危ぶむ雲行き




















本来、この場には女は入れないらしい。まぁ顔はユーリと瓜二つだし、・・・悲しいかな、胸はそれほどないから目立たないでしょう。というわけで、ここにいさせてもらってる。
決勝戦のルールはいたってシンプル。代表選手3名が一人ずつ戦って、勝星の多い方が勝利。団体戦と同じだ。ヴォルフラムはユーリは戦わなくていいって言った。先にヴォルフラムとヨザックさんで2勝すれば勝ちだから。

「でも、テンカブに出ようって言い出したのは俺だし、だめでも精一杯頑張れば、」

「死にたいのか?」

「え?」

ユーリは事の大きさをわかっていない。これは確かに親善試合で、スポーツみたいなものだけど、使う得物は本物の剣。殺しが禁じられていても、“事故で死ぬ”ってことも、充分にあり得るんだよ。

「これは遊びじゃない。国の威信がかかった戦いだ」

大シマロンへの歓声が響く。

「そしてあいつは魔族を憎んでいる。その王たるお前に手加減してくれると思っているのか」

何も言えなくて、ユーリの顔が歪んだ。ヨザックさんも、俺達に任せてください、って言う。

「でも、そんなのって、」

「渋谷」

まだ納得できないユーリの肩を、健ちゃんがぽんとたたく。

「君は守られることに慣れなくちゃいけない。王には王の責任があって、絶対に最後まで倒されちゃ駄目だ。でないと、すべてが無駄になる」

これまで積み上げてきたものも、残してきたものも、覚悟したことも、約束したことも。

「ほら、ラスボス倒させるとゲームは終わりだろ?なんてったって渋谷はラスボス中のラスボス、魔王なんだからさ」

ユーリが黙って表情を暗くしたのを見て、健ちゃんが明るく言う。

「相当へなちょこではあるがな」

「へなちょこ言うな!」

よかった、顔色が少し戻った。適材適所だと言われて、ようやくユーリも頷いた。

「ヴォルフラム、ヨザック、頼む」

「あぁ」

「はい」

二人の声を、しっかりきいた。



















それから大シマロン王の演説があって、1人目が出てきた。すらりとヴォルフラムが剣を抜いて、鞘をユーリに預ける。

「これは陛下に」

一瞬わきおこるフラッシュバック。炎がちらりと脳裏にうつった。

「気にするな、単なる気合の問題だ」

けどあの時とは違って、ヴォルフラムの口調は軽い。それにほっと安心して、ヴォルフラムの背中を見送った。相手は両腰に携えた剣を同時に抜く。いわゆる二刀流というやつで。

「二刀流!?まずいぞ!武蔵だ武蔵!」

となぜかユーリのテンションが妙に上がっていた。

「ここって、人間の土地だからヴォルフラムは魔力を使えないんだろ!?どうやってあんなのと!」

「落ちつけ渋谷。ここは確かに法力の高い人間の土地だけど、フォンビーレフェルト卿なら大丈夫だ」

ユーリの焦り声とは反対に、健ちゃんは落ち着いている。ヴォルフラムとは出会ったばかりで実力を見たことが無いはずだけど、わかるものなのかな。

「もっと彼を信頼しなって。婚約者なんだろ?」

「それは関係ないって!」

「でもユーリ、ほんとにヴォルフラムを信じてあげなよ。今までだって、いろいろ助けてくれたでしょ?」

「そう、だけど」

ちら、と背後のヴォルフラムを見る。ちょうど、戦いが開始されたところだった。斬りかかられる剣を、ヴォルフラムはいとも簡単に弾き飛ばす。そしてその首に、剣をあてがった。ヴォルフラムの勝ち、だけど、会場はブーイングの嵐だった。

