・・・。
なんて考えてたら、ギュンターさんが王様選定について教えてくれた。眞魔国の王様は血族でも投票制でもなく、眞王陛下がお決めになるのだとか。眞王陛下はもうずっと前に亡くなっているんだけど、眞王廟にその魂がいて、言賜巫女さんだけが眞王陛下の声をきくことができるんだって。普通だったら「ありえなーい」ってなってるだろうけど、あいにくこっちの記憶がちらほらなんとなーく散らばってるわたしはすんなり受け入れてしまった。






























これからどうするか。
この世界に来たことは“間違い”では無かったから、強制送還されることも無い。でもかといってとくにすることはないんだよね。ユーリはギュンターさんに連れられてお勉強とか国政のお仕事とかだし。わたしも勉強した方がいいのかなって思ったけど、基本的なことはすんなり言えてしまったからとりあえず免除になった。眞魔国の地理だとか、十貴族の仕組みだとか、主な人間の国とかね。というわけで、今現在暇人だったりする。


「うーん」

「どうされたんです?唸って」

「暇で」


背後から聞こえてきた声に、振り向かないまま答える。自然と驚かなかったのは、夢で慣れているせいかな。なんせ登場人物二人のうちの一人だし。
コンラートさんは手すりに肘を置いてすがっているわたしの隣に立った。爽やかな微笑みを向けられてなかなか直視できません。


「母上が探しておられましたよ」

「・・・着せ替え人形にされそうだったので逃げてきました」

「捕まるのも時間の問題ですね、きっと」


必死でしたし、諦める様子はありませんでしたから。
さらっと言われてしまって思わずため息が出た。


「なんで母親ってこどもを着せ替え人形にしたがるんでしょうか・・・」

「姫の母上も?」

「小さい時はわたしもユーリもママの着せ替え人形でしたよ。2人してスカート履かされてパパが悲鳴あげかけることがしばしば」


ゆーちゃんは男の子だよ!ってパパが言ってもママは強いからごり押ししてたんだよね。可愛いからいいじゃない!って。


「素敵なご両親じゃないですか」

「まぁ、なんだかんだで仲良いし、良い両親だとは思いますよ。・・・ところで」


ちら、とコンラートさんを見る。気にはなっていたのだ。なんだか違和感もあって。


「コンラートさん、その、わたしに敬語使うの止めません?姫って呼ぶのも」

「お嫌ですか?」

「そう、ですね・・・ほら、コンラートさん、名付け親だし。名付け親が名前呼んでくれないのも、ねぇ?それに、なんか違和感あるんです。コンラートさんにそうやってかしこまられるの」


そういうとコンラートさんはほんの少し困った顔をした。けどすぐにそれは苦笑に変わる。


「やはり双子なんですかね。陛下にもそう言われました。名付け親のくせに、って」

「さすが半身、考えることは一緒だ」


笑うとコンラートさんは観念したように小さく肩をすくめた。


「わかった、。で、いいんだな?」

「はい!」

「ならも、敬語を外してくれないか。呼び捨てで」


そうきたか。年上の・・・しかも魔族年齢で計算すると100歳越えてるような年上の男性にタメ口呼び捨てっていうのはちょっと気が引けるけど、交換条件なら仕方ない。


「わかった、コンラート」

「よかった、俺も少し“違和感”を感じていたんだ」


コンラートも?ときくと、苦笑を返される。なんだろう、コンラートはわたしの前世が誰だったかを知ってるんだろうか。としたら、コンラートはわたしに前世のひとを重ねているのかな。そう考えてしまうと、なんだかさみしくなってきた。


「・・・どうかした?」

「えっ、な、なんでもない」


何か察しさせてしまったらしい。慌てて首を振ると、コンラートはしばらくわたしを見つめていたけど、やがて「それならいいんだけど」と視線を外してくれた。





















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