「これ、あれだね。スポーツでのアウェイなやつ」

「こわいんだよなこれ・・・」

ヴォルフラムが帰ってくるのを見つつ、健ちゃんと呟きあう。

「すごいなヴォルフラム!見なおしたぞ」

「ふん、当たり前だ!」

戻ってきたヴォルフラムはいつもの調子、かと思ったけど、つらそうにベンチにすがりついた。

「気持ち悪い・・・」

「あぁ、法力にあてられたんだね。魔力が高いと余計に気分が悪くなるから」

「やっぱり、無理してたのかお前?」

「お前が出て行くよりは、マシだったろうが」

そう言われてしまってはユーリも返す言葉がなくて黙ってしまう。とりあえずと思ってヴォルフラムの背中をさすりつつ水を渡してあげた。

「そんじゃま、閣下の心意気を無駄にしないために、俺もがんばってみましょっかね」

言いながら、二番手のヨザックさんがフィールドに出て行く。でも相手は、まさかのアーダルベルトさんだった。

「てっきり最後に出てくると思ったけど、違ったね」

「なんか、できる人達の迫力があるな」

「垣根無しに判断して、ヨザックとアーダルベルトの実力は互角だと思う」

「やっぱり、あいつそんなに強いんだ」

強い、と心内で言われた気がした。

「がんばれヨザック!」

「はーあーい!おまかせー!」

ヨザックさんはあくまで明るくふるまっている。と、その直後アーダルベルトさんに斬りかかって行った。けど何か喋っている。それはここまできこえてこない。そして打ち合いが始まった。

「ご苦労様です」

試合を観ていると、そんな健ちゃんの声がきこえて後ろを向いた。その手には紙があって、それを読んだ健ちゃんの表情が変わって外にとびだす。

「やられた!彼は本当に不死身なのかな!?」

上を見ながら指差したところには。

「マキシーン!?と、フリンさん!?」

マキシーンに捕えられたフリンさんがいた。

「彼からの要求は、試合に負ける事だ」

「何!?」

「やっぱり、マキシーンとアーダルベルトはグルだったのか!?だから、こんなことを」

「っ、アーダルベルトは、我々魔族を裏切った男だが、そこまで卑怯な手を使うとは思えない!」

意外、と言うべきなのか。ヴォルフラムの言葉。同意する様に、ロイエさんが反応する。けど、どうしたらいいのか。負けるのもだめ、審判に脅されてるからと申し出るのもだめ。どうしたら。

「いいかユーリ、これは僕の意見だ。あんな女の為に、勝負を投げ出すことはない。ヨザックに充分やらせるべきだ」

「お前らしいよ」

「さらにこれも、僕の意見だ。どうせお前はへなちょこだから、僕の言葉通りになど動かないだろう。ヨザックの後に自分がどうなるかなんて、考えてもいないだろうしな」

「・・・・・ごめん、俺がへなちょこなばかりに。せっかく、一勝してくれたのに」

いつもは怒るへなちょこ呼ばわり。今回はその意味を悟って、認めた。

「そんなへなちょこだと知りながら、僕がなぜお前につくかわかるか?」

「わかりません」

「僕がお前を見捨てる前に、自分の頭で考えろ!」

それがユーリだってわかってるから。そんなユーリに賭けてみたいと思うから。ユーリのまっすぐさが、大好きだから。そうじゃないのと思って口には出さない。

「仕方ないなぁ。まぁそれが魔王陛下の御意思なら、僕はそれを通す方法を考えるよ」

言って健ちゃんが、手信号でヨザックさんに何事かを伝える。それって海でよくやるやつだよね?異世界共通なの?それともこの世界専用のがあるの?なんて思っていたらヨザックさんには伝わったらしくて、何度か打ち合ったあと、ヨザックさんはわざと剣を弾かれた。これで大シマロン側の勝ち。アーダルベルトさんは不服そうだったけど、ヨザックさんは戻ってきた。やっぱりマキシーンとグルではなかったみたい。

「それより、どうします?俺の後は」

「わ、わたしがっ、」

「駄目にきまってんだろ!」

でもそしたらユーリが出ることになっちゃうし、剣は慣れてないけど、ユーリよりはマシかもしれないし。

「相手が剣じゃなければなぁ!」

言ったら相手が剣を手放してくれるわけじゃないんだけど、どうしてもそう思うの。
















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